交差する思惑なのです!
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突然女騎士が叫び襲いかかってきた。
先程までの凛とした姿ではなく、まるで鬼のような形相で襲いかかってきたのだ。
「なっ!?」
いきなりのことで驚いたが、冷静に対処した。
初撃を躱し、右にフェイントを入れる。
案の定、釣られた女騎士は隙を見せた。
相手の懐に深く入り込み、ガラ空きのところを肩から弾けるように体当たりをくらわす!
そのままの勢いで、浮き上がる女騎士のみぞおちに短木刀を突き立てる。
女騎士の口から唾が飛び、くの字に曲がり吹き飛んだ!
さらに踏み込み、受身を取られる前に顔に掌底打ちを放つが躱された。
女騎士が、こちらを睨み距離を縮めてきた。
先程より速いが、躱せる速さだ。
横薙ぎの剣戟を紙一重で躱す。
二撃目の剣が振り下ろされるが、相手の懐に滑るように体を入れ替えて躱す。
前後左右から、いい加減な剣戟が繰り出される。
相手の動きを予測して先に動き、全ての攻撃を躱す。
常人を超えた動きで攻撃してくるが、女騎士の体が耐えられないようだ。
「おいおいマジか!?」
女騎士の脚は、内出血を起こし赤紫に染まっている。
だが、止まらない。
さらに加速し、剣戟が放たれる。
「マズイな。サクジロウ逃げろ、その騎士の姉ちゃんの攻撃はヤバい!」
オルトガ師匠が叫ぶが間に合わない。
全方位から、金属の獣が襲いかかってくる。
とんでもない速さから放たれた何重もの剣戟が牙を剥いてきた。
まずい!?これは躱せい!
そう思って防御の体勢をとるが、女騎士の放った攻撃がとんでもなく遅く見えるのだ。
「いったい何がどうなってるんだ?」
なぜか俺の体が動かないのだ!?
防御も出来ず焦っていると、女騎士の剣は俺に当たることなく素通りする。
ゆっくりと剣が動きながら何度も攻撃を重ねるが、どれも当たることなく素通りしていた。
どのくらい時間が経っただろうか?
それは、突然に終わった。
目を凝らすと、少し離れたところで女騎士が止まっている。
見れば、満身創痍でボロボロだ。脚からおびただしい程血が流れている。
操り人形の糸が切れたかのように、ゆっくりと女騎士の体が崩れる。
「おいおい、とんでもねぇな!?大丈夫か?」
オルトガ師匠が、叫びながら駆け寄ってきた。
元に戻っている。
「サクジロウ、なんでお前無傷なんだ?あの攻撃を全て避けたのか、我が弟子ながら恐ろしいな」
まるで、俺が化け物ような言い方だ。
「それについては、後で説明します。それより女騎士の方が危険な状態です!」
「そうか、じゃあ騎士団の誰かと、回復魔法使える魔導師を呼んできてくれ」
そう言って、オルトガ師匠は女騎士に応急処置をはじめた。
すでに騒動があったことが通報されており、すぐに騎士団と魔導師もやってきた。
とりあえず、女騎士は大丈夫のようだ。身体中ボロボロだが、命に関わるほどじゃないそうだ。
しかし、それで終わらない。
「一人の騎士が、一般人相手に街中で暴れたんだ、これから面倒くせぇぞ」
オルトガ師匠が、顎をさすりながら溜息をついている。
すると騎士が近づいてきた。
「すみません、ご同行願いします」
「やっぱり、行かなくちゃダメか?」
「ダメです、オルトガ殿。さすがに、今回はただの賭け試合と違って負傷者を出してしまいましたから」
女騎士の方から仕掛けてきたんだけどなぁ。
やはり騎士と戦った挙句、自滅とはいえ怪我を負わしてしまったのはマズかったみたいだ。
「なら、悪いが聖騎士様にも連絡しておいてくれ。悪いが俺の方も問い詰めたいことがあるからな」
オルトガ師匠が騎士にそう伝える。
そして、俺とオルトガ師匠は別の騎士に連れて行かれた。
そこは、お城だった。
といっても、王様がいる王宮内ではなく騎士団の施設がある城外の方だ。
調書を取るためだけに、こんなところに連れてくるかね?
そこそこ狭い部屋に案内されて、そろそろ四半刻程経つ。
「おせえなぁ、いつまで待たせるつもりだ」
オルトガ師匠が、とうとう愚痴り始めた。
すると、ノックがされ一人の騎士が入ってきた。
「すまないな、こっちも色々忙しい身でね」
「俺だって最近忙しいぜ」
「弟子をとったそうだな、その青年がそうなのか?」
「おうよ!そこいらの騎士より強ぇぞ」
褒められたが、なんだか恥ずかしい。
というか、オルトガ師匠の知り合いらしい。
「よろしく、私は王国騎士団第一師団団長を任されているラーディンだ」
「サクジロウと、言います。よろしくお願いします」
「こんなんでも、『聖騎士』って最強の称号を持ってる騎士様だぞ」
オルトガ師匠が一言加えた。
本当に、『聖騎士』が来ちゃったよ。
「まぁ、挨拶は程々にして、話をしようじゃねぇかラーディン」
「そうだな、聞きたいのは先程戦った女騎士サクラのことだろう?」
「サクラっていうのかい騎士の姉ちゃんは。で、なんだあれは?」
「あれは、見ての通りだ。お前も知ってるだろう狂戦士化だ」
「知ってるさ、ただの狂戦士化ならな。だが、あれはなんだ!あそこまで狂ったように戦う狂戦士化なんて、見たことも聞いたこともないぞ」
確かにあれは異常すぎる。自分の体が壊れるまで、いや壊れても戦い続けるなんて。
「狂戦士化したって、体の限界がきたら元に戻るが、あのサクラって騎士は体が壊れてからがヤバかったぞ。危うく俺の弟子が殺されるところだった」
そうだ、あの女騎士サクラは完全に俺を殺しに来たのだ。
鬼のような形相で、俺を見る目は血に飢えた獣のようだった。
「すまない、最近は発現しなかったから安心していたのが裏目に出た。しかし、正直俺にもサクラの狂戦士化については分からないのだ」
「分からないだぁ?ふざけるのもいい加減にしろよ!」
オルトガ師匠の言葉に怒気が感じられてきた。
「サクラを保護したのは三年前だ。盗賊団の討伐で遠征中だった、休憩中に女性の悲鳴が聞こえたので、急いで声の聞こえた方に向かったのだ。しかし、現場に到着すると凄惨な状況だった。そこには、血塗れになったサクラが一人で立ち尽くしていたんだ、周りには数十人の盗賊団らしきモノが散らばってた」
想像するだけで気持ち悪くなってくる。
とんでもない光景だったんだろうな。
「鬼のような形相で笑っていたよ。そして、ひとしきり笑った後、糸が切れた人形のように倒れた。そんな彼女を介抱するために連れ帰ったが、そのときのことを全く覚えていなかった、それどころか自分の名前以外忘れていたんだ」
「なるほど、騎士の姉ちゃんのことは分かった。それなら、なぜ騎士団なんかに入れたんだ。そんな危ない過去があるなら、もしものことがあると予想できるだろう」
「危険だからこそ騎士団に入れたんだ、常に俺の目が届くところに置いておけば、いざというとき都合がいいからな」
なるほど、騎士団ならサクラって女騎士が暴走しても、内輪で収めることができるからだな。
「ただ一度だけ、騎士団に入ったばかりの頃サクラを虐めていた騎士を、狂戦士化して半殺しにしてしまったこともあったが、自業自得いうことで内密に処理した。しかし、それ以降は暴走することなく、騎士としても頭角をあらわし団長にまでなった」
そんな過去があったのか、だが俺が襲われた意味が分からん。
「それじゃ、なんでサクジロウに狂戦士化し襲いかかってきたんだ?あのときはまだ知り合ったばかりだぞ」
「何か、発現する原因はなかったか?」
「そういえば、あのときは宝石を見てからおかしくなったような?」
「あぁっ、たしか慌てて出した宝石だな。あれが原因か!」
「その宝石は、たぶん魔力見の水晶だ。特定の魔力を感知すると赤く光るので調査などに使うものだが。なぜ、君に反応したのか?そして、それで狂戦士化して襲い掛かったのかは、俺にも分からないな」
この人は、いま嘘をついた。
狂戦士化は別として、魔力見の水晶が反応した理由は知っているはずだ。
あの女騎士は、水晶に反応したのが女神のチカラと確信していた。
それは、サクラという女騎士より偉い『聖騎士』なら、その情報を共有しているはずだ。
何か、企んでるな。
ちょっと整理して考えてみるか。
あの時、サクラって女騎士は赤く光る魔力見の水晶を見て『女神』と言った。
囁いた程度だが、確かに俺には聞こえた。
少なくとも、この国には女神の存在を認知しているものがある。
憶測だが、この国は『女神』に関すること、もしくはそれに準じるような研究をしていた可能性が高い。
多分、俺が転生したときか最初にディベルが魔法を使ったときのチカラを感知して行動を始めたに違いない。
そして、俺達が転生した大草原を女騎士に調査させた。
結果、大草原で何らかの女神の痕跡を見つけたのだろう。
当然、一騎士団が動員されていたんだ、騎士団全体で情報を共有してるはず。
他に、魔法に詳しい研究機関もあると思って間違いない。
そして、そのことは上司である聖騎士はもちろん、研究機関に報告しているはずだ。
もし、魔力見の水晶を研究機関が作った物なら、女騎士の見つけた手掛かりを元に、女神のチカラに反応するよう調整してあるはず。
だとしたら、聖騎士は女騎士の持つ魔力見の水晶が光る理由を知っているはずだ。
大草原で女騎士が持っていた魔力見の水晶は、ディベルの女神のチカラの痕跡に反応した。
さらに、何かしらの痕跡から女神のチカラをしっかりと感知できる魔力見の水晶を作り出すことができた。
だから、今回は女神のチカラで転生した俺にもはっきりと反応した。
女騎士と聖騎士は、すでに女神に関して何かしらの情報を知っている可能性がある。
そして、聖騎士は今回の状況から俺が女神に関係していると勘ぐっている。
ならば、どうにかして俺の身柄を確保したいわけだ。
オルトガ師匠もいるし、ここはカマをかけてみるか。
「先程、魔力に反応するって言ってましたが、俺もオルトガ師匠も魔法は使えないですよ。それに先日商業都市ですれ違った時も、今日女騎士と話してるときにも何も起こらなかったし。なぜ女騎士は、いきなり狂戦士化したんですかね?」
「あ!?も、もしかしたら、近くに魔導師がいたんじゃないか?より強い魔力を持つ魔道士に反応して誤作動で光ることもあるからな」
かかった。
最初に、女騎士の魔力見の水晶を見たとしか俺は言ってない。
光っているとは言ってはいないのだ。
なのに、聖騎士は反応したと、赤く光ったと思い込み、そう言ってしまった。
なら、先ほどの発言を誤魔化さないといけない。
さらに、聖騎士の人は、特定の魔力に感知とすると自分で言ったことを忘れている。
魔導師に反応したのは誤作動と言い切るなら、このまま魔力見の水晶の不具合であることにすり替える。
「だけどそれだと、その魔力見の水晶は調査用の道具として欠陥じゃないですか?特定の魔力を感知すると言っていたのに、近くにいた魔導師に反応するなんて。さらに、狂戦士化した女騎士の目標が魔力見の水晶に反応した者なら、あのとき襲われるのはその魔導師では?」
「確かにそうだよな。百歩譲って、手当たり次第に襲うというなら、サクジロウだけ襲って俺や街の人には襲いかかって来なかったことが説明できない」
「まぁ、俺が一番近くにいたから襲われたのかもしれないってこともありますが」
「むっ、確かにそうかもしれないが・・・」
どうやら、聖騎士の人も焦っているようだ。
一応、女騎士と握手していたことは言わないでおく。
オルトガ師匠もなんとなく察したのか、話を合わせてきてくれた。
これで、女騎士の持っていた魔力見の水晶が欠陥品で、特定の魔力を感知するっていう理由を潰した。
誤作動で、適当な魔力に反応してしまうという事実(嘘)を、本人にでっち上げさせた。
「それに、女騎士は大草原を調査するために来ていた商業都市で俺と擦れ違ったけど、今回みたいに変な感じはなかったですよ」
「たしかに、そんなことを昼間会ったときに話してたな。だとすると、ますます原因が分からないな」
「仮に、俺に魔力見の水晶が反応したのなら、擦れ違ったときや、昼間会ってすぐに反応しますよね?」
調査のために来ていたなら、魔力見の水晶を持っていたはず。
しかし、街の門で擦れ違った俺には反応しなかった(もしくは、調整前で女騎士が気づかない程度の反応しかしなかった)
実際に反応云々は別として、その時に女騎士が狂戦士化してないのだから、俺を疑う理由がない。
これで、女騎士の狂戦士化の原因が、魔力見の水晶の反応である理由を潰した。
本当は、女騎士と握手をしたから、魔力見の水晶が強く反応した可能性もあるが、聖騎士がそれを知る由もない。
ましてや、俺自身が狂戦士化の関係性がない。
これで、俺が疑われる要因を全部潰した。
もし聖騎士が、俺と女神が関係していて、それが原因で女騎士が狂戦士化して暴走したと関連付けようとしても矛盾が生まれる。
魔力見の水晶は、俺に反応してない。(これは嘘、反応はする)
俺と女神も関係性がない。(これも嘘、関係ある)
女騎士の狂戦士化は、俺と関係性はない。(なぜ狂戦士化したのか原因は不明)
それによって、女騎士の狂戦士化と魔力見の水晶の反応が関係性もないということ。(本当は、女神のチカラが関係してると思うが理由は不明)
結果、昼間に女騎士が狂戦士化したのは、ただの暴走でしかない。
騒動の原因を押し付け、俺を拘束して女神の情報を聞き出そうとしたのだろうが無駄だ。
「ラーディン、お前が何を企んでいたのかは知らんが、魔力見の水晶の反応とサクジロウは関係ないと結果が出たな。女騎士の狂戦士化も暴走だ、お前の監督不行き届きだからな。悪いが、これで帰らせてもらうぞ」
たぶん、女神のことは秘匿扱いのはずだ。知り合いとはいえオルトガ師匠にも話せるはずがない。
確信がないのに、わざわざ事実を話して呼び止めることはできないだろう。
「二人とも、すまなかったな。この件に関しては、もう関わらないと約束しよう」
「そうしてくれ、俺も無駄に動きたくはないんでね」
聖騎士は、一言謝ると釈放してくれた。
もう、ここも潮時かもしれないな。
名残惜しいが、旅立ついい機会だ。
そんなことを考えながら、ぽんこつ女神ディベルの待つ道場に帰ったのだ。
サクジロウ側の視点から、さらに逮捕されました。
ディベルとアレキサンダーの出番なし。
ディベルのポンコツ分が足りません。
タイトルに偽りありになってしまいます。