プロローグなのです!
はじめて投稿します。
よろしくお願いします!
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暗く冷たい闇の底で、ゆっくりと意識が目覚める。
全身が、重く気怠い感覚に囚われている。
目を開くと何もない空間が広がっていた。
「あぁ、またいつものか」
体を起こし、辺りを見回して呟いた。
これで、何度目だろうか?
4度目…いや5度目だったかな。
俺は、度々この世界に来ることがある。
理由は、なんてことはない『貧血』だ。
体が弱いわけじゃないが、なぜが血が足りなくなる体質らしい。
何度医者に診てもらっても原因不明で困っている。
多分、今頃体の方は救急車で病院に運ばれているだろう。
そして、倒れてから体が回復するまで、意識はこの真っ暗な世界で過ごしているのだ。
とは言っても俺一人ではない。
「こんにちは、お久しぶりです」
気がつけば、そう挨拶をしてくる女性の姿があった。
「こんにちは、お久しぶりです。また来ちゃいました」
俺も、立ち上がりながら挨拶を返す。
「今回で5回目ですね」
女性は、微笑みながら目の前まで近づいてきた。
この世界に来ると必ず現れる不思議な女性、久々の再会である。
初めて出会った時は驚きはしたが、いつも体が回復するまで話し相手をしてくれるので助かっている。
「ほんとに困っちゃいますね。気を付けているけど、倒れる時は突然だから対処のしようがなくて。まぁ、いつものように1時間もすれば体の方も回復すると思うけど」
頭をかきながら、いつものように話す。
たかが貧血だ、どうってことはない。いつもの様にすぐ目覚めるさ。
そう思って話しかけるが、なぜか女性は悲しそうな顔でこちらを見ている。
いつもニコニコと優しい笑顔なのに、今日は様子が違う。
そして、悲しそうな表情の女性の口から言葉が零れる。
「ごめんなさい」
突然の謝罪の言葉。
意味が、分からなかった。
「えっ?なに?どうしたの?」
俺は、突然謝り出す女性に戸惑う。
「ごめんなさい、あなたは死んでしまったのです」
ますます訳が分からない。
女性は、目にうっすらと涙を浮かべそう言ったのだ。
「死んだ?俺が?まさか…本当に?」
俺の問いに、女性が小さく頷く。
いきなり死んだと言われても、はいそうですかと納得出来るはずがない。
「ちょ、ちょっと待ってよ。死んだって、たかが貧血で?冗談でしょ!?」
混乱しながらも聞き返すが、女性は俯きながらふるふると頭を横に振っている。
「今回は、少し状況が違うのです。あなたが倒れていることに、誰も気が付かなかったのです」
「マジか…」
なんてこった、貧血で気を失っての放置プレイである。
しかし、本当に死んでしまったのか。
毎回倒れるたびに病院に担ぎ込まれてたけど、今回は運が悪かったようだ。いや、今までが運が良かったのかな?
「なので、今回はこれからのことを伝えに来ました」
しかし、本当に貧血で死んじまったのか、あまりにもお粗末すぎる最後だ。
やはり、今まで助かっていたのは運が良かっただけなのだろう。
だが、死んでしまったのものは仕方がない。
もしかすると、ここはこの世とあの世の狭間の世界なのかもしれないな。
まぁ、死んでしまったのなら、これから天国に逝くか地獄に落ちるかを決めるのかな?
出来れば天国に逝きたいなぁ。
というか、今の言い方はいったい?
そういえば、この女性は何者なんだ?
そんなことを考えながら聞き返す。
「これからのこと?」
そして、女性の口から出た言葉は、突拍子もないことだった。
「はい、これからあなたを異世界に転生させたいと思います」
先程までの悲壮感はなく、いつものように少し楽しげに話しだす女性。
ただ、何かとんでもないことを言ってることだけは分かる。
「て、転生ですか?異世界に?どうやって?と言うか、貴女は何者ですか?」
思わず普通に聞き返してしまった。
そんなことが出来るなんて、この女性は何者なのだろうか?
「はい、そうです!あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。」
会うの5回目にして初めての自己紹介だ。
「わたくし、女神のエインディベルと言います。どうぞよろしくお願いしますね。気軽に、ディベルちゃんって呼んでください」
にっこりと、眩しいくらいの笑顔をこちらに向けて愛称を提示してくる。
おいおい、女神様だって!?
マジかよ、だとしたら気軽に呼べるかっ!
いかん、この女神様の言動から一抹の不安を感じる。
そんな軽い自己紹介をしつつ、女神様は輝くような笑顔で、手に持っていた本を勢いよく捲っている。
とても分厚く大きな本は、赤い装丁に金で装飾も施されていて豪華だ。
そして、女神様が本に視線を落とし、開いたページを指で辿りながら読み上げていく。
「えーと、美作咲治郎さん」
どうやら、あの本に俺の名前が載っているみたいだ。
「はーい、みまさかさくじろうです」と、軽く返事をする。
だが、女神様はそんなことを気に留めることなく言葉を続ける。
「あなたは、残念なことに現世では貧血で命を亡くしてしまいました。本来なら、魂はこのまま安息の時を過ごすはずですが、わたくし女神エインディベルの名において、再度人生をやり直すことを許可いたします」
どうやら、本当に転生出来るらしい。
かなり情けない死因だったけど、人生をやり直せるなら嬉しい限りだ。
今度は、健康で丈夫な体であってほしいものだ。
「転生先の異世界の名は『ヴィルガレスト』あなたの住んでいた世界と異なる世界です。全てにおいての水準が、今まで生きてきた世界より劣りますが、ただ一つ魔法というものがあなたの世界より発展しています」
転生って言っても元の世界ような場所ではないようだ。
さすがにそれは都合が良すぎるか。
だが、魔法があるとは、漫画やゲームで憧れた世界じゃないか!
「ありがとうございます、女神エインディベル様」
で、異世界の何処に転生されるのかな?
「んも〜!ディベルって呼んでって言ったじゃないですか、プンプン」
頬を膨らませ、腕を振りながら怒っている女神様。
怒りの表現を、口に出して言っているあたりに性格が垣間見える。
「あの〜、女神様?俺は、異世界の何処にどんな状況で転生させられるんですか?」
女神様に尋ねてみるが、なぜか聞こえていないようだ。
「では、ヴィルガレストに転生させます」
ちょっと頬を膨らませた女神さまがそう言うと、俺の足元に魔法陣が浮かび上がり輝きはじめた。
次第に光が強くなり、身体を包み込む。
何の説明もないまま、呪文らしきものを唱え始める。
あぁ、やはり不安が的中したようだ。
「ちょっ、まっ、いきなり転生されても異世界でどうしたらいいか分からないぞっ!?」
やはり、女神様の耳には、俺の声が届いてないようだ。
恍惚の表情でブツブツと呟いている、完全にトランス状態だ。
そして、女神様が今まで以上の笑顔で大きく叫ぶと益々光が強くなり、少しずつ体の感覚が無くなっていくのが分かる。
次第に背景が光で搔き消え、遠のく意識の中で思った。
絶対に、この女神様は“ぽんこつ”だと。
気が付けば、そこはだだっ広い草原だった。
まわりに遮るものはなく、優しく風が吹いている。
「マジかよ」
思わず俺は、そう呟いた。
異世界に送られたのはいいが、何にもない草原のど真ん中だった。
「何にもないじゃないか、一体どうすればいいんだ~」
俺の叫び声だけが風に乗ってこだまする。
女神エインディベルを恨みながら、只々途方にくれるしかなかった。
あの女神は、思ってた以上にぽんこつなのかもしれない。