サクジロウVSディベルなのです!
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あれから、調書は適当に書いて釈放された。
理由は分からないが、この国のお偉いさん方は女神を探しているみたいだな。
「昼も過ぎちまったな、そこの食堂で飯食っていこうぜ」
そういって、道場に直帰せずオルトガ師匠が昼食に誘ってきた。
たぶん、あの戦いで女騎士の攻撃を受けても、俺が無傷だったことを聞きたいのだろう。
適当に注文して、オルトガ師匠が口を開く。
「とにかく、あの女騎士のことは分かった。だが、俺はお前の方が謎だ、あの攻撃を受けて無傷だったからな。流石に俺もヤバイと思った攻撃だ、サクジロウが強くなったのは分かっていたが、それでも無傷で済む攻撃とは思えなかった」
運ばれてきた料理をつまみながら、真剣な目でこちらを見ている。
正直に言ってしまおう。
「こんなこと言っても、信じてもらえないかもしれませんが。あのとき、女騎士の剣が目の前に迫ってマズイと思った瞬間動きがゆっくりになったんですよ」
「動きがゆっくりだと?」
「はい、しかも攻撃は俺に当たることなく、ゆっくりと横を素通りしていったんです。まるで最初からそこを狙ったかのように、見当違いの場所に何度も攻撃していました」
「それは、武人が持つ『心眼』と似ているな。武人が持つ極みの技で、攻撃の軌道や相手の動きが予め見えるから躱すことができるらしい」
たぶん、特訓中オルトガ師匠に俺の攻撃が全く当たらないのも、ディベルの魔法を後ろ向きのまま躱してたのも『心眼』を持っているからだな。
「そんな技があるんですね。ただ、俺の場合は問題があって、なぜかそのときは全く体が動かなかったんです。」
「なんだそりゃ?体は動かないのに、あの攻撃を躱していったてことか。だとすると『心眼』とは違うのか」
「俺が躱すっていうより、女騎士が外していたって方が正しいですね」
あの攻撃で、女騎士の剣は確実に俺を捉えていた。
しかし、当たる寸前に違う場所を攻撃していた。
可能性があるとするなら女神の力だが、不確定要素が多すぎて断定できない。そうだとしても、まだ女神のことは話せない。
「正直、なんなのか分かりません。もしかしたら、女騎士は体が限界で正確に当てることができなかったのかも」
「だとしたら、かなり強運だな。だが、サクジロウが分からんならどうしようもねぇな」
オルトガ師匠は、少し呆れ顔で言った。
「それで、他にも何かあるんだろ?でなければ、あのラーディンが防音室まで用意するような、まわりくどいやり方しねぇからな。女騎士の異常な狂戦士化と、サクジロウが関連性あると考えてたんだろうな」
「すみません、今は言えないです」
「お嬢ちゃんと、旅する理由に関係するのか?」
それでも、オルトガ師匠は突っ込んで聞いてくる。
興味本位でなく、心配しているからだろう。
でも、話せば巻き込んでしまうかもしれない、国に目を付けられたりしたら、オルトガ師匠の街での生活にも支障が出る。
「そうか、言えないならしかたない。まぁ、それでも俺はお前の味方だ、何かあったら話してくれ」
「ありがとうございます」
「さぁて、お嬢ちゃんも待ちくたびれてるだろうから、とっとと飯食って帰るか」
俺は、オルトガ師匠の一言に嬉しくなった。
この人の弟子になって良かったと心から思った。
道場に帰ると、そこはとんでもないことになっていた。
人形の残骸が、庭や道場のそこかしこに散乱しているのだ!?
「いったい何があったんだ!?この人形がバラバラになってるなんて、そう簡単に壊せる代物じゃないぞ」
オルトガ師匠が驚いている。
確かに、俺が特訓で何度も打ち込みに使っているけど、どれ一つ壊れたことがなかった。
「あっ、サクジロウが帰ってきたのです!」
「プヒーッ!」
ディベルが、いつものニコニコ笑顔で出てきた。
アレキサンダーも一緒だ。
これは一体どういうことだ?
そう問い詰めると、踏ん反り返りポーズをして言った。
「わたくし達も、特訓をしていたのです!」
「プヒーッ!」
だからと言って、この状況はどう説明するんだ。
ディベルの頭に手刀をくらわす、なんだか久しぶりな気がする。
とにかく片付けないと、俺の特訓ができない。
「で、お嬢ちゃんはどんな特訓してたんだ?」
「そうなのです!魔法の特訓をしていたのです」
オルトガ師匠が、ディベルと楽しそうに話している。
いいから、片付けを手伝ってくれませんか。
「なるほど、一人で特訓していたのか偉いぞ。そうだとしても、この数の人形が無残な姿になってるのはなぜだ?」
「アレキサンダーも一緒に特訓したのです!だけど何度も魔法使ったら壊れてしまったのです。ごめんなさいなのです」
「まぁ、まだ他に人形はあるし、素直に謝ってくれたから許そう」
オルトガ師匠はディベルに甘い。
そのうち調子に乗って、絶対にやからすまでがセットだ。
「特訓して、凄い魔法を編み出したのです」
「ほほう、それは楽しみだ、いったいどんなんだ?」
「今から見せてあげるのです!サクジロウも手伝ってほしいのです」
えっ、俺が手伝うの?
なんか嫌な予感しかしないんだけど。
「いいから、そっちに立ってくださいなのです」
つまり、的になれってことですね。
あ、もうすでに杖を構えてる。青白い光が杖に集まっ…集まってるが、その数は八つだ!?
「すげぇぞ、嬢ちゃん!まさか複数同時展開とか驚きだ!」
オルトガ師匠が、興奮してるのをはじめて見た。
それはさておき、八つの光の球が輝きながらディベルの周りに浮いてキラキラと輝く粒子を纏い、まるで女神のように見える!?
そして、ディベルが頭上高く掲げた杖を振り降ろす!
「くらうのです!サクジロウデストロイビューティフルガッデス美少女女神殺人光線!必ず、サクジロウは死ぬ!」
「何その名前!?長いし、色々意味が被ってるし、そもそも殺人とか物騒だ、最後に俺は死ぬって言った、死ぬって言ったよね?そんな魔法くらいたくねぇよ!」
八つの光の球から光の筋が生まれる、なぜか二筋も!
合計十六の光の筋が、俺めがけて迫り来る。
「ふざけるな、こんなのくらってたまるか!」
俺はその場から逃げた。
そう、俺はこの魔法の弱点を知っている!
ディベルの魔法の光は直線に伸びる、だから当たる寸前で躱せばいい!
しかし、次々と襲いかかる光を巧みに躱すが、光の筋の攻撃が終わることがない。
よく見ると躱した光の筋がカーブを描き戻ってきた!?
「本当にすげぇぞ!光の筋が倍に増えて、さらに追尾性があるのか!」
オルトガ師匠は拍手しながら跳んでいる。
「無駄なのです!この魔法はサクジロウに当たるまで止まらないのです!」
俺に当たるまでって。
なら、全て迎撃してやる。
短木刀を構え、光の筋を迎え討つ。
「ならば、襲いかかってくる光の筋を叩き落とす!」
「さすがなのです。ですがサクジロウが、わたくしを崇め奉り足を舐めされるために、ここで引くことはできないのです!」
なにそれ、足を舐めるってなに!?
ディベルは、わけの分からないことを叫びながら、さらに光の球を増やしていく。
これ以上増えたら対処できない。
ならば、魔法が放たれる前に決着つける!
縦横無尽に光の筋が舞う中に一気に飛び込む、幾つか直撃したが無視して懐に飛び込んだ。
くらえ!渾身の手刀を!
「ふんはっ!?」
ディベルが間の抜けた声を出し蹲る。光の球が空中で霧散する。
俺の勝ちだ。
「痛いのです。サクジロウに足を舐めさせたかったのに」
まただ、なんだよそれ、怖ぇよ。足を舐めるとか、俺の知らないところで何の契約が交わされてたんだ。
「しかし、すげぇな!お嬢ちゃんがここまでやるとは思わなかったわ」
「ししょー、ありがとうなのです!」
「これじゃ、サクジロウもおちおちしてられねぇな」
オルトガ師匠がディベル褒めながら、帰りの途中で買ってきたお土産を渡していた。
「次こそは、サクジロウに勝つのです!」
「プヒーップヒーッ!」
えっ、俺に勝つのが目的なの?
とにかく、ディベルもこれ程までに強くなったのなら旅を再開してもいいだろう。
明日、オルトガ師匠に話しようと思った。
パワーアップしたディベルと、サクジロウの対決です。
当てるのが目的なので、魔法のダメージは余りないはずです。人形は古かったから壊れたのです。
王都編クライマックスです




