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外伝:もう一つの異世界なのです!

『貴方は、何処にいますか?』


聞いたことのある女性の声が響く。

重い瞼が、ゆっくりと開く。

真っ暗な世界が広がる。


「ここは、久しぶりね」


懐かしい感じがする。

体の感覚が、じんわりと戻ってくる。

頭の中の靄が晴れてくる。

今まで忘れていた記憶が蘇る。


「あぁ、そうか全て思い出した」


そう呟いて、彼女は記憶の道を遡る。


いつかどこかの異世界の一つ。



「おはよう」


そう言って、リビングに顔を出す。

おはようと、返してきた母親と弟はテレビを見ていた。

いつものように、女神様にお祈りをして、朝ごはんを食べる。


「今日の占い見たいんだけど」


スポーツニュースを見ていた弟から、リモコンを奪った。

いつもの、朝の情報番組にチャンネルを変える。

丁度、占いのコーナーが始まる時間だ。

すると、突然ガタガタと家が揺れた。

地震かなと思ったら、テレビに緊急ニュースが流れ始めた。


〈たった今、我が国の女神研究所の施設が大破し、膨大なエネルギーが暴走を始めました。〉


そんなテロップが流れているテレビには、自分の星座の運勢が最悪だと映っていた。



私の世界には、本当に女神様がいる。

人々は皆、女神様にお祈りをして、女神様に感謝し、小さな加護を受けて生活を送っているのだ。


そして、その女神様に私は会ったことがあるのだ。

私は、昔から貧血が酷く度々倒れることがあった。

でも、倒れた時は必ず真っ暗な世界で目覚め、そこに居る女神様と話すことができた。

いつも、ニコニコと太陽のような優しい笑顔で、私の話を楽しいと聞いてくれた。

こんなこと他人に話しても馬鹿にされるので、いつのまにか誰にも話さなくなった。

誰にも内緒の、秘密の友達。

私は、真っ暗な世界で一人寂しくしていた女神様の友達だった。



私の世界は、各国で女神様の力を研究していた。

女神様の恩恵を、便利なエネルギーのように使っていた。

私の住む国は、女神様の研究に積極的で、様々な結果を出していた。

その技術は、どこよりも一歩先を進み抜きん出ていた。


しかし、その代償は高かった。

ある日の朝、暴走した女神の力が私の住む国を中心に世界に広がり、人の手に負えるはずのないエネルギーは、その世界を一気に蝕み始めた。


10分も経たないうちに、世界は滅亡した。



薄っすらと、意識が戻ってきた。

体の感覚がある。

目を開けたが、何も見えない。


「私は、女神の力の暴走で死んだはず?」


そう声にして、生きているのだと認識した。

私は、貧血で倒れるたびに来ていた、いつもの真っ暗な世界で目を覚ましたのだ。

だけど、いつもいるはずの女神様がいなかった。



どこからか声が聞こえる。


『貴方は、何処にいますか?』


私は、ここにいます。


『貴方は、何処にいますか?』


私は、ここにいます。


『貴方は、何処にいますか?』


私は、ここにいます。でも。


「でも、ここにいたくないです」


そう答えた。


『貴方は、そこにいたのですね』


急に、頭の中がグチャグチャになる。

もの凄い吐き気がする。

体が燃えたように熱くなる。


まるで、自分が自分でなくなるような感覚になる。

意識が薄れてきた。


『貴方は、わたしと一緒になりましょう』


その声は、とても優しく恐ろしいほどの憎悪が込められていた。


『貴方に、女神の祝福があらんことを。』



気が付いた時には、知らない場所にいた。

世界の滅亡を見たのに、真っ暗な世界にいたはずなのに。

なぜか、知らない森の中にいた。


「ここはどこ?」


とりあえず、人がいる所を探そう、そう思ったとき何人もの人に囲まれていた。


「こんな所に、女が一人でいるなんて珍しいな」

「なかなかの美人のようだし、売ったら金になるな」


身なりの汚い男達が、こちらを舐め回すように見ている。


「あ、あの助けてください。ここがどこか分からないの」


とにかく助けを求めた。


「助けてやるさ、ただし俺達の慰み者になるけどな」

「あぁ、たっぷり犯してから、適当な貴族に奴隷として売ってやるさ。上手くすりゃ、そこで飼ってくれるぜ」


なに、慰み者って、犯すって

奴隷ってなに?飼われるってなに?


「あ、あ、あぁ」


男が一人近づいてくる。

醜悪な気を放ち、気持ち悪い声を出す。


「なぁに、痛いのは最初だけさ」


そう言って、男は私の肩に手をかけた。


イヤァァァァァァァァァァァァァァァァッ


そこで私は、私でなくなった。


憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い


人間が憎い。


目の前には、腹部から大量の血を流している男の死体があった。

わたしは、右手に異様な刃を持っていた。


「テメェ、何しやがっ…」


また一つ死体が増えた。

わたしは、手に持った異様な刃を使い、人間を殺した。

武器を持った男達が、次々と向かってきた。

あぁ、たくさん殺せる。

わたしの身体を弄ぼうとする人間を殺せる。



「あは、あはははははははははははっ」


私が、元に戻ったときには異様な刃は無くなっていた。

しかし、周りには幾つもの死体があり、そこは血の海と化していた。

私は、頭がおかしくなったように笑い続けた。


「大丈夫かっ!な、なんだこれは⁉︎」


そんな時、一人の男が現れた。


「君、怪我は無いかい?随分と怖い目にあったようだね。もう大丈夫だから」


そう言って近づく男は、優しい気を放っていた。


「よかった。もう、大丈夫なんだ」


それを最後に、私は意識を、そして忌まわしい記憶を失った。



思い出した。

元の世界ことを。

自分のことを。

女神様のことを。


どうして、あの青年に襲いかかったのか。

どうして、私は狂化してしまうのか。

どうして、女神を探していたのか。


この世界に送られた私は記憶を失い、元の世界の女神様の憎悪をその身に宿してしまったのだ。


森で襲われたときは、自分の身を守るために、女神様の憎悪が現れた。


あの青年と会ったときは、女神様と関係があると思い、女神様の憎悪が反応して襲った。


まさか、探していた女神様が自分に宿っていたとは。

しかも、わたしは女神様の憎悪で狂っていただけだなんて。



絶望に打ちひしがれていると、綺麗な声が聞こえた。


「はじめまして、カグラザカサクラさん」


目の前に、綺麗な女性がいる。


「あなたは?」

「わたくしは、女神エインディベルです」


女神様?


「ふふっ、あなたの世界の女神とは別の存在です」


他にも女神様っていたのね。

そういえば、ニコニコと笑っている笑顔がそっくりだわ。


「ところで、あなたサクジロウに会ってるのね。不思議な縁ですね」

「サクジロウって、あの青年の名前⁉︎」

「えぇ、女神の憎悪で狂ったあなたが襲った青年です」


この女神様は、あの青年のことを知っているのか。


「もちろん知ってますよ。そして、サクジロウは怪我もなく元気なことも」

「狂化した私の攻撃で、怪我しなかったの⁉︎」


武器を持った十数人もの男を、皆殺しにしたほど危険な力だったのに。


「少なくとも、野盗より強いし、わたくしの加護も働きましたから」

「そうなのね、よかった」


あの青年が、無事と分かっただけで安心した。

出来れば、会って謝りたいけど無理そうね。


「ここに来たってことは、死んだのでしょうか?」

「そうですね、それに近い状態です」

「やっぱり、色々謝りたいけど無理なのね」

「いえ、たくさん出血したので貧血状態ね、命に別状はないから体が回復すれば意識は戻りますよ」

「ほ、本当ですか!?」


よかった、動けるようになったら謝りに行こう。


「そこで提案なのですが、あなたに宿った女神の憎悪をなんとかしてあげますので、一つ頼みごとを聞いてくれませんか?」

「えっ、この女神様の憎悪を消せるのですか?」

「いえ、消してしまうと同化してるあなたも存在できなくなってしまうので、狂ってしまう原因の憎悪の力を制御できるようにするのです」


それって、どうなるの?


「つまり、狂うことなく女神の力が使えるのです」

「もし、それが本当なら、何でも頼まれます!」

「頼み事は一つ、元に戻ったらサクジロウの旅を手伝ってほしいのです」


そんなことでいいの?


「たぶん、あなたのいる国が、サクジロウの敵になると思うのです」

「まさかっ⁉︎」

「今は、まだ詳しくは言えないのですが」


まさか、王国騎士団が?いや、ありえない。

もしかすると、王宮魔導師達が何か企んでいるのだろうか。

あれだけ、女神様について執着していたのだからありえる。


「分かりました、私でよければ力になります」

「ありがとう、サクラさん」


そう言って、女神エインディベルが、私に手のひらをかざす。

何かが、心の奥底から抜けていく感じがあった。


『いままでありがとう、そしてごめんね』


とても懐かしい、とても優しい声が聞こえたような気がした。


「これで、もう大丈夫です」


すると、体が透けてきた。


「もう時間ですね、それではサクジロウを頼みますね」

「ありがとうございます、女神エインディベル様。必ず約束は守ります」


そう言うと、意識が遠くなっていく。



目覚めると、そこは騎士団の治療室だった。


「おぉ、やっと目が覚めたか」


そこには、聖騎士ラーディン様がいた。


「あ、あの青年、サクジロウは?」


女神様との約束を思い出し、聞いてみた。


「あの青年なら、三日前に王都を出たよ」


そうか、出て行ってしまったか。

ならば、すぐにでも追いかけないと。

そう思ったが、全身に痛みが走り動けない。


「無理するな、その体ではとうぶん動けまい。しっかり回復するまでは休んでいなさい」


そう言って、ラーディン様は部屋から出て行った。



それから、数日が経ち暑い季節になった。

体も回復し、鈍った体も訓練で鍛えなおした。


「失礼します」

「おぉ、サクラ今日はどうした?」

「今日は、ラーディン様にお話を聞いていただきたく参りました」


私は、女神様との約束を果たす。


「ん、話とは?」

「今日をもって、騎士団を辞めたいと思います」


これから、サクジロウを追いかけて、旅の手助けをするのだから。


『どうか、サクラにわたしの祝福があらんことを。』


サクラの世界と過去の話でした。


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