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エレティコが一時的に離脱して、レベリオとアースは一対一の戦いを繰り広げていた。拳と剣の応酬。互いに決定的な一撃を与えることも貰うこともなかった。
「助けに行かなくていいのか?」
レベリオの言葉にアースが答える。
「お前を倒すのが先だ!」
直剣の横薙ぎを潜り抜けると同時に拳を突き上げる。
アースは難なく避けるとレベリオの腕を取り、投げ飛ばす。
「おいおい、そんなことも出来るんのかよっ」
体勢を崩しながらもレベリオは受け身を取る。しかし、既にアースが距離を詰めてきている。迫るは鋭利な切っ先。防御が間に合わない。アース渾身の突きがレベリオの眼前へと飛び込んでくる。
しかし、突きが命中する直前にエレティコが間に入った。ナイフで突きを受け、勢いを殺そうとするが、それは叶わずレベリオごと吹き飛ばされてしまう。
二人が錐揉みしながら地面に転がる。
「すいません、少し離れました」
エレティコはレベリオの腕の中で詫びを入れる。
「助かったから、よしとするか」
レベリオは立ち上がり髪を掻き上げた。エレティコも立ち上がり、弓を手にした。
「向こうはどうなった?」
「形勢逆転です」
エレティコの言葉を聞いてレベリオは笑った。
「そうか。だったら、こいつを早めに片付けないとなぁ!」
「はいっ」
二人は同時に動いた。レベリオが前、エレティコが後ろ。自然と役割分担はできている。
正面から距離を詰めてくるレベリオにアースも応戦する。常にエレティコの位置を把握し、視界に収める様に立ち回る。レベリオの攻撃が止む瞬間、隙を消すようにエレティコの矢が飛んでくる。
「良いコンビだな」
冷静にアースは判断する。献身的なエレティコがレベリオの隙を消す。厄介なエレティコに狙いを定めれば、獰猛なレベリオがすぐさま喰らいついてくる。
レベリオの拳撃を掻い潜り、斬撃を放つ。手甲と刃が弾け火花を散らす。拳圧に体勢を崩された瞬間、脚を光の矢が貫いた。アースの動きが鈍くなっていく。
やはりこれほどの実力者を二人同時に相手取るのは無理だったのか? そんな事を思うが、アースはまだ諦めていなかった。
レイナを復活させる為に誓いを破り人類の敵となった。そして、復活したレイナを守る為に人類の勇者たちを倒す。
アースは距離を取って、深呼吸した。その姿に只ならぬ雰囲気を感じ取ったレベリオとエレティコは攻撃の手を休めていた。そして、それは勝敗を決することになった。
――イメージするんだ――
アースは直剣を構えて考えた。グラオベンの言葉、アイギスの誓い、アイラの願い。最も自分が得意とする戦い方。全てを置き去りにするほどの速さ。極限まで研ぎ澄まされた一撃。
アースの身体を魔力が流れていく。青白い光が身体を包んでいく。周囲の木々が僅かに騒めく。
「ついに本気、か」
アースの異変にレベリオは警戒心を高めた。いつでも動き出せるように腰を落とし、半身を引いた。
「力が集まってる……」
弓を引き、狙いを定める。いま放てばアースは動き出す。アースが動き出せば次の矢を引く暇さえなく戦いは終わるはずだ。エレティコの直感がそう告げている。ならば、確殺の一矢を放たなければならない。勝負は一瞬だ。
――イケるッ!――
アースの身体が僅かに動き出した。そして、次の瞬間には少しばかりの土煙を残して姿を消していた。
「――ッ!」
レベリオの身体が反応する。来ると分かっていたからこそ反応できた動きだった。しかし、一撃目を防いでもアースが止まることはなかった。
――一……二……三……四……――
アースは自身がレベリオに刻んだ傷を数えながら尚も剣を振るった。レベリオの手足が血まみれになっていく。既にまともに防御すら出来ていない。
「速過ぎる……」
狙いを定めるエレティコだったが、アースの動きに追い付くことが出来なかった。アースが常に動き続けており、決定的な瞬間が訪れない。しかし、そんな時だった。不意にレベリオがエレティコに視線を送った。
何かを意味している。エレティコはそう思った。そして、次の瞬間、レベリオが何を言わんとするか理解した。
アースの一撃を捨て身で受け止める。翳した左手に直剣の切っ先が突き刺さる。肘を砕き、貫いた一撃が動きを止める。
「……逃がさねぇぞ」
レベリオが不敵な笑みを浮かべる。アースは直剣を引き抜こうとしたが、レベリオがそれをさせない。そして、背後からエレティコが狙いを定めていた。
「終わりですっ!」
黄色の輝きを纏った矢が放たれる。必殺の一撃。レベリオが作り出した千載一遇の勝機を逃すわけにはいかない。
矢は一直線にアースの胸へと駆ける。大気を巻き込み、周囲の障害物を吹き飛ばす。
「舐めるなァッ!」
アースが直剣から手を離し半身を引いて振り返る。かつてレイナは素手でバリスタの矢を弾いた。それをここで再現すべく、アースは左手を矢の軌道に合わせて振り上げる。
タイミングが完璧だった。矢を叩き、軌道を逸らす。左手の皮膚が裂け、血が滲むがアースはそんな事など気にもせずに力を込めた。
矢の先端が上へと向き、軌道が変わる。しかし、エレティコが放った全身全霊の一矢は勢いを失うことなくアースを狙い続けていた。
「――――ッ!?」
矢がアースに突き刺さる。当初の狙いである胸ではなかった。しかし、致命傷となりうる左目へと突き刺さった。
「がああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
アースの身体が弾かれた様に仰け反る。今まで味わったことのない痛みだった。眼球を通して脳が焼ける様に痛む。痛みが脳を支配し、大きく脈打っている様だった。視界が削られてしまった。それだけではない距離感まで失っている。
痛みが全身を駆け抜ける中、エレティコの追撃を察知した。またとない好機に攻撃を仕掛けてくる。当然の行動だ。
――くそっ――
残された右目で攻撃を避け、距離を取る。直剣は手元に無い。
――片目と武器を失った、か――
痛む左目を押えながらアースは状況を再確認する。戦況としては追い込まれている。レベリオの片腕を奪ったといえどエレティコはまだ戦える。正面から戦って勝てる見込みは限りなくゼロに近い。
レベリオが自身の腕に突き刺さっていた直剣をうめき声と共に引き抜いた。左腕は脱力し、すでに使い物にならないと物語っている。
「ようやく、追い込んだぜ……」
直剣を投げ捨て、レベリオが笑みを浮かべた。




