サクジロウのチカラなのです!
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とりあえず様子を見る。
巨大な猿モンスターは、興奮してこちらを睨んでいる。
丸太のような腕を振り回しながら、威嚇をしはじめた。
「女神のチカラを、見せてやるのです!」
そう言って、ディベルが杖を掲げ、青白い光の球を幾つも作り出す。
「くらえなのです!」
叫ぶと同時に、光の球から幾つも連なって光の筋が伸び、猿モンスターに命中する。
やはり貫くことはないが、光が破裂しダメージを与えることが出来た。
すると、猿モンスターが牙を剥き出しにして吼える。
まずい、このままだとディベルが攻撃目標になっちまう。
俺は一気に駆け出し脚を切り裂く、さらに加速しフェイントで翻弄し背後に回り込む。
ダガーを滑らせ、背中を縦に大きく切り裂いた、手応えはあった、かなりのダメージを与えたはずだと思ったが。
切り裂いたはずの、脚が治っている。
よく見ると、背中の傷もみるみる治っていく。
な、なんて回復力だ。
「サクジロウ、あの猿モンスターから変な力を感じるのです」
変な力?
俺は、猿モンスターの攻撃を躱しながら切り裂いていく。
だが、どんな傷も治るのが早く、致命傷にならない。
「ダメなのです、傷が回復されると、さらに変な力が強くなるのです。たぶん、その変な力で無理やり回復させられてるのです!」
なるほど、理由は分からんが、この猿モンスター謎の力で改造されてるって可能性があるのか。
よく見ると、異常な量のよだれを垂らし、俺が攻撃で切り裂いた場所が蠢き、筋肉が隆起している。
大きさも、一回りぐらい大きくなったようだ。
どうする?このまま戦っていても、消耗するのはこちらだけ。
オルトガ師匠達が来てくれれば、状況を変えられるか?
「これでも、くらうのですっ!」
ディベルも、俺の攻撃の隙間を狙って、魔法で援護してくれている。
「どうやら、女神の魔法はダメージが与えられるようだ。魔法が破裂したところは回復してない。それなら、初めて魔法は見せてくれた時みたいな、巨大な光の帯で攻撃出来ないのか?」
あれならば、かなりのダメージを与えられるはず!
「ダメなのです、完全に最適化されたので、あの時のようなチカラは出せないのです」
あぁ、こんなところでぽんこつ化が弊害を招いたか。
くっ、他に何か弱点はないのか?
そんなことを考えながら、猿モンスターの攻撃を躱すことに集中する。
すると、猿モンスターが、殴りかかろうと振り上げた腕が、切り裂かれ吹き飛ばされた!?
「よっ、またせたな」
オルトガ師匠が、そう言っていつもの木刀で、吹き飛んだ猿モンスターの腕を、さらに切り裂いた。
「遅れてすみません」
鈍い音と共に、ツェイスさんが猿モンスターの頭を槍で叩き潰していた。
「主役は、遅れてやってくるものなのよ!」
猿モンスターに無数の矢が刺さり、それを放ったサナエさんが高台でポーズを決めている。
猿モンスターの動きが鈍り、そこにはディベルの魔法の光が叩き込まれる。
「みんな、遅いのです」
「プヒーッ」
とにかく、あの猿モンスターの異常回復と再生のことを、みんなに伝えなくては。
陣形を整え、先ほどの戦いの状況と猿モンスターの詳細を話した。
「なるほどな、そんなに異常なモンスターだったのか」
「すでに、先ほど潰した頭が治ってますね」
猿モンスターの頭が、形は変わっているが一回り大きくなり、その顔はさらに醜くなっていた。
何だか分からない液体を吹き出しているのも不気味だ。
オルトガ師匠が切り裂いた腕は、肉片になって地面で蠢いているが、肩口の方は肉塊が集まり腕を形作っていた。
「ちっ、腕も再生してきやがった、マジでバケモンかよ」
とにかく、何か弱点はないかと攻撃してみるが、結局致命的なダメージを与えることが出来ず、手詰まりになってきた。
まずいな、このまま消耗戦続けていても埒が明かない。
「オルトガ師匠、撤退しましょう!俺が時間を稼ぎます、みんなを連れて逃げてください」
俺は、そう叫んで猿モンスターに突撃する!
「バカ野郎、それは俺の役目だ!お前らが逃げろっ!」
「僕たちのことは、気にしないでください!」
「そうよ、一人でカッコつけないでよね!」
そう言って、ツェイスさんとサナエが、再び攻撃する。
「それじゃダメだ!このメンバーで一番強いオルトガ師匠が先導しないと、逃げた先で何かあった時、対処しようがない。撤退して、安全が確保出来ないんじゃ意味がない。
せめて、ツェイスさんと、サナエさんだけでも、確実に逃がさないと!」
とにかく撤退をしないと全滅になってしまう。
「ダメなのです!サクジロウも、一緒に逃げるのですっ!」
そう言って、ディベルが光の球を作り出し、猿モンスターに向けて光の筋が伸びる。
頭に直撃をくらった猿モンスターが、ディベルに狙いを定めた。
まずいっ!?
ディベルに向かって、猿モンスターは肉塊の腕を振り上げる。
間に合え、間に合え、間に合え!
俺は、駆け込みディベル抱き上げ、そのままの勢いでオルトガ師匠に向かって放り投げた。
ごめん、アレキサンダーもと思ったが、間に合わなかった。
目の前に、猿モンスターの巨大に膨れた腕が迫る。
くっ、こんなところでおしまいなのか!?
自分の無力さを実感し、後悔していた時にそれは起こった。
猿モンスターの攻撃が俺に当たることはなかった。
ゆっくりと振り下ろされた腕が在らぬ方へ、叩きつけられていた。
「これは、以前女騎士と戦ったときに起きた現象か!?」
ゆっくりと何度も腕が叩きつけられたが、全て俺の横を素通りして当たることはなかった。
もちろん、俺の体も動かないので、視線だけでみんなの方を見る。
オルトガ師匠に、抱き留められながら泣き叫んでいるディベルが見える。
「サクジロウ、ダメなのですっ!」
無音の世界で、なぜかディベルの声が聞こえた。
ぽんこつだけど、さすが女神だな。
この訳のわからない現象の中に割り込んでこれるのか。
何度も何度も、俺の名を呼ぶ声がいたたまれない。
「ごめんな、お前に悲しい思いをさせちまうな。できれば、泣かせたくないと思ってたんだけどなぁ」
俺は、そう言って頭を掻きながら謝った。
しかし、この現象はいつまで続くんだ?
このまま終わらないのも困るし。
もし、終わったとしても、猿モンスターが攻撃続けていたら、当たって死んじゃうよな?
前回、サクラとかいう女騎士と戦った時は、体の限界で相手の攻撃が止んだから助かったのだ。
どうしたものかと、頭を傾げながら考える。
すると、目の前に先ほどの攻撃でサナエさんが撃ち放った矢があった。
「うおっ、危ないなぁ。今頃、飛んでくるなんて」
そう言って、目の前をゆっくりと動いている矢を掴んだ。
矢を掴んだ。
矢を・・・掴んだ?
えっ、体が動いてる!
まさか、この現象中に動けるなんて、いったいいつからだ?
「周りは、ゆっくりのままなのに、俺は普通に動けている」
やはり、これがチート能力なのかっ!
この異世界に転生して、100日以上過ごして、厳しい修業に耐え、ようやく俺のターンが来た!
ゆっくりの時間の中、俺だけ普通に動けるなんて無敵じゃないかっ!
理由は分からないが、やはりこれは女神のチカラだろう。
この現象の中で、ディベルの声が聞こえた。
そして、そのあたりで動けていたからな。
「よし、これなら猿モンスターの異常回復を上回る速度で、ダメージを与えられるな!」
とにかく、足下にいるアレキサンダーを安全な場所に移動させる。
今も、ゆっくりと地面を叩きつけている、猿モンスターを前にする。
ダガーを、二本構える。
今まで、鬱憤を倍にて返してやる!
まずは、肉塊の腕を斬り裂く!
何度も同じ所にダガーを滑らせ、いともあっさりと斬り裂いた。
ゆっくりと落下する肉塊の腕。それは地面に落ちることなく、何度も斬り裂き肉片に変える。
これだけ細くすれば、回復も再生も追いつくまい。
もう片方の腕も斬り裂く、幾重にもスライスして蹴り飛ばす。
脚を斬り裂き、胴体を斬り裂く、幾重にもダガーが走り、滑るように刃がその跡をつける。
さらに、頭に力の限りダガーを、叩きつけるようにぶっ刺す!
「思いのほか、スッキリしたぜ!」
四肢を切り取られた猿モンスターは、体だけがゆっくりと蠢いている。
とりあえず、トドメの為に胸を切り裂き、さらに心臓を幾度も斬りつける。
すると、ダガーに何か当たるものがあり、心臓を切り開いてみた。
心臓の中に、真っ黒い石があった。
「なんだこりゃ、宝石かな?」
その、真っ黒に輝く宝石を取り出すと、ひびが入っていたのか軽い音を立てて割れてしまった。
すると、ゆっくりだが蠢いていた猿モンスターの肉塊が動かなくなった。
再生も回復も止まったようだ。
「これが原因なのか?」
とりあえず、割れた黒い宝石をしまった。
サクジロウが、俺に嬢ちゃんを投げて寄越したと同時に、その場所を猿モンスターの肉塊の腕が、何度も何度も叩きつけた。
「サクジロウ、ダメなのですっ!」
嬢ちゃんが、俺を押しのけて駆け寄ろうとするが、制止する。
抱き留められながら、ディベルは泣き叫んでいる、何度も何度もサクジロウの名前を呼びながら。
猿モンスターが、何度も肉塊の腕を叩きつける様子を見て、何もすることができなかった。
あいつに師匠なんて呼ばせておいて、救うことが出来なかった。
だから、今俺に出来ることは、猿モンスターが狂ってるうちに逃げることだ。
これは、サクジロウが作ったチャンスなのだから。
「あいつが、気付く前に逃げるぞっ!」
「サクジロウ君はっ」
「そうよ、サクジロウ君も、アレキサンダーちゃんもまだっ!」
「これは、サクジロウが作ったチャンスだ!今しか、今しか逃げ切ることは出来ない」
いまだ嬢ちゃんは、腕の中で泣き叫んでいる。
「サクジロウっ!」
「サクジロウっ!」
「サクジロウっ!」
「サクジロウっ!」
「サクジロウっ!」
「サクジロウっ!」
その叫びは、心に痛みを生むが止む得ない。
「サクジローーーーーーーーーーーっ!」
ひときわ大きく、嬢ちゃんが叫ぶ。
すると、猿モンスターの肉塊の腕が、吹き飛んで木っ端微塵になった。
さらに、もう片方の腕が、いきなり空中でスライスされて、あちこちに落ちて肉片と化す。
よく見ると頭は潰れ血が噴き出して、体も斬り刻まれて本当の肉塊になっていた。
気がつけば、突然辺り一面土煙が立ちこめ、あちこちに肉片と血が飛び散っている。
「な、なにが起こったんですか!?」
「私も、分からないわよ」
俺にも、何が何だか分からねぇ。
風が吹き土煙が晴れると、そこにはダガーを二本携えた無傷のままのサクジロウが立っていた。
「サクジロウっ!」
そう言って、ディベルがかけ寄り抱きついてくる。
「サクジロウ、生きてるのです?大丈夫なのです?怪我はないのです?」
ペタペタと、俺の体中を弄り確認をする。
大丈夫だと離そうとするが、くっついて離れない。
「プヒーッ!」
おっ、アレキサンダーも気がついて戻ってきたな。
「サクジロウ君、大丈夫なのか?」
「サクジロウ君も、アレキサンダーちゃんも生きてたよ!」
ツェイスさんも、サナエさんも駆け寄ってきた。
「心配かけました、もう大丈夫です」
「あれは、猿モンスターはどうなったんだ」
オルトガ師匠が、慌てて聞いてきた。
とにかく、もう回復も再生もしないと伝える。
出来るだけ現場から離れ、安全を確認して遺跡の中で休めそうな場所を探す。
形の残っている建物の中で一息つき状況を整理することにした。
「お前、あの現象が起きたのか?」
ようやく、ディベルが離れたところで、オルトガ師匠が聞いてきた。
キャンプの準備をしている他の三人に聞かれないように話す。
「はい、ただ前回と違ったのは、俺が動くことが出来たということですね」
「動くことが出来たのか!?」
「なぜ動けたのかは、理由は分からないですが」
「なるほどな。その現象中で動けたから、猿モンスターをあんな風に殺せたのか」
「えぇ、とにかく再生出来なくなるようにと、無我夢中で切り刻みました」
とりあえず、あの時の状況で起こったことを話す。
ただ、女神のチカラと動けたことが関係していると思うが、それはまだオルトガ師匠には話せない。
「それはともかく、これを見てください」
そう言って、あの真っ黒い宝石をオルトガ師匠に見せた。
「これは?」
「猿モンスターの、心臓の中にあったものです」
「なに?」
「心臓の中にあった時は、輝いてましたが。そこから抜き取ったら、割れて猿モンスターの再生が止まりました」
「じゃあ、これが原因なのか」
この、真っ黒い宝石が何なのか謎だ。
ディベルなら、これが何か分かるだろうか?
とにかく、今は生きていたことに、感謝するべきか。
サクジロウの本当の力が目覚める。
今回、書き終わる直前で文章が消えてしまいました。
バックアップは大切ですね。




