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05

イストリア。王都に属する都市の中で最も学術に秀でた都市。大きな港が隣接し、古今東西の学術が集まる場所として世界に名を馳せている。人間の歴史から最先端の技術。そして、魔族の研究も行われている。いや、それは既に過去形となってしまった。

 ライードたちが到着した時、イストリアは壊滅していた。

 街は破壊しつくされ、街を守る守備隊は一人残らず殺されていた。街の中央に存在する学院は形こそ留めているものの、悲惨な有様だった。研究者、取り分け魔術の研究をしていた者は捕まり、拷問に掛けられながら死んでいった様だった。魔族たちの狙いは何だったのか分からなかった。しかし、イストリアからの避難民が口にした言葉でそれが明らかとなった。


『魔王マレカ・ヘルシャーが人間たちに告げる。

我々魔族は人間に宣戦布告する。

先の大戦でお前たちが持ち去った幹部たちの身体、そして先代魔王レイナ・ヘルシャーの身体を奪還するまで我々は軍を以て進攻する。

そして、奪還した暁にはレイナ・ヘルシャーは再び魔王として君臨することになるだろう。


我々は人間を許さない』


 イストリアからのに避難民が口ぐちにそう告げる。

 魔族の宣戦布告。魔族たちは最初の一石を投じた。人間側にその気が無くとも、奴らは進攻を止めない。


「こっちは誰もいませーんっ」

「こちらも同様です」

「もう全員死んじまってるなぁ」

 ライードたち四人はイストリアに入り、逃げ遅れた住民の救助に参加していた。隣街からやってきた守備隊が主だった捜索活動だ。

「これ以上は時間の無駄ですね」

 ユースティアが冷静に呟く。その言葉にライードは悔しげに顔を伏せた。多くの人間が死んだにも関わらず勇者である自分は何もできなかった。

「それで、これからどうするんだ?」

 レベリオがライードを見る。エレティコも近くに来ていた。

 三人の視線が集まるのを感じ、ライードは顔を上げる。今は自分の不甲斐なさを嘆いている場合ではない。魔族が進軍してくるのだ。これ以上の被害を出さないように行動をしなければならない。

「魔族軍の進攻ルートか……」

 進攻ルートさえ分かれば先回りも出来る。しかし、ライードには魔族軍の進攻ルートを予測することはできなかった。魔族軍の目的である幹部たちの死体の場所は分かっている。しかし、魔族軍がどの順番で進攻してくるかが読めない。

「進攻の順番が分からないのなら、こちらの戦力を分散するしかありませんね。カルチェレにレベリオ、エヘルシトには私、ミゴンにはエレティコ、それに王都にはライード。これならば全員が地の利を得られます」

 ユースティアが状況を整理して言う。

「だけど、戦力を分散させるのはマズくないか?」

「敵の最終目的は前魔王の復活の様です。ならば、王都への進攻は最後のはず。我々三人は敵戦力の分析と可能ならば消耗を狙います。あなたは王都に戻り、最後の戦いに備えてください」

 ユースティアは淀みなく告げる。その姿にレベリオもエレティコも一切口を挟まない。

ライードは三人の素性についてあまり深くは知らないが、ユースティアは過去にこういった場面に出くわしているのかもしれない。何かの決断を迫られる場面に。

「わかった。ユースティアの指示通りに動こう」

 ライードは素直にユースティアの提案に賛同した。

「だけど、決して無理はするなよ。敵の最終目的はレイナ・ヘルシャーの死体の奪還だ。それさえ阻止出来れば良い」

「はいよ。だがまぁ、余裕があれば魔王とやらをぶっ殺してくるぜ」

「大丈夫です。私、逃げるのは得意ですから」

「おそらく王都での戦いは避けられません。それまでに国民の避難をしておいてください。勇者として国民を守ってください」

 四人は互いに互いを鼓舞してイストリアを後にした。




「本当にレイナは生き返るのか?」

 アースがマレカに聞く。死んでしまったレイナを生き返らせることができるのか。

「えぇ、もちろんです。その為には姉さまとアイラ、グラオベン、アイギスの身体が必要不可欠なんです」

 マレカは淀みなく答える。確信を持っている口ぶりだった。

「身体、か……」

 レイナたちの身体は人間が保管している。当然、それを奪還しに行けば戦いは避けられない。事実、イストリアで四人の身体の保管場所を調べた時も戦闘になり、多くの人間が死んだ。そして、マレカは人間に宣戦布告をした。

 アースは自分の言葉を思い出す。

 ――もう魔族と人間の戦争は起こらない。俺が起こさせない!――

 レイナに誓った言葉。自分はそれを破ろうとしている。目の前のマレカを止めることもせずに加担している。

 今のアースの姿をレイナが見たら怒るだろう。あの約束は嘘だったのか、と。

「大丈夫ですよ。姉さまとの約束を破ってまで協力してくれる。私は本当に感謝しています。それに、アースさんも姉さまにもう一度会いたいでしょう?」

 心の内を見透かしたかのようにマレカが口にする。

 レイナに会える。考えてもなかった申し出にアースの心は揺れた。会えるならば会いたい。

この二年間、日に日に後悔の念が増えるばかりだった。どうすればレイナを救えたのか。アイギス、アイラ、グラオベンを救えたのか。そればかりを考えていた。

 マレカに協力する。都合の良い言い訳でしかないが、アースはレイナが生き返ることを望んでいた。

「あぁ、レイナに会いたいさ」

「人類を敵に回してでもですか?」

 人類を敵に回す。

 つまり、人間を殺すということ。

 つまり、魔族と人類の戦争は避けられないということ。

 つまり、レイナとの約束を破るということ。

 しかし、それをしなければレイナとは二度と会えない。

 アースは決心した。約束を違えることになろうとも、今度こそレイナを守り通してみせる、と

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