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最初に動いたのはレイナだった。それに呼応するようにユースティアが距離を詰める。
レイナの一撃をユーステイアの盾が受け止める。当然、ライードも動いている。マレカと戦った時と同じだ。ユースティアが隙を作り出し、ライードが隙を突く。
ライードの直剣は空を斬る。しかし、すぐさまユースティアが距離を詰める。
背後ではアースとレベリオ、エレティコの戦いも始まっていた。
レベリオは我先にとアースに肉薄し、拳を振るう。エレティコが攻撃を躊躇う程の連撃を繰り出す。しかし、エレティコも僅かな隙間を見い出して矢を放つ。
拳と弓の止まることのない波状攻撃にアースは後退する。
序盤は四人の優勢だった。しかし、
「やっぱり、二人掛かりだと強いね」
レイナは笑みを浮かべながら口にする。相手を強いと言いながらも、まだ余裕を見せつけていた。
「ユースティア、一撃だ。一撃でも入れば流れは変わる」
「えぇ。その為には動きを止めないといけませんね」
言葉の通り、ライードの持つ直剣での一撃が入れば流れはライードたちへと傾く。事実、マレカは追い詰められていた。
二人は策を講じ、一つの賭けに出ることに決めた。
レイナはマレカの忠告を聞いていた。しかし、ライードの直剣に恐れることなく走り込んでくる。
「そうそう! 楽しいねっ!」
レイナは笑顔で攻撃を避ける。上段下段、縦切り横切り、全ての攻撃を見切っていた。負傷をしているライードでは斬撃を当てることは難しかった。しかし、それはライード一人でのことだ。
「ハァァァァッ!」
背後から距離を詰めたユースティアの直剣がレイナを狙う。当然、不意打ちであろうがレイナは反応している。しかし、それで良かった。狙いは注意を引くこと。
前後左右から迫る刃をレイナはいなす。僅かに触れたのはレイナの漆黒の長髪だけだ。
ライードとユースティアは常に挟み撃ちにしながら直剣を振るう。そして頃合いを見て作戦に移った。
ユースティアが盾で地面を叩き土煙を上げた。周囲の視界は阻まれるが、レイナは意識を集中させた。既に一度対処している攻撃だ。慌てることはない。
一瞬、刃が陽光を浴びて光った。そして、真っ直ぐに近付いてくる人の気配を感じた。
ライードの直線的な斬撃を弾き、お返しとばかりに拳を叩きこむ。そして、すぐさま周囲に気を配る。姿を見せないもう一人がいる。分かっている。
「後ろでしょ!?」
背後から感じる気配にレイナは振り向きざまの蹴りを放つ。刀身の腹を蹴られ、剣筋がぶれると、ユースティアは盾を構えて反撃に備えた。
盾の上からでもお構いなしにレイナは重い一撃を加えた。衝撃が盾全体に響き、ユースティアの身体が飛ばされる。
二人を排除して一息吐こうとした瞬間だった。
「レイナ、もう一人だ!」
アースの声が土煙の奥から聞こえた。それと同時に視界の真下に映る人影を認識した。
身を低く低く屈め、エレティコがナイフを構える。必中の距離だ。いくらレイナといえど既に遅かった。
「やぁっ!」
両手に握られたナイフを真っ直ぐに突き出す。エレティコの一撃はレイナの脇腹を抉り、血を迸らせた。レイナの顔が苦痛で歪むが致命傷ではない。しかし、ライードたちの攻撃は止むことはなかった。
「もらったぁ!」
土煙を切り払いながら二本の直剣が迫ってくる。エレティコはすばやく離脱し、残されたレイナは決断を強いられた。
右からはライードの直剣が、左からはユースティアの直剣が迫っている。二撃を同時に避けることは出来ない。どちらか一方の攻撃を受けるしかない。
当然、レイナはすぐに決断した。最も恐ろしいのはライードの直剣だ。魔力を奪われる直剣の一撃を受ければ、レイナの動きは阻害される。
ライードに身体を向け、レイナは手刀を振り下ろす。一撃は寸分違わず直剣の刀身を叩き、地面へと軌道を変えた。その瞬間、背中に鋭い痛みが走る。
「ぐぅっ!」
ユースティアの一撃がレイナの背中を斬りつける。ドレスに赤い血が滲んでいく。レイナは背後のユースティアへと蹴りを放つが、既にそこには誰もいなかった。絶好の機会だというのに追撃をしてこなかった。その理由をレイナはすぐに理解することになった。
「えっ……力が……」
身体の中から何かがすっぽりと無くなったような感覚。血液が奪われて身体が正常に機能しなくなる感覚とは違う。もっと何か根本的な力が失われているようだった。
「魔力が……」
ライードの一撃を防いだレイナだったが、身体から魔力が減っていた。一体どこで? そんな考えが頭を過ぎるが、答えはすぐに導き出された。
「案外、上手くいくものですね」
「そうだな」
ユースティアとライードが互いの直剣を投げ、交換する。絡繰りは実に簡単なものだった。
「これで足元に及ぶぐらいにはなったか?」
「そのまま掬ってやりましょう」
二人は冗談を言いながらも集中を乱さなかった。決して油断はしない。相手は魔王だ。確実に息の根を止めるまで油断をしてはならない。
「お前ら……」
レイナは背中の痛みを耐えながら、ライードとユースティアに憎しみの視線を送った。




