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 ――マズい。二人が……――

 僅かに離れた場所で二人の戦いを見守るマレカ。魔力のほとんどをレイナに渡した影響で身体に力が入らなかった。ライードたちもそれが分かっているのか、マレカを警戒する素振りは見せていない。マレカに出来る事と言えば、精々この場を離れることしかない。

 レイナは貴重な魔力を奪われ、アースも左目に致命傷を負った。ライードたちも負傷をしているが、まだ余力がありそうだった。

 ――なんとかしないと……――

 愛しの姉が追い込まれている。そう思うだけでマレカは居ても立っても居られなかった。しかし、今の自分に何が出来るのか。

 僅かな魔力しか残っていないマレカは人間の少女と同じほどに非力だ。人外の戦いに身を投じて無事で済むはずがない。むしろ、レイナの邪魔をしてしまう。

 時間はあまり残されていない。徐々に二人が追い込まれていく。現状を打破する為に思考を巡らせる。そして、一つの道筋を見つけた。しかしそれは、

 ――いやだ、折角会えたのに……――

 マレカには受け入れがたい案だった。

 尚も二人が追い込まれていく。身体に傷が増え、心を折られていく。敵は勢いのままに攻撃を仕掛けてくる。時間の問題だった。悩んでいる場合ではない。最も優先するべき事はレイナ。その為ならば自分ですら犠牲にしなければならない。

 ――折角、会えたのに……もっと一緒にいたかった……――

 マレカは薄らと滲む涙を拭い、顔を上げた。そして、タイミングを併せ、走る。

 ライードたち、そしてレイナとアースもマレカの存在に気付くのが遅れた。既に戦闘に参加できるとは誰も思っていなかったからだ。ゆえにマレカの行動を止める者は誰もいなかった。

「姉さまッ!!」

 マレカがレイナの前に立ちはだかる。迫るのはライードの一撃。突き立てられた刃がマレカの身体に沈み込んでいく。

 冷たい様な熱い様な不思議な感覚だった。直剣が身体を通過していくのが分かった。しかし、痛みは無い。目の前には驚きの表情を浮かべるライードがいる。

 ――大丈夫。私はまだ動ける――

 ライードの直剣に刺され僅かに残った魔力も奪われていく中、最後の力を振り絞って右手に魔力を込める。

 咄嗟にライードが防御の体勢に入った。しかし、狙うのはライードではない。狙うのは直剣だ。

 マレカの一撃がライードの直剣を叩く。止まっている武器ならば破壊することは容易い。それは予想通り、刃の中ほどから見事に分断された。ライードの手に残る半分の直剣。マレカの身体に埋まっている半分の直剣。

 ――あぁ、すごい。力が溢れてくる――

 マレカの身体に埋まっている直剣から魔力が溢れ出している。力が戻ってくる。これならばライードたちを倒すことも出来る。しかし、マレカはそれをしない。既に貫かれた身体は限界だった。たとえ魔力が万能の力だとしても、死ぬと悟ってしまっていては助からない。

「姉さま……」

 マレカは自身に突き刺さっている直剣を抜き取り、レイナに近付いた。

「マレカ……」

 レイナはマレカが何をするかを悟ると両手を広げて受け入れた。

 直剣の欠片がレイナの身体に埋まっていく。欠片が身体の一部となる。肉体の繊維が絡まり、癒着していく。既にレイナの身体に魔力が満ち始めていた。

 ユースティアは事の重大さを直感した。レイナが魔力を溜めこみ、更には魔力を吸収すらも出来る直剣を取り込んだのだ。魔力が有限だったからこそライードたちはレイナと対等に戦えていた。それが覆される。

「今ならっ!」

 今ならばまだ間に合う。そう信じて剣を振るうが、それはレイナによって呆気なく弾かれてしまった。

 レイナはマレカを抱きしめる。マレカの命がもう短いと分かっている。最後の言葉を紡ぐ。

「マレカ、ありがとう。私、絶対に負けないよっ」

「姉さま、私は幸せです。最後に姉さまのお役に立てて、笑顔が見れて」

 小さい頃に離れ離れになったレイナを夢想し、想いを馳せていたマレカ。姿は見えずともいつもレイナを追いかけ、いつかは隣を歩けるように努力を続けてきた。レイナの訃報を聞いた瞬間、マレカは世界の終わりの様に感じた。しかし、諦めなかった。レイナを蘇らせ、未来永劫手を取り合って生きていこうと決心した。

 マレカは幸せだった。レイナの為に生き、レイナの為に死んでいくことが幸福だった。

「アース、さん……」

 パストゥールからの報告にあった元人間の勇者。

 マレカにとってアースはただの協力者だった。むしろレイナを取り合うライバルとなりうる存在だった。しかし、短いながらも旅を共にして、彼の人となりは分かったつもりだ。

 アースはレイナの敵にはならない。

 それだけが分かれば十分だった。本当ならば、譲るつもりは毛頭なかったが、マレカはレイナを支える役目をアースに譲ることにした。

「姉さまをお願いします」

「お前は、それでいいのか?」

「えぇ。それに私はいつまでも見守っていますし、すぐにまた会えます」

 マレカは悲壮感など感じさせない笑顔で口にした。まるで確信めいた物言いだった。

「それでは、姉さま。私は逝きます」

 ゆっくりとマレカがレイナの首に腕を回す。そして、微かに口づけをした瞬間、全身から力が抜けた。



「……ありがとう」

 レイナは大粒の涙を流しながら、マレカを横たえた。そして、顔を上げて涙を拭った。

 ――気持ちを切り替えよう――

 レイナはそう念じながら周囲を見渡した。

「待ってなくても良かったのに……」

 途中、ユースティアが僅かに邪魔をしてきたが、ライードたち四人は何の行動も起こさなかった。攻撃を加えるには絶好の機会だったのにも関わらず。

「あんだけ、殺気を放ってりゃ仕掛けられねぇだろ」

「そうだよね。もしも邪魔に入ってたら、すぐに殺してたよ」

 レイナはレベリオに笑顔を向ける。強者の余裕。今や圧倒的な力を手に入れたレイナだ。満身創痍の四人を殺すことぐらい容易い。しかし、そうはしない。

「お前たちの魔力を奪い尽くす。それに、お前たちからは懐かしい魔力を感じてたんだ……」

 レイナはライードたちを一人ずつ指差して口にする。

「アイギス、グラオベン、アイラ、そして、私。お前たちは絶対に許さない、偽物がッ!!」

 レイナが構える。その瞬間、ライードたちも構えた。

「アース、マレカをお願いね」

 レイナは敵を見据えたまま口にした。

「分かった。だけど、あまり時間は無いぞ」

 アースの言う通り、城は崩壊を始めていた。城壁が崩れ、城内の至る所で火が立ち上がっている。上空には鳥型の魔族が飛び、それを射抜こうと矢が絶え間なく放たれている。

 始めに動いたのはレイナだった。決してアース程に速くはない。しかし、ありのままに放たれた殺気に当てられ、標的にされた者は指一本動かすことも出来なかった。

 狙ったのは最も精神的に未熟なエレティコだった。幼い彼女は正面から殺意を向けられた経験が少ない。それゆえに身体が竦み、何も出来なかった。

 エレティコの腹部にレイナの拳が叩きこまれる。拳が皮膚を貫通しなかったのは、殺さずに苦しめる為にレイナが手加減をした結果だ。エレティコが城壁に激突し、瓦礫の下敷きになる。

まずは一人、戦闘不能にした。次の狙いはレベリオだ。

 攻撃の要であるライードとレベリオ。ライードは直剣を失い、ほとんどの戦力を失っている。ならば、片腕が潰されようと闘志を漲らせているレベリオを先に叩く。

 レイナの接近にレベリオは反応するが、レイナは容赦なくレベリオの潰れた片腕を狙う。骨が砕け、健が引き裂かれようが痛みは感じる。むしろ、痛みは倍増する。

「があぁっ!」

 レベリオの左腕にレイナの蹴りが決まる。僅かに残った骨すらも粉々にする一撃だ。

「ふざけやがって!」

 レベリオは残された右腕と両足でレイナを攻め立てるが、触れることすら出来なかった。そして、

「これで、ふたり……めっ」

 レイナの上段蹴りがレベリオの側頭部を捉える。意識を刈り取られ、レベリオは地面に伏した。

「ハァァァァッ!」

 レベリオが倒れる瞬間、ユースティアが斬り込んだ。レイナの反撃を盾で防ぎながら踏み込んでいく。

「ライード、武器をっ!」

 ライードの直剣は折られ、いま彼の両手には何も無い。しかし、ユースティアは言っている。武器を手にして戦え、と。

 ライードは周囲を見渡した。そして、唯一の武器を見つけた。

「結局、俺はアンタの後継者なのかよ……」

 悩んでいる暇はなかった。ユースティアの盾が砕け、彼女に強烈な連打が浴びせられた。そして、レイナが最後の標的に的を絞った。

 レイナが迫る。ライードは無我夢中で手を伸ばした。そして、直剣を握り締めた。刃を翳し、牽制する。僅かに間に合わなかったレイナは立ち止まってライードを見つめた。

「はははっ、お前がソレを握るか!」

 アースが使っていた直剣。それは、レイナたちの父である魔王が使っていた物だ。人類の勇者が魔王の直剣を使う。本来ならば怒りが込み上げてくるところだが、レイナは愉快そうに顔を歪めた。

「俺の剣はお前の中にあるからな」

 ライードは直剣を構えながら軽口を叩く。

人類の希望である直剣はレイナの体内に。魔族の切り札である直剣はライードの手の中に。何の因果か、互いの武器を手にして二人が対峙する。

「他の連中は倒されたぞ。あとはお前だけだっ!」

 言葉と共にレイナが大地を蹴る。瞬間的な接近。ライードもそれに呼応して、直剣を振るう。

 刃が漆黒の長髪を切り裂き、頬を掠めるが、レイナは止まらない。レイナの拳が直撃する瞬間、ライードは腕を引き、直剣の柄で拳の軌道を逸らすのに成功した。

 体勢を崩されながらも、レイナの攻撃は止まらなかった。しかし、ライードはなんとか喰らいついていた。

 刃と拳がぶつかり合う。一撃ごとに衝撃波が周囲を叩き、草木を揺らす。互いに一歩も引かない攻防だ。しかし、レイナにはまだまだ余裕があった。

「ほら、もっと速くするぞ!」

 レイナの速さが一段と階速くなる。そして、ついに均衡が崩れた。

 胸への一撃。一瞬だけ心臓が止まり、意識が混濁する。続けざまに腹部と顎に強打を浴びせられ身体が浮いた。そして、最後の回し蹴りで吹き飛ばされた。

 もはや、途切れかけた意識の中に痛覚は無かった。城壁にぶつかったのだろうという感覚だけがライードに伝わった。

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