道場で修行なのです!
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王都は、かなりの規模の城下町を有しており、先日寄った商業都市以上の大きさを誇っていた。
王都の中央には、東西にわたって大きな水路がある、北の山脈から豊富な水が流れてきているらしい。
南門の手前から、西側に住宅街、東側に繁華街、水路を挟んだ中央に商業街、内壁の北側に貴族街となっていて、一番奥に王城が鎮座している。
俺達は、宿屋を探すために繁華街の方に向かった。
「ここにも、たくさんの屋台があるのです」
「さきに、宿屋に行ってからだぞ」
とにかく、一度腰をおろして休みたい。
ふと見ると、アレキサンダーは歩き疲れたのか、ディベルに抱かれて眠っていた。
たしか、聞いていた宿屋はこの辺りだと思うんだが。
「ここなのです。宿屋の看板があるのです」
ディベルが指差す先に、宿屋を見つけた。結構大きいみたいだが、料金は大丈夫だろうか?とにかく、入ってから考えよう。
扉を開けると、そこそこ広めのロビーと受け付けがある。
ロビーには、数人の冒険者らしい人達がいる。
「いらっしゃいませ、ウォルデンの宿屋へようこそ」
綺麗な女性が、鈴のような凛とした声で挨拶をくれる。よく見ると耳が尖っている、いわゆるエルフってやつだな、この世界にもいたんだ。はじめての生エルフだ!
そんなことを思いながら、受付嬢にたずねる。
「二人とペット一匹で、部屋を借りたいんだが」
「一人部屋なら銀貨一枚、二人部屋なら銀貨一枚と銅貨五枚です。ペットは料金はかかりませんが、部屋を汚したり物を壊したら弁償してもらいます」
「とりあえず、二人部屋で十日程でお願いします」
「はい、それでは銀貨十五枚になります」
ディベルから、革袋を受け取り代金を支払う。いつも思うんだが、この革袋に入っているお金減っている様子がない。何度か買い物したり、先日の収穫祭での買食いで結構使ったと思うんだが不思議だ。
「部屋は二階の奥、二〇五番の部屋です。こちらが部屋の鍵になります、出かけるときは必ず貴重品をお持ちになってください」
受付嬢から鍵を受け取り、部屋に向かう。
扉を開けて部屋に入ると、それなりの広さでベッドが二つ並んである。内装は、初めて訪れた村のキーリカさんの宿とあまり変わらない。
「これで料金は三倍か、さすが王都だわ」
椅子に腰掛けて愚痴る。ようやく、休めることに気が緩んで出てしまったのだ。
ディベルは、アレキサンダー用の寝床を袖から出して整えていた。
「これでよしっ、なのです。」
「プヒーッ」
いつの間にか、アレキサンダーは起きていた。
少し休んだら、街の中を散策するか。
とりあえず、戦い方を習えてくれる道場とか探そう。
「どこに行くのです?」
「戦い方を教えてもらう為に道場探しに行くんだが、嫌だったら部屋で待っててもいいんだぞ」
そういって、出掛ける準備をする。
「なら、一緒に行くのです。サクジロウが何するのか見たいのです」
そう言いながら、アレキサンダーを呼んで出掛ける準備をしはじめた。
一階のロビーに降りて、受付嬢に道場らしい所が無いか聞いてみる。
「道場なら、商業地区に何軒かありますよ」
「商業地区ですね、ありがとうございます」
「騎士が通うような所から、子供が通うような所までピンキリです。王国騎士団に憧れる人が多いので、退役騎士がやってたりするんですよ」
そういって、受付嬢は手元の紙にサラサラと商業地区辺りまでの簡単な地図を書いてくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして、これも業務の一つですから」
挨拶を交わし、宿屋を出る。
大通りに向かい、そこから水路に沿って歩き東側の橋を渡る。そのまま商業地区の通りを抜けて、東の外壁側の奥に辿り着く。
この区画に、道場が数軒あるらしい。とにかく、路地をくまなく歩いて確認すると、本格的な道場が二軒、子供道場が二軒、ちょっと怪しげな道場が一軒あった。
とりあえず、本格的な道場から見に行こう。子供道場は論外だ。
一つ目の道場の門戸を叩く。
「すみません、見学したいのですが」
すると、たくましい体の男性が奥から出てきた。
「ようこそ、我が道場に。紹介状はお持ちかな?」
「えっ、紹介状が必要なんですか?」
「あぁ、ウチは由緒正しき道場なので騎士の家系か、もしくは貴族に認められた者しか入れないのだよ」
なるほど、縁故と権力を大事にする道場か。
まぁ、この国の文化的に、そういうのもあるだろうと思っていたが。
「そうですか、それは失礼しました」
そういって道場を後にする。
そして、もう一つの道場も同じ区画で、すぐ近くにあるので向う。
二つ目の道場は、なぜか入り口に受付があった。
「すみません、見学したいのですが」
「見学ですね。では、こちらの紙に必要事項を書いて下さい。ちなみに見学は予約制で、今だと三日後になります。」
「すみませんでした。結構です」
三日後とか面倒くさい。さらに言えば、必要事項に住所や名前の他に、家系や推薦人とかの項目があった。
この国は、縁故がかなり大切らしい。
「なかなか見学できないのです」
「プヒーッ」
ディベルが少し飽きてきたのか、座り込んでアレキサンダーのお腹を撫でている。
とにかく、次の道場に向かおう。最後の道場は、隣の区画の奥の方にあった。
随分無駄な時間を使った、太陽もすでに真上に昇っていた。
目の前には、かなりボロボロの門がある。先ほどの二軒とは違って庭があり、その先に道場らしき建物があった。
門に看板がかかっているが、文字が消えかけていて読めない。まったく手入れをしていないのだろう、不安ばかりがつのる。
「すみません、見学をしたいのですが、中に入ってよろしいですか?」
一応、門の外から声を掛ける。しかし、うんともすんとも返事が無い。
「誰もいないのです?」
ディベルが、不安そうにこちらを見る。
このままでは埒があかないので、中に入ってみよう。
「失礼します」
ひとこと断りを入れ、門をくぐる。
荒れた庭を進み、建物の前まで来た。
道場の縁側は戸が開いている、よく見ると中で人が寝転がっている。
「すみません、道場の見学をしたいのですが」
「何度も言わなくても、聞こえてるよ」
そういって、寝転がっていた人が起き上がり、訝しげな目でこちらを見る。
無精髭を生やした、壮年の男性だ。
「こんなオンボロ道場に来るなんて、酔狂なやつだな」
「なんというか、他の道場は自分には合わなそうだったので・・・」
「なるほど、断られたのか」
右手で顎をさすりながら、被せるように言ってきた。
見透かされていた。どうやら、他の道場の事情を知っていたようだ。
「で、何を教わりてぇんだ?剣か槍か?体術や格闘か?もちろん弓だって教えてやれるぜ」
「できれば、剣術を教えてほしいのですが」
「使ってる得物は何だ?」
「今使ってるのは、このダガーです」
そういって、一度だけ野生豚との戦いに使ったダガーを見せる。
「なるほど、短剣術か。なら体術と、素手での格闘も覚えた方がいい。超接近戦で、かなり紙一重の戦いが出来るようになるぞ」
なるほど、そんなことまで考えてなかった。
というか、俺がそんなこと出来るようになるのか?
「短剣術は、相手の懐に入っての戦いや、一対多数における高速戦闘に向いてるからな。」
なるほど、この人に教われば強くなれる。
言葉の一つ一つから、力を感じられる。
「ただし、俺の授業料は高ぇぞ!」
「ぐっ、どのくらいになりますか?」
まぁ、多少は覚悟していたが。あまりディベルのお金は当てにしたくない。
「とりあえず、教えている間の飯と酒一瓶だ!」
「えっ、それだけでいいんですか?」
「今の俺には、それで十分なんでね」
「ありがとうございます!」
「そのかわり、俺の教えは厳しいぞ。この道場の有様を見れば分かるだろ?貴族のお坊ちゃんや、なんちゃって騎士は誰もついてこなくなったわ」
そういって、ガハハと豪快に笑っているが、一瞬見えた鋭い眼光に背筋が凍るような気を感じた。
「名はなんという?」
「サクジロウです」
「サクジロウか。俺はオルトガだ」
「はい、よろしくお願いします、オルトガさん」
そう呼んだ矢先。
「ただし、今からは師匠と呼べ」
そう言い返された。
「師匠なのです?わかったのです、ししょうー!」
「プヒーッ」
ディベルが、楽しそうに呼ぶ。
「そっちの嬢ちゃんは、分かってるじゃねぇか」
「もちろんなのです、ししょー!」
「嬢ちゃんの名は、なんていうんだ?」
「ディベルなのです!こっちはアレキサンダー!」
「プヒーッ」
「そうかそうか、ディベル嬢ちゃんにアレキサンダーか。これからよろしくな。嬢ちゃんがいると、賑やかでいいな」
なぜだろう?あの二人と一匹は気が合うのか、すでに馴染んでいる。
「まぁ、まずはその軟弱なカラダの基礎を鍛えながら、短剣の使い方を教えてやる。」
「おっ、お手柔らかにお願いします師匠」
そして、俺は何度も逃げ出したくなるような、厳しい修行という道を歩み始めた。
今回はサクジロウパートです。
ディベルもサクジロウの修行に参加します。
書きたいことがたくさんあるのに、上手く表現できません。他の作者さんは本当に凄いです。




