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 王都の前に広がる平原。魔族軍の進攻ルートだ。魔族軍はここを通って王都に攻め入ろうとしている。知性の低い魔族には迂回と言う選択は無い。そもそも、迂回するほどの障害がここには無いと考えている。いま、平原にいるのはライード、ユースティア、レベリオ、そして、エレティコの四人だけだ。

 四人の前には無数の魔族が列をなして押し寄せている。大地が動くように進攻する様はこれまでの進攻の比ではない。

 そして、魔族軍の最前列に陣取っていた弓兵が攻撃態勢に入った。弓を構え、天目掛けて矢を放つ。開戦の合図だ。

 矢は放物線を描きながら四人を襲う。すると、冷静に各自が動き出す。ユースティアが盾を構え、精霊の加護を纏った巨大な盾を空中に映し出す。エレティコは前線を離脱し、遊撃へと向かう。レベリオとライードはユースティアの援護を受けながら矢の暴雨を潜り抜ける。

 フットワークの最も軽いレベリオが一番に敵陣へと飛び込む。拳を大地へと突き立て、穿つ。衝撃波が波及し一帯の魔族を吹き飛ばす。巨大な壁に出来た小さな綻びを狙うようにエレティコの放った光り輝く矢が飛来し、周囲の魔族を巻き込んだ突風が吹き荒れる。間髪入れずにライードとユースティアが左右に斬り込み、敵を分断する。

 各々が一騎当千の実力を有するライードたちが魔族軍を押し止める。しかし、魔族たちは味方が倒されることなどには気にも留めずに進攻を続ける。目的の前には個々の感情など意味をなさない。それが魔王に統率された魔族だった。

 次第にライードたちなど意に介さない魔族たちが王都へと這い寄っていく。そして、ついに魔族軍が門を破り、王都内へと足を踏み入れる。ライードたち四人だけでは全ての魔族を押し止めることは叶わなかった。しかし、王都内には多くの兵士が残り、罠を張って魔族たちを待ち構えていた。

 門へと詰めかけ、足の止まる魔族目掛けて攻城兵器が火を噴く。

 魔族たちが断末魔を上げて倒れていく。屍を踏み越えた魔族たちにも熾烈な攻撃を加えていく。しかしそれでも、攻城兵器の優勢も長くは続かなかった。上空から飛来した鳥型の魔族に周囲一帯を制圧された。

 人間同士ではありえない上空からの攻撃。なす術もなく多くの兵士が倒れていく。戦線は移動を始め、ついに魔族軍が王都を蹂躙し始めた。

「一旦退いてください! 王都内での戦闘に移りますっ!」

 ユースティアが声を上げて、三人に指示を出す。すぐさまエレティコは大きく跳躍し、鳥型の魔族を足蹴にしながら王都内へと舞い戻る。レベリオも渋々といった風に踵を返した。しかし、ライードだけが何かに気付いたように立ち止った。

「どうしたんですか?」

 ユースティアも気付いていた。何かがここにやって来る。そして、それはおそらくあの男だ。

「魔王が来る……それにもう一人……来る」

 あの男をライードに会わせるわけにはいかない。ユースティアはライードの手を取った。

「今ここで戦うわけにはいきません。私たちの目的はレイナ・ヘルシャーの遺体を守り抜く事です。少しでも有利な状況で戦うのが得策です」

 有無を言わさずユースティアはライードを連れて王都を目指した。

 ライードは魔王たちがやって来るであろう方角を見つめたまま指示に従った。



「弓兵で倒せるわけはない、か……」

 アースが戦線を見ながら口にする。遠くに映るのは勇者の従者たち三人と一人の男だった。

 勇敢にも魔族軍へと斬り込み、圧倒していく。あれが勇者なのだと分かった。

 自分にも勇者と持て囃された時期があったと思い、僅かに笑みが零れてしまう。それに気付いたマレカが口にする。

「後輩に会いに行きますか?」

「いや、どうせ最後には会うことになるんだ」

「それもそうですね」

 アースの言葉にマレカは余裕の笑みを浮かべた。

「では、私たちも行きましょうか」

 ゆっくりとマレカが立ち上がる。二人だけの悠然とした進攻が始まった。



 エレティコは王都の中を縦横無尽に動き回った。助けを必要としている場所へ赴き援護をする。エレティコの機動力を以てしてはじめて可能となる動きだった。おかげで王都軍の被害は最小限に止められていた。

 しかし、それも魔王が現れるまでの話だった。

 戦場の空気が変わった。魔族が活気づき、肌を焼き付くような感覚が王都を支配する。

 誰かが魔王を倒さなければならない。ライードとユースティアは魔王との決戦の場所になるであろう城へと戻り、防衛と指揮に手が離せない。レベリオは王都の中を暴れまわっているだろう。

 エレティコは一人で魔族軍と対峙した時のことを思い出した。魔王を護衛する剣士。誰かがあの男を倒さなければならない。魔王とあの男が城に入り込めばライードとユースティアと言えど、勝てる見込みは低い。

 自分がやるしかない。魔王と男を分断する役目は自分がやらなければならない。エレティコはそう思い、王都を駆けた。



「もう全快したみてぇだな!」

 王都の広場でレベリオが声を上げる。目の前には魔王とあの男がいる。

 魔王が現れた事をいち早く察知したレベリオは真っ先に襲撃を仕掛けた。あの時の心残りを今日こそ晴らすため。目の前の男を倒し、魔王と戦う。

「はじめっから全力でいくぞっ!」

 レベリオは正面から攻撃を仕掛ける。男も素早く抜刀し、拳を受け止めた。いつかと同じ金属の弾ける音が木霊する。しかし、今回のそれは以前とは全くの別物だった。互いの攻撃は速さを増し、喰らえば一撃で致命傷になりうる威力だった。

「アースさん、私は先に行っていますよ?」

 魔王が暇を持て余しながら言う。男が魔王を促し先へと行かせる。しかし、レベリオがそれを許すはずがなかった。

「行かせるわけねぇだろ!」

 不意の攻撃。魔王の死角からの攻撃。絶対に当たるというタイミングだった。しかし、魔王はレベリオの拳を弾いた。

 ――マジか、こいつ!

 体勢を崩された瞬間。魔王がレベリオを睨む。数多くの殺意の眼差しを向けられてきたレベリオですらも戦慄を覚えるほどの眼差しだった。

 次の瞬間には魔王の拳がレベリオの腹にめり込み、吹き飛ばされていた。内臓が圧迫され、骨の折れる鈍い音が体内で響いた。民家の壁に激突した瞬間にもう何ヶ所か傷を負った。

「私は姉さまを助けに行きます」

 瞬間的に本気を出した魔王は既に駄々をこねる子供の様にムッとしていた。そして、足早に城を目指していった。

「……とんでもねぇな」

 レベリオは瓦礫の中から立ち上がり、全身を確認した。

 ――骨が折れて、中も傷ついてるな。まぁ、問題ないな。

 常人ならば意識を失って、そのまま命を落としてもおかしくない程の怪我だ。しかし、レベリオは自分が死ぬとは微塵も思っていない。

 男もその事は分かっている。油断なく直剣を構えて、距離を詰めてくる。

「魔王は後でいい。今はてめぇに集中することにするさ」

 レベリオは拳を構えた。今度は直線的な単調な攻撃ではない。フットワークを生かした近接戦だ。しかし、レベリオの想像と違い、身体の動きは僅かに鈍かった。

 僅かな鈍りが全身を蝕む。僅かなズレが生死を分かつ戦いでは致命的だった。男の攻撃がレベリオを押す。直剣の刃がレベリオを捉え始める。

 ――思った以上にヤバい状況か……

 二人の戦いが熱を増す最中、突如として光り輝く矢が飛来した。矢はレベリオの横をすり抜ける様に男を襲う。

 不意の攻撃に男が飛び退くと、レベリオの前にエレティコが現れた。

「レベリオさん、大丈夫ですか!?」

 エレティコは男を狙いながら声を掛けた。それに対してレベリオは素っ気なかった。

「なんだ? 手助けにでもきたのか?」

「魔王とあの人を離れさせるために来たら、レベリオさんが戦っていたんです」

 戦いの邪魔だとも思った。しかし、このままでは男との戦いはジリ貧だった。レベリオにとっては不本意だったが、エレティコとの共闘は悪くない選択肢だった。

 死んでは元も子もない。レベリオは打算し、そう結論付けた。

「エレティコ! こいつは二人掛かりだっ」

 レベリオが正面から突進し、エレティコが飛び退く。二人の攻撃が同時に男を襲う。

 近接戦闘のエキスパートであるレベリオと援護射撃を専門とするエレティコのコンビネーションは抜群だった。今までも共通の敵と戦う事はあったが、レベリオの隣にはライードの姿があり、三人を指揮するユースティアの存在が大きかった。実質的なコンビでの戦いは初めてにも関わらず互いの隙を消し合う様に攻撃が連鎖した。

 男は防戦一方だった。攻撃を繰り出そうにもエレティコの矢が的確に男の急所を狙い続け、防御をせざるを得ない。おかげでレベリオが攻撃に専念できている。

 このままではマズい。そう思った男は多少の負傷も顧みず反撃を繰り出した。

レベリオの攻撃を避け、エレティコの攻撃を甘んじて受ける。それでも、男は瞬間的な隙を見逃さず、一気に間合いを詰める。狙うのはエレティコだ。

 ――しまったっ!

 エレティコは自分の愚かさを後悔した。男は勝利の為ならば多少の負傷など気にしないと、すでに分かっていた事だ。しかし、もう遅かった。

 男の直剣がエレティコを襲う。咄嗟に矢を創り出して直剣を受け止めるが、勢いは殺し切れず押し込まれた。そして、両腕が痺れて自由がきかないエレティコを男の蹴りが襲う。

 こめかみを捉えた上段蹴り。世界が揺らぎ、地面に吸い込まれるように倒れていく。

 エレティコが倒れた瞬間、男の背後にレベリオが迫っていた。仲間の身を案じるのではなく、己の身を使って隙を作り出したことに感謝するように攻撃を仕掛ける。

 レベリオの拳が男の身体に直撃する。苦痛に耐える為に男の身体が一瞬止まる。その一瞬の硬直に打撃を重ねる。

 男の脚がふらつく。それでも懸命にレベリオの攻撃を防いでいく。

「しぶといじゃねぇか」

「お前こそ……」

 打撃を繰り出しながらレベリオが口を開く。男もそれに応えために口を開いた。互いに軽傷とは言えない負傷をしている。少しでも気を紛らわすための会話だった。

「脚に矢が刺さってもそこまで動けるとはね……」

「お前こそ骨が折れてるくせに、よく動けるもんだな」

 脚を貫かれているにも関わらず、それを感じさせないフットワーク。骨が折れているにも関わらず、それを感じさせない身のこなし。自分の負傷は自分が一番分かっている。それになぜ自分がここまで動けるのかも。

「俺には――」

「魔力があるから、か?」

 レベリオの言葉を遮って男が口にする。

「はぁ?」

「魔力はイメージの力だ。想像したことが現実になる。それは明確であればあるほど強力な現象となって現れる」

 男の言葉にレベリオの手が止まった。ふと笑いが込み上げてきた。

「そうかそうか! やっぱりなぁ!」

 無防備に笑うレベリオを見て、男も動きを止めた。

「言っておくがな、俺たちの使ってる力は精霊の加護とかいうもんだ」

 レベリオの態度に男は不信感を募らせた。戦いの最中だというのに何を笑っているのか。

「だがな、この力には色々とあってな。俺たちは全員、人体実験で生まれたんだよ。魔族の血を体内に取り込んでなぁ!」

 おかしな点はいくつかあった。王宮は精霊の加護と民衆に言ったが、レベリオたち四人は一人たりとも精霊なんてものとは会ったことがなかったし、強大な魔族がいれば姿が見えずとも感覚で分かる。そして、四人に実験を施した場所がレベリオはカルチェレ、エレティコはミゴン、ユースティアはエヘルシト、そしてライードは王都だ。全てが魔族の幹部の遺体が存在する街だ。

 おそらく、ライードとエレティコはその事実に気付かずに力を使っている。ユースティアは薄々気付いていながらも、民衆の期待を裏切らないために精霊の加護を過剰に演出しているだろう。

「俺たちとお前の違いはなんだろうな? これじゃただの魔族同士の戦いだ」

 常人を超越した力を持つ勇者一行。それが半人半魔だと知られれば民衆は混乱するだろう。しかし、事実は変わらない。

「なぁ、俺の力はグラオベンから受け継いだものなんだが、そいつはどんな奴だったんだ?」

 レベリオの言葉に男は僅かに動揺した。

「……あぁ、グラオベンはお前の様に強かったさ」

 男は過去を懐かしむように言う。そして、直剣を構える。

「俺に魔族の戦いを教えてくれた恩人だ」

 男は直剣を高々と振り上げ、魔力を込めた。

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