8.初めての町、初めての人探し
エミリーが「ご主人様、セレスティア様」と呼んでいたとすると、一歳半になるまでにどこかで母さんの名前を知る可能性が高いと判断したので、修正しました。
俺の先生を探す旅(笑)ということで、俺は父さんに肩車され近くの町に来た。
実は1歳半にして初めて町に出かけたので、町の名前も、そしてこの国の名前も俺は何一つ知らなかった。
いい機会だし、今日教えてもらおう。
「パパー、ここどこー?」
俺の質問に対し父さんは、
「うん?ここは、「ヴィッシュ」という町の中央街さ。パパとクリスの家もこの町にあるんだよ。」
と教えてくれた。
「ビッシュー?」
ヴィッシュか、幼児の身体にはなかなか発音が難しいな。
父さんの発音練習を数回行い、ようやく「ヴィ」の発音ができるようになった。ゆっくり喋れば、だけど。
父さんは俺の成長を感じ喜んだようで、
「クリスは覚えるのが早いなぁ。言ってなかったけど、パパ達の家名にも「ヴィ」が入ってるんだぞ。」といった。
マジかよ。エミリーがいるからもしかしてとは思ってたけど、やっぱり俺っていいとこのおぼっちゃんだったのか。もしかして貴族とか?
「そーなの?」
「そうだよ、そういえばまだ名前を教えていなかったな。パパが、「アレックス・リヴィエール」で、ママが「セレスティア・リヴィエール」。そしてクリスは、「クリストファー・リヴィエール」というんだよ。」
リヴィエール、やはり「ヴィ」が言いづらいが、いい家名だ。そして父さんの名前はアレックスか。
一年半の時を経て、漸く父さんと母さんの名前を知ることができた。そして俺の本名も。
だってエミリーって俺たちのことをご主人様、奥方様、クリス様としか言わないんだもん。
「リビエール!」
やはり早口で言うと上手く言えないようだ、魔法の練習よりこっちの方を優先すべきかもしれない。
「はは、クリス、早口言葉はまだ早いんじゃないか?…と、あそこだ。」
どれくらいの時間が過ぎたのか、話に夢中になっていたので分からないが、俺が気が付いた時には中央街をとうに過ぎ、父さんは前方にある大きな建物を指さした。
見ると、門には魔法大学とある。
そうか大学か…って、大学?!
大学の教師に先生やってもらうつもりなのか?
それは流石に無理じゃないかなぁ・・・。
俺の心配を他所に、父さんはそのまま中へと進む。
「何の御用でしょうか。」
門をくぐり校舎に入った俺達に、職員らしき女性が話しかけてきた。
父さんが答える。
「ラルフ氏に会いたい。「アレックス・リヴィエールが会いに来た」と言えばわかるはずだ。」
「かしこまりました。確認してまいりますので少々お待ちくださいませ。」
彼女はそう言うと、小走りに去って行った。
やっぱりここの教師に知り合いでもいるんだろうな、と思いつつ父さんの顔を覗き込むと、
「ああ、ラルフはパパの昔からのお友達なんだ。小さい時から魔法が大好きだったんだが、まさか教授になるとはなぁ。」と聞かれてもないのに答え、遠い目をしながら一人思い出に浸りだしたので、俺は何も言わずそっとしておくことにした。
「お待たせいたしました。確認が取れましたのでご案内いたします。」
数分後、さっきの女性が帰ってきた。俺たちはその後を着いていく。
二階の一室、そこにラルフの部屋があった。ドアには名前が書かれている。
ノックして部屋に入った彼女に続いて俺たちも中に入った。
「おお、来たか!」
ラルフは机に向かって書類を整理していたが、父さんを見るなり、嬉しそうな顔をして立ち上がった。
で、でかい…。彼を一言で表すなら、「筋骨隆々」これしかないだろう。
身長も180センチはあるのではなかろうかというほど高い。
魔法の先生だから線の細い人を想像していたのだが、まさか父さんより体格がいいとは…。
俺があっけにとられていると、父さんは
「ラルフは体を鍛えるのは好きなんだが、剣術を覚えるのは面倒くさいという理由で魔法の先生になったんだよ。」
と俺を肩からおろし、笑いながら言った。
「おいおい、お前は何を言うんだ。俺が剣術を学ばなかったのは、その必要性がなかったからであって、面倒くさかったからではないぞ。」
父の言葉にラルフが反論する。
なるほど、魔法の扱いに長けているから別に剣術を習わなくても十分強いということかな。
俺は一人納得する。
「ラルフ教授…。」
後ろから声がかかってきた。そういえばあの人まだいたんだったな、すっかり忘れていた。
「おっとそうだった。ご苦労様、もう下がっていいぞ。」
「はい。では、私はこれで。」
それはどうやらラルフも同じだったようで、その言葉を受け、彼女は部屋を出ていった。
部屋に誰もいなくなったことを確認し、ラルフは訊ねる。
「さて、アレックスよ。クリスまで連れて世間話をしに来たのか?」
「いや、実はクリスに魔法を教えてくれる人を探していてな、ラルフにお願いしたいと思ったのだが、どうだろうか。」
「おいおい、いくらなんでもクリスにはまだ早いだろ。」
「普通ならそうなんだが、クリスは誰の手も借りずお手本を見ただけでその魔法を再現したんだ。だから早いうちから才能を伸ばしてやりたいのさ。」
「なに、それは本当か?!・・・それなら、お前の言うように早くから才能を伸ばした方がいいだろう。俺は仕事の関係上、家に出向いてまで教えることは出来ないが、週末にここまで来てくれるなら教えてやれる。それでいいか?」
ktkr!てっきり父さんは何も考えずにここに来たと思ってたんだが、何はともあれ、先生確保だ!
「やたーっ!パパ、やたーっ!」
俺は大喜びで父さんを見たのだが、父さんは何故か不満気な様子。なんでだ?
対するラルフは、父さんが何故不満気な顔をしているのか勘づいたらしい。
「そうだな、卒業生で平日に手が空いている者がいないか、こちらで調べてみよう。もし見つかったら後日連絡するよ。」
とラルフが言ってやっと、父さんの心は晴れたようだった。
なんかいつもよりも長くなってしまった。
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