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04

 王都を出てから数か月が経った。四人は途中の街々で国民の支持を得るために尽力しながら旅を続けていた。ライードはいるだけで国民の心を救い、ユースティは街が抱える問題を洗い出し、レベリオは荒事を率先して片づけていき、エレティコが甲斐甲斐しく動き回る。よくできたチームワークだった。

 そんな旅を続けていく内に四人はある土地の近くまで来ていた。

 サタナボーデン。魔王が討伐された土地。人間と魔族との戦争の終結地点。

「二年間誰も住まないだけでここまで酷くなるんですね」

 エレティコが周囲の家屋を眺めながら言う。

「戦闘の激しさも影響しているみたいですね」

 辺りには戦闘の際に焼け落ちたであろう家屋や投石機からの攻撃で押し潰された屋台などがある。しかし、人間や魔族の死体はどこにも無かった。二年が経過しているならば当然と言えば当然かもしれないが、誰かが意図的に処理した様な感覚がライードを包む。

「……ここには誰も住んでないんだよな?」

「そりゃあ、こんな心気臭せぇ場所には誰も住まねぇだろ」

 そう言いながらも四人は何か異質なものを感じたのか、自然と脚が都市の中央にそびえ立つ城へと向かっていた。

 城の中は都市と比べて綺麗だった。攻撃に晒されていない証拠だ。しかし、それよりも何かがおかしかった。四人は城の中へ入った瞬間にそれを感じ取った。

「これって……」

「えぇ」

「こりゃあ、いるねぇ」

「……でも、誰が?」

 何者かが出入りしている。僅かに積もり方の違う埃。それよりも何よりも四人には感じ取れてしまう。異質な気配を。

 武器を手に城の中を進む。

「これってやっぱり待ち伏せなんですか?」

 エレティコが怯える小動物の様に弓を構えながら、周囲を警戒する。

「地の利がある場所での待ち伏せは効果的でしょうね」

 ユースティアは必要以上に身構えずに直剣と盾を手にぶら下げて持っている。

「魔族との戦闘かぁ?」

 手甲を殴り合わせて戦闘準備に取り掛かるレベリオ。

「魔族の残党、か……」

 先頭を行くライードが直剣を油断なく構える。

 やがて四人は大広間に辿り着いた。天高くそびえる柱が左右に並び、窓にはステンドグラスがはめ込まれている。神聖さを感じる場所。おそらく、魔族たちにとっても重要だったであろう場所。大広間の奥には玉座が存在している。墓を模した四つの玉座に花束と供物が捧げられている。

 花と供物の状態から見るに、ここ数日に置かれた物の様だ。

「お墓、ですね」

「名前も書いてありますね……」

 四人の内、唯一魔族の文字が読めるユースティアが墓をのぞき込む。

「レイナ・ヘルシャー、アイラ・ルプス、ガルディア・グラオベン、アイギス……」

 ユースティアの言葉で大広間は静寂に包まれる。四人とも互いに何を考えているのかが分かった。この魔族たちが何者なのか。自身の中に流れる血が滾る様にざわついた。

「しっかし、誰がこんな物を作ったんだ? 見たところ、魔族連中がここにいた訳でもなさそうだし」

 レベリオが墓石を眺めながら口にする。

 この土地には既に魔族は存在していなかった。しかし、誰かがこれを作り、墓守をしていたのは明白だ。

 そんな時だった。ユースティアが大広間の一角で声を上げた。

「こっちに来てください!」

 ユースティアの表情は固い。それだけで悪い気しかしなかった。三人は顔を見合わせながら彼女の下へと近付く。

「何ですか、これ……」

 エレティコが指差した先、ユースティアの足元には地図と思しき絵とそれに付随するように書かれた文字列があった。

「ここがこの街、そしてここがイストリア……」

 二つの都市の名前が並んでいる。それが何を意味するか、四人は薄々気づいている。

それは進攻。魔族による人間への攻撃。

「ハッハッハッ! 戦争が始まるなぁ!」

 魔族が人間の街を襲う。それは明確な敵対行動だ。人間と魔族の戦争。僅か二年前に終戦した戦争が再び始まろうとしている。

「マズいですよ……」

 エレティコは事態の重さに絶句している。

 ライードは考えた。一度、王都に戻って事態を説明するか。しかし、イストリアは王都とは別方向。王都に寄っていては確実に間に合わない。

 そして、ライードは決断を下す。

「よし、魔族軍の後を追おう」

 ライードの言葉で三人の表情が変わる。

「分かってるじゃねぇか。もしも王都に戻るとか腑抜けた事を言ってたら、ぶっ飛ばしてたぞ」

「そうですね。それが最善の策だと思います」

「わかりましたっ。一刻も早くイストリアを目指しましょう!」

 四人は魔族との戦いを予期しながらイストリアを目指した。



 アース・グラーヴォノエと呼ばれた男は少女をまっすぐ見つめた。

 ――似てる……

 少女は似ていた。レイナ・ヘルシャーに。まるでレイナ・ヘルシャーが生き返ったかのようだった。

 しかし、魔王レイナ・ヘルシャーは勇者アース・グラーヴォノエによって殺されている。どこにでもいるような無邪気な少女だったレイナは多くの仲間を失い、自我を失い、最後はアースの手で逝った。それは変わることのない事実だ。ならば、いま目の前にいる少女は何者なのだろう。

「お前は、誰だ?」

 アースが直剣の切っ先を少女に向ける。意識を取り戻した護衛の魔族たちが間に入り、身構える。しかし、少女は護衛たちの前に歩み出た。

「初めまして。私はマレカ・ヘルシャー。姉さま、レイナ・ヘルシャーの双子の妹です」

 少女は恭しく頭を垂れた。

「双子の妹だと? そんな話は聞いていないな」

 レイナからそんな話は聞いていない。アースは二年前を振り返ったが、双子の妹がいるなど一切聞いていなかった。

「それもそうでしょう。姉さま自身も私の存在は知りませんでしたからね」

 レイナの妹だと名乗ったマレカが語る。自身の出自と現状。

生まれてすぐにレイナとマレカは別々の土地へと移された。レイナは魔王の正統後継者として父親である当時の魔王と共にサタナボーデンへ、マレカは第二後継者として極一部の魔族しか知りえない土地へと。もしもレイナが死んでしまっても、魔王の血筋を守る為にマレカはひっそりと暮らしていた。

 そして、正統後継者であるレイナが死んで第二後継者だったマレカが魔王になった。失意の中にいた魔族は純血の魔王であるマレカを筆頭に勢力を回復させつつあるという。

「姉さまとの話は信じられませんか?」

 マレカが口を尖らせて言う。その仕草はレイナそっくりだった。

「でしたら、私が姉さまの妹であるという証拠を見せましょう」

 マレカは佇まいを直し、ワザとらしく咳払いをすると、目を瞑った。そして、目を開けた瞬間、マレカが纏う雰囲気が変わった。

「アース、久しぶりっ」

 その言葉にアースは息が詰まった。目の前にレイナがいる。頭ではマレカだと理解していても、錯覚を起こしてしまう。

「二年ぶりぐらいかな。元気だった?」

 他愛のないことを言うマレカ。しかし、その一言一言がアースの中にいるレイナの偶像と重なる。

「……レイナ、すまない」

 アースの口から漏れた言葉。仲間を救うことが出来なかった自分。彼女を救うことが出来なかった自分。あまりにも不甲斐なかった自分。そんな自分が彼女に何を言えばいいのか、分からなかった。ただ謝ることしか出来なかった。

「……どうでした? そっくりでしょう」

 不意に目の前の少女が纏う空気が元に戻った。礼儀正しくお淑やかな少女。レイナとは真逆の存在。

「……あ、あぁ」

 アースはレイナの面影をマレカに重ねた。二人の少女が重なる。双子の妹。今なら信じられる。ならば、アースはマレカに謝らなければならなかった。姉さまと呼び、慕ったレイナを少女から奪ったことを。

「マレカ、すまない。レイナを助けることが出来なくて……」

 頭を下げるアース。しかし、マレカはそれを手で静止し、告げる。

「謝らないでください。姉さまは死んではいません。今も私の中で生き続けています」

 少女の目は優しさと真摯さを宿していた。アースに同情したわけではない。本当に心の底からそう思っている目だった。そして、マレカは自身の願いを語る。

「それに、私の目的は姉さまを再び生ある身体に戻すことです」

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