表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/30

B:第二話 愛の過剰摂取は体を壊す

 子どもの頃、サンタさんにお願いしたことがある。小さな頃から両親共に忙しくて、恐らく俺の欲しいものなんて知らなかった。だから、あのプレゼントを持ってきてくれたのは二人ではない。

「サンタさんへ、氷光戦士スガーのプラモデルが欲しいです」

 俺はスガーのプラモデルを所望した。そしてクリスマス……俺が手に入れたのはスガー武器セットを四つだ。お金がなくて武器セット一つならまだ分かる。さすがに四つも買うとスガー本体だって普通に買えただろうな。

 これじゃないんだと思いつつ、武器セットを色んな人形なんかに装備したのを思い出す。

 何がいいたいのかわからないって? 欲しいものはいつだって微妙に違うものなんだ。

「ほぉら、おきろ、おきろ」

「……うるせぇ」

 確かに助手は欲しかった。しかし、こんな助手が欲しかったわけじゃない。

 即刻解雇を命じたいところだ。くそ、お偉いさんの娘じゃなければできたのに……。

「朝から女学園の生徒に起こされるなんて、あっちもおきあがっちゃうんじゃない?」

「ないわ。ほら、どいてくれ」

 俺の腹の上に跨るなんていい度胸しているじゃないか。思わず最寄りの窓から捨てたくなった。

「何でお前さんがここに居るんだ。俺が教えたのは事務所の住所だろ。そして、渡したのは住所の鍵だぞ」

 事務所で寝泊りしているわけではないので(事務所の隣の号室)、当然俺の部屋もある。

「ほんと、旦那もけちだよな。事務所だけじゃなくて旦那の鍵も貸してくれれば私も安心できたのに……Sさんからもらったよ」

「あぁ?」

「献身的にお世話したいんですって熱意を伝えたらくれた。貸さないとSさん要らないって親父に言うとも伝えたけどさ」

「酷いな」

「うそうそ、軽いジョークだよ。私はそんな脅すことはしないから」

 言ったということは選択肢に入っていたんだろうよ。選択肢なんて多そうに見えて実は少ないもんだ。

「ま、やっぱり人間はお金だよね。ちょっと握らせただけで私に鍵をくれたよ」

 くそ、金持ちの子どもってのは碌なやつがいないのか。

「この私が助手になったんだから、アサダチからヨルノコヅクリまで任せて欲しいな」

 右手でチョキを形作ると開いたり閉じたりを繰り返している。どこかを切除するつもりに違いない。

「さぁさ、息子だけじゃなくて本体もちゃんと起きてくるといいよ。ちゃんと旦那のために朝食を準備しているからさ。腕は安心していいよ? なにせ、私自身、一人暮らしだから」

 良く見てみれば、目の前の少女は色あせたピンクのエプロンをつけている。黙っていれば、似合っているじゃないか。

「ほぉ」

 別に女の子が料理しないと思っているわけじゃないが、やっぱり人間として料理はできたほうがいい。

「今から最後の仕上げをしてくるから。早く起きてよ」

 そういって出て行った。

「……結構早い時間帯に起こされたな」

 時計を一瞥し、ため息をついた。別に眠たいわけじゃない……二度寝がしたいだけなんだ。

 でも、ここで寝ていたらまた起こしに来るよな、絶対。さっきより酷い起こし方に違いないね。

「しょうがない、起きるか」

 顔を洗ってリビングへと向かう。おいしそうな匂いと、マヨネーズの臭いがしていた。

「朝からマヨネーズ……サラダか何かか」

 椎名は俺の朝食に何かをかけていた。

「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ」

「何、してんだ?」

 サラダはなかった。味噌汁だ。味噌汁と、ご飯と、マヨネーズが多量に載った皿があった。

「ほら、一部のお店でよくやるあれだ。旦那が喜ぶかと思って」

 はにかみながらマヨネーズの容器を持つ椎名に、俺はどんな表情をしていただろうか。およそ、喜んでいる表情はしていなかったと思われる。

「それ、本来マヨネーズじゃないと思うぞ」

「そだっけ? 容器に入っている奴なら何でもいいっしょ。料理は愛の結晶だから」

 そういってマヨネーズを出し続ける。既に容器の半分近く外に出ていた。

「愛、ねぇ。料理がマヨで見えなくなってるけど?」

「旦那への愛の量を表してる。恋は盲目って言うじゃん」

 マヨネーズで前が見えない……嫌な愛だ。

「本当、余分な愛だわ」

 きっと駄々漏れの愛なんだろうな。皿の上にはマヨネーズのとぐろ巻き。お金がなかった人が自分をごまかすためにやりそうな料理に見えた。

「さぁ、どうぞ。腕によりをかけて作ったの、うふ」

 しなを作るお馬鹿にため息をつくしかない。これ、食えるのか?

「……マヨネーズが台無しだ」

 箸じゃ途方も無い時間が掛かりそうだ。スプーンしか道は残されていない。

「違う違う、間違ってるよ。マヨネーズで、料理が台無しだ」

 どっからホイッスルを取り出したのか朝から吹いている。近所迷惑だということを理解して欲しい。

「やり直しを要求します」

「はいはい、料理が台無しだな……これでいいか?」

「よろしい」

 よろしいと言った癖してイエローカードを出されるのは何故だろうか。

「さ、召し上がれ」

 白と黄色を混ぜて薄めたそれをスプーンで掬って口に含んでみた。

「お味のほうは?」

「うん、まごうことなきマヨネーズだな」

 百パーセントマヨネーズ。上の部分を掬っただけなので、まじりっけなしだ。マヨネーズって何で出来ていたっけ、卵と、酢と塩……後は油か。

「そりゃそうだぁ。あんた、これがケチャップに見えるなら泌尿器科に行ったほうがいいよ」

「……眼科じゃないんだな」

「眼科なんて目薬入れときゃ行かなくていいんじゃね」

「眼科のお医者さんが聞いたら怒りそうな台詞だ」

 二口目、やはりマヨネーズである。

「旦那、マヨネーズ好きだろ?」

 にかっと俺に笑いかけてくる。お前さんの手元にある焼き鮭、俺にくれないかな。

「俺、マヨラーじゃないし」

「マヨネーズはな、身体にいいんだぞ」

 嘘くさい話だ。身体に悪そうなイメージしかない。

「だから、尻の穴からいれてやろうか? ちゅーって」

「……」

 相手をするだけ無駄なようだ。

 椎名が一人で喋るのを見ながら、俺は身体に悪そうな朝食を食べるのであった。

 食器を洗い終え、椎名は鞄を手に持った。

「んじゃ、学園に行ってきます」

「ああ、いってらっしゃい」

「助手は帰ってきてやるから。あ、休日はきっちりもらうよ」

「……」

 こいつ、仕事をなめてるんじゃないだろうか。

「気をつけてな」

 出て行こうとした椎名が足を止める。

「旦那、主語が無い、主語が。何に気をつければいいんだよ」

「……車やバイクだろ」

 そういうと指を目の前で振られた。

「ありきたりすぎる」

「ありきたりだから、皆が注意するんだ」

「そんなことは分かってる。やり直しをお願いします」

 それで満足しないのなら適当に言うしかない。

「変質者と馬鹿に気をつけろよ」

「うん、分かった、気を使う」

 そのまま行ってしまった。変質者と、馬鹿に気を使ってもいいことなんてないと思うがね。

「というか、あいつ学園生じゃないか」

 絶対、助手なんてできないだろ。まぁ、こっちも適当に相手してやればいいんだし……日中行動してアルケミストを捕まえればいいか。

「ほかの仕事も基本的に日中処理できる。あいつに頼むとしても、事務処理ぐらいか。変に怪我をさせることもないから逆にそっちのほうがいいのかな」

 やれやれ、全くなんで俺があいつの心配をしてやらないといけないのだろう。

 嫌な不安に襲われることもなく、俺は事務所へと向かうことができた。

「ただいまー」

 そして夕方、奴が事務所に来た。

「今日は八宝菜だから」

 野菜の入った袋がテーブルの上に置かれる。

「いや、だからって……え、晩飯も作るつもりかよ」

「そりゃ、産声から断末魔までが私のスタンスだからね」

「お前さん、俺より若いんだから産声は無理だろ」

 突っ込むべきところはもっとあった気もする。

「……冬治、黙っていたけれど私は本来あなたより一年先に生まれたおねえちゃんなの。でも、志半ばで憤死してしまったわ」

 突然妙なことを喋り始める。

「赤ん坊が憤死するわけないだろ……で、何で晩飯まで?」

「旦那に作ってあげたいから……だ、駄目、かな」

 上目遣いでそういわれた。これだけで馬鹿も可愛い女の子に見えてしまう。

「朝はその、私から見てもやりすぎちゃった」

 ですよね。

「だから、リベンジさせて欲しい。大丈夫、真面目に作るから。お願い」

 懇願されるとつい許してしまったり認めてしまうのが俺の悪い癖だ。

 俺はそっと椎名の肩に手を置いて優しく言った。

「……理由を言わないと絶対に駄目です」

「え、厳しい」

「後、次ぼかしたりごまかしたら即効で事務所からたたき出します」

「いたいけな女の子をたたき出すなんてあんた血も涙もないな」

 何とでも言うがいいさ。住み込みの助手じゃないんだ。一人暮らしなら尚のこと。女の子が夜遅い時間帯に外を出歩くのは平和な日本でも危険な行為となる。

 そもそも、お互いを良く知らない状態で年頃の女の子が独身男性のところに来るなんておかしい話だ。

「い、言ったら晩御飯を作らせてくれるんだな?」

 ここで俺を怪しむよりももっと別のところで怪しんで欲しい。

「ああ」

「叩き出したりもしないと?」

「約束しよう」

「……家、帰りたくないんだよ」

 ぽつりとそういった。

「何故だ?」

「一人はやんやん、寂しいの……いやいやいや、本当ですよ?」

 俺が部屋から出ようとしたのを見てどう取ったのだろう。恐らく、たたき出されると思ったに違いない。

「晩飯作りたければ作れよ」

「……事務所で? 碌な調味料とか道具、ないけど」

「俺の部屋の台所使えばいいだろ」

「え、入っていいの?」

「朝、思いっきり入っていただろうが」

 わーい、通い妻だぁなどとほざく椎名に俺は不安しか覚えない。絶対仕事する気、ないだろ。

 晩飯ができたと連絡を受け、俺は事務所の戸締りを終えて部屋へと戻ってきた。

 玄関にはエプロン姿の椎名が立っている。

「お帰りなさい、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それともク・イ・ズ?」

 お約束といえばお約束か。三番目に私が来ていても無駄に面倒だったが、クイズもクイズで面倒そうだ。

「ちなみにクイズは成功したら何がもらえるんだ?」

「温かい食事とお風呂、後寝床」

「全部俺のだろ」

「ちちち、考えがあまぁい。一度手に入ったからといって、未来永劫貴方のものとは限りません。それが適用されるのであれば、侵略者という言葉は消えます」

 確か似そうだけれども。その場合、お前さんが侵略者になるのではないだろうか。

「ちなみにクイズで失敗するとこの部屋からたたき出します」

 どうやらたたき出すといった言葉を根に持っているらしい。

「では第一問」

「待った、俺はクイズを受けるなんていってないぞ。まずはめしだ」

「ぶー、晩御飯はクイズを受けた方のみ食べることが可能でぇす」

「……お前さん、そんなに俺とクイズしたいのか」

「か、勘違いしないでよね。別にあんたとなんてクイズしたいわけじゃないんだから! ただ一言だけ、言わせて欲しい」

 鋭く俺を指差した。びしっという音が聞こえてきそうだった。

「お前をたたき出してやる。絶対にだ」

 凄く根に持っているらしい。

「初めの数問はウォーミングアップね。子どもでも答えられる問題だから」

「わかった」

 大抵、最初っから難しいんだよな。

「第一問っ、黒い色をした長有名なねずみのキャラクターの名前は? ヒント、耳が丸いよ」

「……」

 こ、答えられねぇ。すげぇ、危ない臭いがぷんぷんしやがる。

「あれあれ? どうしたのかなぁ? 答えちゃっても全然問題ないんだよ?」

「……○○○○○○ス」

「え? ス、しか聞こえないんだけどぉ? あ、パス権使用できますけど使われますかぁ?」

 完全に馬鹿にしたような顔だ。くそ、なめやがって。

「パスだ」

「ぬふふ、じゃあ次の問題だね」

 その後も似たような……というよりも、答えが全く同じ問題ばかり出してきやがった。

「はい、全問失敗の探偵さんには今日の晩御飯と、お風呂、寝るところを提供しちゃいまぁす」

 俺をやりこめて嬉しいのか、椎名はうれしそうにしていたのだ。

「ささ、どうぞ旦那」

「あ、ああ」

 背中を押されながらテーブルにつく。既に二人用の晩御飯が準備されていた。

「はい、あーん」

「いや、あーんて」

「大丈夫大丈夫、毒薬は仕込んでないよ、ほら」

 自分の口の中へと放り込み、飲み込んだ。

「……別に盛られることを警戒しているわけじゃないんだがな」

「じゃ、あーん」

「……」

 あーんと言わなくても食べることは可能だ。黙って差し出されたものを食べる。

「間接キッス。きゃ、言っちゃった」

「……ああ、そうなの」

 それ以後はテレビを見ながらの食事になった。さすがに飯を食うときは静かになるようで大人しく食べていた。あーんは飽きたそうで最初の数回だけだった。

 料理を食べ終えた後、急激に眠くなってきた。この後、椎名を送らないといけないのによほど今日一日が疲れたらしい。

「わり、椎名」

「ん?」

 隣でテレビを見ていた椎名は首をかしげている。笑っているようにも見えたが、ふらふらしはじめた俺にしっかりとした判断はできない。

「ちょっと、寝るから……一時間ぐらいしたら起こしてくれ。それから、お前さんを家まで送る」

「んもぅ、旦那ってば送らなくてもいいってば。ほら、足取りふらふらだからベッドに連れて行ってあげるね」

「……すまん」

「謝罪よりお礼が欲しいな」

「ありがとう」

 ベッドまで連れて行ってもらった俺は、そのまま倒れ付す。

「旦那、大丈夫?」

「……な、なんとかな」

 その場で意識が消し飛んだ。まるで、薬でも盛られたかのような……意識の飛ばされ方だった。

 次の日の朝、俺は目を開けてぎょっとした。

「なっ、マジかよ」

「すぅ……すぅ……」

 俺の腕の中に、椎名が眠っていた。しかも、下着姿だ……。

「ん? ああ、旦那おはよう」

 ぽかんとしている俺の腕からさっさと出て、床においてある制服を拾って着替えた。

「いやぁ、昨日はお疲れのようで。私が仕込んだ薬をあおってぐっすりでしたね」

「く、薬? 盛ってないって言ってたろ」

「毒薬は、ね。盛ってないよ」

 にっこり笑われても頭がまだ起きていないのかなんとも感じなかった。

「あ、そうそう。今日からここに住むから」

「……誰がそんなこと許したよ」

「拒否権なんてないんだなぁ、これが。ほら、これ何か分かる?」

「……ビデオカメラ」

「そう、くくく、これにベッドの中であはんうふんが映ってるから……ほらっ」

 俺が薬で眠っているのならそういう展開はないだろ。

 そう思いながらモニターを覗き込む。椎名のドアップが映りこむ。

「……この映像を誰かが見ているのなら、私はもう終わってる」

 緊張している表情はまぁ、それっぽい。

「じゃ、これから寝てきます」

 そういって俺が眠っているベッドの中へともぐりこんだ。

 ビデオをまわして数分後、俺がベッドから蹴り落とされた。

「……」

「……いや、もうこれから激しくってさ」

 俺はそのまま床で眠っていた。朝五時四十五分。椎名がむくりと起き上がった。俺はまだ床で眠っている。

「……トイレ」

「むぎゅう」

 そういって俺を踏んづけていった。腹を踏まれた俺、全く動かない。

「あうちっ」

 映像の中で椎名は俺に引っかかってこけた。

「旦那ぁ、こんなところで眠ってんじゃねぇぞ、このすっとこどっこいっ」

「ぐっ……すぅ」

 わき腹にけりを入れた後、何かを思い出したのか手を叩いて俺を引きずる。そのままベッドの中へと連れて行った。

「なるほど椎名。なかなか激しい夜だったみたいだな」

「あ、あはは、旦那ぁ、ちょっと、朝食の準備してくるから」

 逃げようとする椎名の手を掴み、にやっと笑う。

「お仕置きの時間だ」

「も、もう朝からそんなに激しいのは……アーッ」

 全く、毒を盛るなんて恐ろしい奴だ。こりゃある程度は条件を飲んでやらないと又面倒なことをやらかすぞ。

 いや、しかし助手だからといって部屋に住まわすのはどうだろうか。俺の部屋を侵略されるのも問題があるからここは年上としてはっきり断ってやろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ