「元の姿はない」
家に帰ってくるなり、見覚えのあるようで思い出せない顔に出くわした。
「元気してたか?」
中学時代の同級生だった。
仲は良かったが連絡を長らく取っていなかった。
しかしこんなところで会えるなんて。
「まあ、話でもしようぜ」
友人を家に上げ、懐かしい話をしていた。
「そういや、あいつらがもうすぐくるぜ」
そう友人が言った瞬間に呼び鈴の音が鳴った。
「おっ、タイミングいいなぁ」
そういって友人が迎え入れたのは同じく、中学時代の同級生と、高飛車女だった。
なぜこの女がここにいるんだ?
その考えを見透かしたかのように友人が答えてくれた。
「お前は覚えてないかもしれないけど、こいつ一年の時に転校した前田だよ」
ああ、あの前田か。
社長令嬢で美形だったから当時の僕らにとっては高嶺の花だった。
しかし、そんな彼女の姿はない。
本性は傲慢な女性だと知って、夢が壊された気もした。
「それより飲もうぜ!」
友人はそういうと、僕の許可無く冷蔵庫を開けた。
「ん、お前の冷蔵庫シケてんな、ビールぐらい入れとけよ」
余計なお世話だ。
「じゃあ、コンビニで買ってくるかなあ。あ、この辺りコンビニないんだっけか」
そうだ。一番近くても行くのに二時間かかる。
「しゃあねえ、お茶で乾杯だ」
友人は、これも許可無くお茶を注ぎだした。
まあ、いいか。
祟りや擬人、儀式といったものが僕の頭のなかで渦巻いていたが、この時ぐらいは忘れようと思った。
「それじゃあ、乾杯!」
暗い気持ちとの決別をつけるため、お茶の注がれたコップを他のコップと勢い良くぶつけた。
そして、こぼした。