特訓なのです!そして、再会なのです!
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異世界ヴィルガレストなのです!で、世界の説明で時間の概念を書くのを忘れていたので改稿しました。
ここでも追記しておきます。
一刻が二時間、半刻で一時間、四半刻で三十分です。
オルトガ師匠の所で、修行を始めてから数日が経過した。
とにかく、朝から晩まで体を鍛えた。正直、逃げ出そうとしたこともあったくらいだ。
「頑張るのです、サクジロウ」
「プヒーッ」
「そのとうりだ、頑張れ」
ここに来る途中で買った朝飯を、縁側で食べている二人と一匹。いっぽう、俺は木製の人形を相手に短めの木刀で打ち込みをしている。
人形の数は四体ある。
それぞれの人形は頭、喉、心臓、みぞおちに的が付いており、その急所部分をテンポ良く短木刀で打ち込んでいく。
「どうした、もう疲れたか?打ち込みの速度が落ちて、動きも悪くなってんぞ」
オルトガ師匠が、発破をかけてくる。
打ち込みには指示があり、同じ順番で人形を打たない、同じ場所の的を連続で打たない、常に動きながら打ち込みをする、である。
短剣術における攻撃の要は、一撃必殺である。
さらに、高速戦闘では瞬間的に状況を判断し、一撃離脱を繰り返す。
はじめた頃は、四半刻も動けなかった。
それを、今はかれこれ半刻ほど続けている。
「ふむ、ずいぶん動き続ける様になったじゃねぇか」
オルトガ師匠が、サンドイッチを食べながら木刀を手にし近づいて来た。
俺に向かって、持っていた木刀を振り下ろす。それを避けつつ人形に打ち込む。
縦横無尽に木刀が襲ってくる、速さに緩急がついてくる、死角を突いてくる。何度か木刀を体に受けつつも、只々人形に短木刀を打ちつけた。
「ほれほれ、もっと上手く避けろ!」
「避けるのです!」
「嬢ちゃん、また魔法でサクジロウを攻撃だ」
そういって、ディベルに魔法を撃たせる。
これは、特訓中に興奮してディベルが魔法を放った時に思いついたらしい。加減をして魔法で攻撃しているが、これが結構痛いのだ。
二人は、なぜかチームワークがよく、ディベルは魔法を適当に撃っているにもかかわらず、オルトガ師匠には当たらず、上手い具合に俺の死角から魔法が飛んでくる。
これが、いやってほど的確に飛んでくるのだ。
「サクジロウ、くらうのです!」
「魔法剣オルトガパニッシュメント」
ふざけた名前を叫びながら、剣戟と魔法の連携攻撃がはじまる。木刀を避ければ魔法が襲う、魔法を意識すると剣戟を避け損ねる、とんでもない攻撃だ。
危なげに避けるが動きが止まるほどではない、集中力を高め短木刀を人形に打ち込む。
だが、突然の衝撃で体が浮いた。
「プヒーッ!」
興奮したアレキサンダーが、突撃してきたのだ。
その瞬間、木刀と魔法が無防備の俺を襲ってきた。
俺の意識はそこで途切れた。
気が付けば、真っ暗な世界にいた。
「お久しぶりですね、サクジロウ」
目を凝らし見ると、そこには女神エインディベルがいた。
異世界に転生される前の、グラマラスな姿のままだ。
「あなたがいるってことは、ここは貧血の時に来ていた世界か」
「そうです、どうやら特訓中に倒れてここに来たみたいですね」
「なるほど、つまり死にかけたってことか。ハハッ」
納得して、乾いた笑いをする。
「いつも、ディベルがお世話になってますね」
女神エインディベルが、申し訳なさそうに言ってきた。
「ん、まてよ?ディベルは異世界にいるのに、なんであなたがここにいるんですか?」
「何も変なことはないですよ、ディベルはわたくしの分体なのです。通常の世界に顕現したことで最適化されて、かなり幼くなってしまいましたが、同一の存在なんですよ。ごめんなさいね」
そういって、俺がガッカリしていたことを知っていたのか謝ってきた。
「そうだったのか。だから、ぽんこつなのも一緒なんだな」
その一言に、女神エインディベルは恥ずかしそうにする。
ディベルのことについて説明を聞き、今までの旅の話に花を咲かせる。久しぶりに、女神エインディベルと他愛もない話をして嬉しかった。
「そろそろ、時間みたいですね」
そう言われて、自分の手を見ると透けていた。
どうやら、体が回復しはじめたようだ。
「それじゃまた」
「ディベルを、あの子をお願いしますね」
「あぁ、まかせてくれ」
「それと・・・」
挨拶を交わし、女神エインディベルの姿が消える。
最後に、何か言いかけたようだが。
俺は意識が溶けていくのを感じ、目覚める。
「サクジロウ!?よかった目覚めたのです!」
「おっ、ようやくお目覚めか。だから言ったろ?大丈夫だって」
「プヒ、プヒ」
ディベルが目を赤く腫らしている。泣いていたのか、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだ。
オルトガ師匠は、なんでもなかった様に振舞っていたが、しっかり手当てをしてくれていた。
アレキサンダーも、責任感じているのか俺の顔を舐めている、心配してくれるのはありがたいが豚臭い。
「久々に、あっちの世界に行ってたわ」
「大丈夫なのです?」
「お前のことを、よろしくって言われたよ」
「黙っていて、ごめんなさいなのです」
ぐしゃぐしゃな顔のまま謝るディベル。
わけの分からない話に、首をかしげるオルトガ師匠とアレキサンダー。
「別に、謝ることじゃない」
「で、でも・・・」
「じゃあ、どうするんだ?旅をやめるのか?帰るか?」
「やめたくないのです!一緒に行きたいのです!」
「プヒーッ!」
なら、いいじゃないか。些末なことだ。
お前は、聞かれなかったから言わなかった。
俺は、気にしなかったから聞かなかった。
ただそれだけだ。
俺は、ディベルの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でて起き上がる。
「何のことかはよく分からんが、サクジロウがいいって言うんだから、お終いにしようぜ嬢ちゃん」
「はい、なのです」
「お嬢ちゃんも、豚も、誰も悪くねぇよ。強いて言うなら運が悪かったんだ」
そういって〆ようとする。
原因は、オルトガ師匠の無理な特訓のせいだが黙っていよう、蒸し返しても面倒だ。
オルトガの特訓は厳しいです、これが修行です。
女神エインディベルと再会しました。
少しづつ秘密も分かってきます。