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未知の道

 頭の中には、声が響いていた。


 ずっと、ずっと……この世界に生きるものの声が聞こえていた。


 そして私の脳裏には、そのものたちの行く末が、見えるようになっていた。




「未来を知るもの」




 しかし、その「未来」が揺らいでいる。




「師匠……私も、連れて行ってくださいますよね? ひとりで行くなんて……そのような危険なこと、言わないですよね?」

「……」

「師匠」

「カガリ、今夜はもう遅い。自室に戻りなさい」

「ッ……ルシエル様! 返事になっていません!」

「カガリ。戻りなさい」

「……分かりました」

カガリは最近、よく私に食らいついてくるようになった。出会った頃は、よく噛み付かれたものだが、次第に仲が深まれば、カガリは大人しく私の言うことは忠実に聞き入れ、素直に動くようになった。それは、自我をなくしていたからかもしれない。多くのものを失い過ぎて、自分をも見失い、ようやく見つけた存在にすがっていたのかもしれない。だが、今はといえば、自我を取り戻し、自らの意志を持って動けるようになっている。喜ばしいことだが、この現状を考えると苦しいところもある。


 ガチャリ……。


 ドアノブを回す音がして、続いてギギギ……と扉が閉まる音がすると、私は愛弟子の気配の無くなった静かなこの部屋を見渡した。城内にある部屋とは、きらびやかで豪華なイメージを持つものが多いようであるが、そのような部屋の造りをしているのは、国王に関係する部屋くらいなものである。あとは非常に殺風景で、カガリの部屋なんて、私が日曜大工で作らなければ、ベッドすらなかったのだ。小さな窓がひとつ頭の上あたりにあるくらいで、畳二畳ほどの広さしかない。

 私の部屋はというと、「レイアス」の最下位要員とはいえ、世間では「世界最強の魔術士」として、謳われている身であり、少しも嬉しくはないがザレス国王からも、割と贔屓されている。そのため、それなりの部屋を用意されていた。


 それは、「恐れ」からなのかもしれない。


 「世界最強の魔術士」を今は手中にとどめているが、いつ、裏切られるか分からず、恐怖心を抱いている可能性は高い。

人間とは愚かな生き物であり、自らの「地位」を気にするもの程、我が身が可愛くなり、保身のために金をまく。だが、私はその金を受け取らない。更には、「レイアスの隊長」という地位を与えるという言葉も、ひたすらに断り続けている。「隊長」という座にでも就けば、収入は今の倍ではきかない程、膨れ上がるだろう。損得で動くものならば、昇進の話を断る理由はない。


私の村を滅ぼした頃は、まだ、ザレス国王は「皇子」の身であり、ザレスの父君がフロートを治めていた。その為、ザレス国王は私が「あの村」の出身だということには、気づいてはいない。関わったものは皆、私以外は死んでいるのだから無理も無い。


「神……か」


 私は、緑の瞳を持つ少年の姿を思い描いていた。


「……アリシア。私はどうしたらいいと思う。見えないんだ……道が」

「見えないものなら、つくればいい」

「!?」

私はハッとし、気配もしない方向に顔を向けた。そこには、今まさに思い描いていた緑の瞳を持つ少年が、にっこり微笑みながら扉の前に立っていた。服装は、丈の短い深緑のジャケットに、黒いシャツ。茶系のズボンを履いている。

「そうだろ?」

「ラナン……どうやって此処に」

「勘って奴……だろ?」

「無鉄砲とも言いますね」

「ほぼ、無計画だな」

次々と、私の室内へ入ってくる。それは紛れもない。レジスタンス「アース」の本陣である。

リーダーである「ラナン」。剣士である銀髪銀眼の「リオス」。神子魔術士であり、フロートによって滅ぼされた王国「クライアント」の黒髪黒眼の第三皇子「サノイ」。そして、ラナンの双子の弟であるが、緑の瞳ではなく青い瞳を持った少年「レナン」である。


 皆、歴史に名を残すとされている者たち……。


 今ここに集結したことは、偶然ではなく必然か……。


「カガリ。お前が通したのだろう。観念して出てきなさい」

「……」

バツの悪そうな顔をして、カガリは俯いたまま最後に私の部屋へと再び足を踏み入れた。すると私は、これ以上の入室は勘弁とでも言いたげに、指をパチンと鳴らした。空気を振動させることによって、私の魔術を発動させたのだ。まとまった風によって重い扉が締められる。

「まったく……」

悪態をつきながらも、私はこころのどこかで何故だかほっとしているのを自覚していた。

「道をつくりに行こうぜ、ルシ」

「気安く呼ぶものじゃないよ、ラナン。私はキミたちの敵だよ」

「そうかな?」

呑気なリーダーだと、心底思った……そのときだ。予兆が現れた。再び地鳴りがし、その刹那に大きく大地が揺れ動いた。

「なぁ、カガ。これって、地震っていうんだろ?」

「あぁ……だが、このフロート城近辺には、プレートは通っていないとルシエル様は仰っていた。それが、こんなにも頻繁に起こるなど、可笑しい」

「プレートの力でもなければ、火山活動でもないからね」

私は床に、石灰を固めて作った「チョーク」を使い、魔法陣を描き始めた。それを興味深そうに見ているのは、同じ神子魔術士である、サノイ皇子ただひとりであった。魔術士ではない者からしたら、私が何をしているのかなんて、理解できないのであろう。

「ルシエル殿。それは……魔法陣と呼ばれるものか?」

「そうだよ。ちょうど、神々に選ばれし者が随分と揃ったからね。この際だから、悩んで過ごさずに思い切って、聖域へ飛ぼうと思って」

聖域は特別な場所にある。私ひとりならば、もとより入る資格を持っている為、自由に行き来が出来る。だが、他の者たち……「ライエス」の守り神ではない者たちは、その場所を特定することさえ出来ないのだ。そのため、すべてのものが「転移」の魔術によって、聖域内へと飛び立てるように、聖域に張られているバリアを破る術と、転移の術を織り交ぜた魔術を発動するべく、魔法陣を使うことにしたのだ。


 魔法陣を描かなくとも、私は同時に複数の魔術を発動することも可能である。普通は、魔術士は一度にひとつの魔術しか扱えないのだが、そこがまた、私が稀有な存在である所以でもある。ただ、魔法陣を描くことによって、その確実性が増すのだ。この人数を一気に遠く離れた……それも「聖域」へ運ぶには、かなりの「魔力」を必要とする。そのため、「確実性」も必要となる。ヘタをすれば、魔術発動中に、術者が命を落とすこともあるのだ。


 魔術とは、実は諸刃の剣とも呼べる。


 魔術士は、それを理解して自分に見合った「魔術」を扱う必要がある。




 己の実力以上のことをしてはならないと……。


「神の領域」を超えないようにと……。


 まるで、牽制をかけられているかのようなシステムである。




 私はいつ、命を落とそうと構わない。


 だが、この子たちを死なせる訳にはいかかった。




 それは「先導者」として見た未来に、彼らの名前があるから。




 ……だけでは、無い。



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