9.お馬鹿さんの新発見?!
「さてと、クリス君。」
父さんとの話が終わり、ラルフは立ち上がると俺を呼んだ。
「早速だが、君がどれほど魔法を使うことができるのか見てみたい。」
おっ、今から指導してくれるのか。それはありがたい。
「ラルフいいのか?俺が部屋に入ったとき書類の整理をしていたようだが、仕事が残ってるんじゃないのか?」
父さんが疑問を口にする。
「今日の仕事はもう殆ど済ませているから別に問題はないさ。ここの奥に何もない部屋があるから、そこで見させてもらうよ。ついてきてくれ。」
ラルフがそういうと俺たちを連れて奥の部屋に向かった。
その場所は十五畳ほどの部屋で、俺が魔法を使うには十分すぎるほどの広さだった。
「ではクリス君、魔法を使ってみてくれたまえ。」
「うん!「風よ吹け、ブリーズ!」…あれ?」
ラルフに促され、俺はブリーズの魔法を放ったのだが、何故か家で皆に見せた時よりも威力が下がっていた。
それだけでなく体が重く感じる。どういうことだ?
「ほう、「ブリーズ」か。威力は一歳半とは思えないくらい…ん?クリス君大丈夫かい?」
俺がきつそうにしているのに気付いたラルフが心配して話しかけた。
「なん…、きついー。」
なんだか体が重く感じるのですが、と言いそうになった。危ない危ない。
そんな話し方する一歳半児がいたら気味が悪いぞ…。
「クリス君、家でも魔法を使ったりしたのかい?」
「うん、5かーい。」
「そんなに使ってたのか。アレックス、クリスに魔力を注いだりしたか?」
「いや、誰もクリスには魔力を注いではいなかったよ。」
「なんと!…成程、そういうことか。」
父さんの返答にラルフは驚いていたが、どうやら謎が解けたらしい。
「何か分かったのか?」
という父さんの言葉にラルフは頷くと、満足気な表情で俺たちに説明を始めた。
「恐らくクリス君は、空気中の魔素を魔法を使うたびに魔力に変えていたんじゃないかな?」
そういえば、確かにそうだったな。
「魔法を使うにはいくつか手段があるのだが、その一つが空気中の魔素を使う方法だ。しかし、この方法では魔素を魔力に変換するのには体力を消耗する。何度も魔法を使ったせいで、クリス君は疲れてしまったんだよ。」
成程、そういう事だったのか。父さんも納得したようで
「さすが教授だな。俺も昔そう習ったはずなんだがすっかり忘れていたよ。」
と言った。父さん、忘れてたのか。聞くと、結構基礎的なところだと思うんだが…。
「体内の魔力を使う方法だと体力の消費は起こらないから、日ごろから少しずつ魔素を魔力に変えて体内に蓄えておけば、体力の消費を抑えられるよ。」
ラルフはその後も俺たちに色々と説明してくれていたのだが、疲れのせいでいつの間にか俺が寝てしまったところで、今日の授業はお開きとなった。
翌日、俺はラルフから教えてもらった通りに、魔法を使わず魔力を溜め込むことだけに集中することにした。
ラルフは日ごろから少しずつ魔力を溜めると良いと言っていたが、一歳半の俺が家の外に行くことはないだろう。少しずつとは言わず毎日ぎりぎりまでやろうと思う。
半日後、今の時点でどれだけ魔力が溜まったのかを確認するため、試しに魔力が切れるまで魔法を使ってみることにした。
「昨日より増えてる…。」
ブリーズを八回放ったところで体内の魔力が尽きたが昨日よりは増えていた。
しかし、体力の消耗に比べて変換した魔力の量が少ない気がする。
原因はなんだろうか。
しばらく考えて、俺は一つの仮説を立ててみた。
「空気には魔素の他にも酸素と窒素が含まれている。魔素はそのまま取り込まれ魔力として変換されるが、酸素と窒素は魔力にはならないので皮膚から体内に入った後排除される。
その際の体内から酸素と窒素を追い出そうとする作用が体力を消耗させる原因となっているのではないか。」
というものだ。
ならば、どうすれば体力を使わずに多くの魔力を溜めることができるのか。
何か、前の世界での知識で使えるものはないものか…。
数分考えた末、俺あることを思い出した。
「…あっ、水だ!」
そうだ、水上置換法とかで、酸素や窒素は水に溶けにくいって中学校で習ったじゃないか。
それにゲームでもよくMP回復薬とかいう液体を使って魔力を回復したりするから、魔素は水に溶けやすいだろうし、食事をすることでも魔力を溜めることができるはずだ。
魔素を多く含む水を飲んだり、その水の中で魔素を取り込めば体力の消費も抑えられて
より多くの魔力を溜めることができる。
よし、あとはこの仮説が正しいかどうか行動するだけだ。
そう思い立ち上がろうとして、俺は重大なミスを犯していることに気付いた。
「(しまった、俺、今疲れてるよ…。)」
疲れすぎて立ち上がれなかったのである。
結局、その日も夕食後すぐに眠くなり、為す術もなく寝てしまう馬鹿な俺なのであった。
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