08
移民の子だったわたしはよく虐められた。浅黒い肌のせいで虐められた。真っ黒な髪の毛のせいで虐められた。家が貧乏なせいで虐められた。お父さんがいないせいで虐められた。違う国の言葉を話すせいで虐められた。きっと、わたしを虐めてきた子たちはわたしの何もかもが嫌いだったんだと思う。
でも、わたしはその子たちを責めることはしなかった。わたしもあの子たちの立場になれば同じようにしていたかもしれないから。自分が人とは違うことは分かっていた。
そんなわたしは人一倍に人目を避ける様に暮らした。誰とも関わらず暮らした。おかげでわたしは街の中でわたししか知らない道を知ることが出来た。どこを通ればどこに出られる。迷路の様に入り組んだミゴンでそれはとても便利だった。虐められそうになってもすぐに逃げ出せた。
でも、それでも、わたしは友達が欲しかった。わたしを虐める子たちがミゴンの街で楽しそうにかくれんぼをして遊んでいるのを見て、羨ましく思った。
ある日、街の子たちが集められていた。わたしはそれを遠巻きに眺めていた。きっと何か楽しい事が始まるんだろう。でも、わたしには関係ない。そう思っていた。でも、その日は違った。
街の子たちの中心。礼服を着た女の人がわたしに近付いてきた。街の子たちはわたしに気付いて、嫌そうな表情を隠そうともしなかった。わたしは咄嗟に逃げようとした。わたしはここにいてはいけない。そんな思いがわたしの身体を動かした。しかし、礼服の女の人がわたしに声を掛けた。
「待って。あなたは海を越えてきたの?」
決して街の中では聞き慣れない言葉。お母さんがわたしに話しかける時に使う言葉。その言葉にわたしの脚は止まっていた。
礼服の女性はわたしの行動を肯定と判断して続けた。
「良かった。私はあなたを探していたの」
礼服の女性がわたしに優しく微笑んだ。それだけでわたしの心は虜になっていた。同じ言葉を話し、笑顔を向けてくれる。この人は味方だ。そう思えた。
礼服の女性は街の子たちを家に帰すと、わたしのお母さんに会いたいと言った。何かとても大事な話があると言っていた。
それからの事は本当に早かった。わたしは王都に行く事に決まった。勇者様の仕事を手伝うという大きな仕事を任された。初め、お母さんは戸惑っていたが、最後にはわたしに決めさせた。
虐められる街に未練はない。唯一あるのはお母さんと離れ離れになってしまうこと。だけど、勇者様の仲間として必要とされていること。他の誰でもないわたしでないといけないこと。お母さんは笑顔でわたしを励ましてくれた。
そして、わたしは決心した。