ギルドってこんなのです!
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「ようこそ、メルオルギルドへ。私が、ここのギルドマスターのバマスだ」
奥の部屋に案内され、入ると一人の男がいた。
軽く挨拶を交わし、座るように促される。
「あんたが、ここの責任者か。で、俺達に何か用か?」
オルトガ師匠が、訝しげな顔で言った。
まぁ、これから色々やろうとしてるところに横槍を入れられたんだ、機嫌が悪くもなる。
「いや、職員からガナンドカードを持つ冒険者が来たと聞かされたのでな。一介の冒険者が、そのカードを持っているはずがないので、私が直々に尋問をすることにしたんだ」
「なるほど、あんたは俺達がこのカードを不正に手に入れた、つまり盗んだと言いたいんだな」
案の定、面倒ごとになった。
なるほど、ガナンドカードはただの冒険者が持ってはいけないアイテムなのね。
こんなとこで、ディベルのぽんこつが発動するとはな。
「正直に言ったほうが身のためだぞ、ガナンド商会と言えば、このキレスウェイン公国全土に展開し様々な組合と繋がりがあるのだ、このことが知れればお前達はキレスウェイン公国にはいられなくなる」
なるほど、ギルドマスターの口ぶりだと、ガナンドさんの影響力は国全体に及ぶんだな。あの人は、本当にただの商人なのか?
「それで、もしそれが正式に俺たちが貰ったものだとしたら、お前はどう責任取るつもりだ?ギルドマスターとしても、責任重大だろう。誤認で処罰したなんて広がれば、ギルド自体が危ぶまれるぞ」
「そんなことあるわけなかろう。はじめてギルドへ来るような奴らが、このカードを持っていること自体が問題だ。このカード没収した上でお前らは牢獄にぶち込んでやる!」
そう怒鳴りつけた瞬間、カードを持ったギルドマスターの腕が、体からサヨナラしていた。
さすがオルトガ師匠、木刀なのに凄い切れ味だ。
「悪いが、これは大切な友人のガナンドから直接もらった物なんでね」
オルトガ師匠は、そう言って空中に舞うガナンドカードを手に取る。
「これは、大切なものなのです」
「プヒーッ」
ディベルが、オルトガ師匠からカードを受け取り怒っている。
アレキサンダーも、カンカンだ。
「お前ら、ギルドマスターにこんなことして、タダで済むと思うなよ!」
「そう言ってるが、どうするサクジロウ?」
そんなこと言われてもなぁ。
しかし、腕を切り落とされても叫び声一つあげないとは、さすがギルドマスターを任されるだけのことはあるんだな。
とりあえず、扉の向こうにいるだろう先程の職員に声をかける。
ギルドマスターがオルトガ師匠に殺される前に、ホテルにいるガナンドさんを呼んでくるようにと。
「さて、詫びるなら命は助けてやろう。お前のやったことは、俺達とガナンドを侮辱したんだ。しかも、カードを私物化しようしたしな、片腕だけで許そうという寛大な措置に感謝しろよ」
「そうなのです、何様のつもりなのです!」
「プヒーッ、プヒーッ!」
そんな言葉も耳に届かないのか、ギルドマスターは壁に掛かった斧を取り構えた。
「お前ら、全員この場で処刑だぁ!」
まずいなぁ、このままだと本当にオルトガ師匠がギルドマスターを殺してしまう。
それはそれで、後々面倒だ。
なんとか穏便にすませる方法はないかと思案していると。
「くらえ、なのです!」
いきなり、ディベルがそう言い放ち、魔法を放っていた。
多数現れた青白い光の球から、幾つもの光の筋が伸びる。
ディベルの、魔法の直撃を受けたギルドマスターが、その場に崩れ落ちる。
トドメと言わんばかりに、アレキサンダーが突撃していた。
「ししょーの手を煩わすほどでもないのです!」
「プヒーッ!」
ぽんこつ女神が、いつの間にか好戦的になっているのに驚いた、いや前からこんな性格か。
いきなり魔法ぶっ放すのは、女神の嗜みなんですよね。
まぁ、いいんだけどさ。
オルトガ師匠は、よくやったと言わんばかりにディベルの頭を撫でている。
褒められたポンコツ女神が、いつものように踏ん反り返りポーズを決めている。
「まぁ、殺さなかっただけマシか」
そう言いながら、俺はギルドマスターの状態を確認する。
どうやら、アレキサンダーの突撃で気絶したようだ。
とにかく、ギルドマスターの切れた腕の部分を止血しつつ今後のことを考える。
すると、バタバタと大勢の足音が聞こえてくきた。
「オルトガ、大丈夫ですか?」
「あぁ、俺達は無事だ」
扉が開きガナンドが、声を掛けながら駆け寄ってきた。
自警団も、一緒に来たようだ。
他の職員が呼んだのか、後から何人か魔導師とギルド職員が現れ、ギルドマスターの所に駆け寄り救急処置をはじめた。
まぁ、気絶してるだけだが。腕は諦めてくれ。
「すみません、こんな事態になるなんて」
ガナンドさんが、何度も何度と頭をさげる。
「いや、ガナンドが悪いわけじゃないだろ?ここのギルドマスターが横暴で、全く話を聞かないどころか、罪を捏造して犯罪者扱いしてきたのが悪いんだぞ」
「そうなのです、大切なカードを奪おうとしたのです」
「プヒーッ」
「ここのギルドは、どう責任取るつもりなのかな?あっ、こうなった事情は、そこにいる女性職員が全部知ってるから、自警団が連行してね。それと、他のギルドに通達もね」
「ガナンド商会の関係各所にも連絡を入れておきます」
そう言って、ガナンドさんが一緒にいた秘書らしき人と話をはじめた。
自警団に拘束された何人かのギルド職員の顔が真っ青になっている。
ギルドは、この国に必要な組織だが、ガナンド商会に後ろ足で砂をかけるようなことをしでかした。
今後、立場は悪くなるだろうな、俺は知ったこっちゃないけど。
「なんで、ここのギルドはこんなバカをギルドマスターにしたんだ。こいつは、他にも何か黒いことしてんじゃないのか?」
オルトガ師匠が、苛立ちながらギルド職員に怒鳴りつけていた。
結局、メルオルギルドの職員は、全員自警団に連行された。
どうやら、あの女性職員が色々吐いたらしい。
メルオルギルド自体が、不正の温床だったらしい。
ぽんこつ女神さまさまだな。
数日後、中央ギルドから職員が派遣されてた。
早いなと思ったら、伝達の魔法なんて便利なものがあるみたいだ。
俺達の所には、中央ギルドのお偉いさん達が謝罪に来た。
これを機に、他のギルドも監査を入れるそうだ。
侘びの品として持ってきたのは、ギルド上位ランクの紀章だった。
貰っていいものかな?俺は、何もしてないのにね。
しかし、新たな大陸での最初の出来事が、こんな事になるとは、ますます不安が募る。
はぁ、これから楽しい冒険が待っていると思っていたのになぁ。
この後、ギルドが通常業務が出来るようになるまで三日かかった。
何かしら面倒ごとに巻き込まれます。
早く冒険したいのです。




