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 剣と剣がぶつかり合う音が聞こえる。アースとライードの戦いが始まったのだろう。

 マレカは城の中庭で遠くに聞こえる剣戟を聞きながらレイナを抱いていた。身体を抱き、頭を抱える。それだけでマレカは幸せだった。ようやく取り戻した。そんな思いがマレカを満たしていく。

 しかし、マレカの目的はレイナの身体を取り戻すだけではない。その先が真の目的だ。

 王都は激しい戦火に見舞われている。城が崩れ落ちるのも時間の問題だ。魔王という絶対的な存在に統率された死をも恐れない軍の前では時間稼ぎが関の山だ。

「さぁ、姉さま。目覚めてください……」

 マレカが取り出したのは黒いベルトだった。内側に無数の杭が打ち込まれているベルトをレイナの首へとあてがう。マレカがレイナの頭と身体を繋げる。切断面に杭が刺さり、頭と身体を固定していく。僅かに血が滴るが、マレカは紅潮した表情でソレを舐め上げる。

「姉さま……ああ、姉さま」

 マレカが官能的な笑みを浮かべ、レイナに口づけを交わす。同じ顔をした少女たちが体液を交換する様な濃厚な接吻をする。周囲を拒絶するように二人の世界にのめり込むマレカ。

 その時、マレカの身体が僅かに輝き、魔力が流れ始めた。魔力はマレカの口からレイナの身体へと流れ込む。魔力が血液の様にレイナの全身へと止めどなく流れ、身体を満たしていく。

 長い口づけを終えると、マレカはレイナの身体を大事そうに抱えた。神に祈る様に顔を強張らせる。やるべき事は全てした。あとはレイナが目を覚ますだけだ。

 ――お願い。姉さま、目を覚まして――

 静寂が周囲を包む。

 どれほどの時をそうしていたのか、マレカは静かに待った。そして、マレカの腕の中でレイナの身体が僅かに動いた。長い眠りから目覚める様にゆっくりと身体を動かして、レイナが目を開ける。

 至福の時だった。今までの努力が報われ、不可能と思われた偉業を成した。マレカの両目に涙が浮かぶ。思わず、レイナの身体を強く抱きしめていた。

「えっ……」

 レイナは突然の事に困惑していた。しかし、今がどういう状況なのかは理解できた。

 目の前にいるのは双子の妹。生まれてすぐに引き離されて、今まで一度も会ったことはなかったが妹だと分かる。意識を失う以前の事はうまく思い出せないが、辛いことがあったのは分かる。そして、今まさに敵が迫っている事が分かった。

「姉さまっ、姉さまっ!」

「マレカ、ありがとう」

 レイナの言葉を聞いて、マレカの瞳から再び大粒の涙が零れた。

 まるで子供の様だった。レイナは声を上げて泣くマレカの頭を撫でてやり、落ち着かせる。そこへ二人の時間を邪魔するように一人の騎士が現れた。

「レイナ・ヘルシャー……」

一瞬の絶望の後、ユースティアがレイナを睨む。魔王の復活が現実のものとなってしまった。一歩遅かった。

 レイナはユースティアの姿を見た瞬間、目の前の女騎士が敵だと悟った。自分の命を狙う人類の英雄。

「マレカ、少し良い?」

 マレカの肩を抱き、優しく言う。

「お姉ちゃんが、あいつを倒しちゃうからね」

 マレカは多くの魔力を使って見るからに消耗している。とても戦える状態ではない。ここは姉として妹を守らねばならない。レイナは立ち上がって、ユースティアを見つめた。



 ――最悪の事態が起こった――

 ユースティアはそう思った。

 魔王レイナ・ヘルシャーの復活は何としても阻止しなければならなかった。しかし、いま目の前にいるのは紛れもなくレイナ・ヘルシャーだ。

 ユースティアは武器を構え、戦いに備える。しかし、次の瞬間には頬に走る痛みと共に身体が浮いていた。殴り飛ばされた事に気付いた時には手遅れだった。

 ろくに受け身も取れずに城壁に激突した。音を立てて崩れる城壁の中、ユースティアは気を失った。

「これでよしっ、と」

 レイナは服に付いたゴミを払ったかの如く口にした。

「姉さま、流石です!」

 マレカが手を叩いて賞賛する。それを聞いて、レイナは恥ずかしそうに微笑んでいた。

「さぁ、マレカ。これからはどうする?」

 両手を広げて眩しいばかりの笑顔を浮かべたレイナ。それを見られただけでもマレカは自分がしてきたことは間違っていなかったと確信できた。

「姉さまは何がしたいですか?」

 本音を言えば人間に復讐をしたかった。しかし、マレカはそれを口にはしなかった。まずはレイナがしたいことをする。人間を皆殺しにするのはそれからでも遅くはない。

「う~ん、したいことかぁ……」

 腕を組んで考え込むレイナの姿を見たマレカに笑みが零れる。子供が悩むような仕草がとても可愛らしかった。

 二人の間に穏やかな時が流れる。しかし、いま二人がいるのは戦場だ。魔族と人間が戦い、互いに命を削り合っている。当然、敵の追手が現れる。当然、勇者が現れる。

「…………レイナ」

 不意に声が聞こえた。レイナは声のする方に振り返り、その男を見た。

「本当に、レイナなのか……」

 信じられないものを見たかのようにアースの思考は停止した。目の前にレイナがいる。生きている。二年前と変わらずに、そこにいる。

「……アース?」

 アースを見た瞬間、レイナの中に不思議な感情が芽生える。二年前の記憶は鮮明に思い出せないのに、アースを見ると心が安らぎ、信頼をしていた。

 二人は歩み寄り、手を取り合い、涙を流した。

 ――もう一度、レイナに会えるなんて――

 ――なんでか分からないけど、アースがいるだけで嬉しくなる――

「レイナ、怪我はしていないか?」

「うん、ずっと寝てたからね」

 お互いの隙間を埋める様に他愛の無い会話を続ける。しかし、そこに割って入る存在がいた。

 まさに二人の間に光の矢が殺到する。狙いはアースとレイナの心臓だ。

 最短距離を一直線に伸びてくる矢に気付いた二人は咄嗟にお互いを突き飛ばし、その場から離脱する。

 矢が地面に突き刺さり土煙を上げる。敵襲を察した時には視界を奪われていた。頼れるのは聴覚のみだ。僅かな音で敵の肉薄を察知し、対応する。

 アースを狙うのは二つの拳。鋼鉄の拳がアースを襲う。

「ようやく、追いついたぜ!」

 土煙の奥から獰猛な笑みを浮かべたレベリオが近付いてきた。鮮明になってきた視界に弓を構えたエレティコが飛び込んでくる。

「レイナッ!」

 アースに攻撃を仕掛けてきたのはレベリオとエレティコ。そして、レイナを襲ったのはライードだ。

「わたしは大丈夫!」

 レイナはライードの斬撃を捌きながら返事をした。まだ余裕はありそうだ。アースはそう判断した。しかし、マレカの一声で考えを改めざるを得なかった。

「姉さま、そいつの剣に触れると魔力を奪われます!」

 膝をつき、満身創痍のマレカの姿を見れば理解できる。ライードに魔力を奪われ、レイナにも魔力を送ったマレカは既に戦える状態ではない。もはやただの年相応の少女だ。

 五人が目の前の敵に狙いを定める。ゆっくりと敵の動きを探る様に間合いを詰める。そして、六人目が目を覚ます。



 ――聞こえる――

 瓦礫の中、ユースティアの回復しかけた意識が激しい戦闘音を捉えていた。そこでようやく自分の置かれている状況を思い出した。

 魔王レイナ・ヘルシャーが復活したこと。そのレイナ・ヘルシャーに一撃で倒されたこと。

 ――こんなところで、何をやっているんだ!――

 全身に激痛が走る。しかし、ユースティアは倒れているわけにはいかなかった。仲間が戦っているのだ。自分が守らなくては誰がやる。

 ――立て! 立つんだっ!――

 手を膝につき、獣の咆哮の様に周囲に力を誇示しながらゆっくりと立ち上がる。目を向ければエレティコが歓喜の表情を浮かべている。レベリオは当然だ、と言わんばかりの顔だ。ライードは相棒の帰還を待ちわびていた。

 ――もう大丈夫。あとは、戦うだけだ――

「ユースティア・フェアラート、参ります!」

 白銀の盾と直剣を構え、ユースティアは戦場に舞い戻る。狙うは魔王の首。ライードと肩を並べて戦えば、それすらも可能になる。

「これで全員揃ったな」

「お待たせしました」

「各個撃破といくかぁ」

「絶対に負けませんっ」

 四人が背中合わせに二人の敵と対峙する。

 そして、二人が向き合い四人の敵を挟み撃ちにする。

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