6.成功だけど失敗
魔力の精製法を理解した俺は、朝食後部屋に誰もいない時を見計らって魔法の練習に取り掛かった。
イメージがどれほど大事なのかは分からないが、しないよりましだろう。
母さんの身体で魔法を出した時を思い出す。
背中がぞわぞわする感覚を頭で思い描くと、魔素が体内に入ってきた。
「…意外と簡単に出来たな。」
一度経験したからか、魔素を取り込む、という難関をあっさりとクリアすることができた。
あとは詠唱を行うだけで魔法が出るはずだ。
「「風よ吹け、ブリーズ!」…おお!」
母さんやエミリーの時よりも弱いが、ちゃんと風を出すことができた。
2人の魔法よりも威力が低いのは、魔素を取り込むときに不純物も一緒に取り込んでいるからか、あるいは慣れの問題か。
兎に角練習あるのみだ。
何度か魔法を放つと少し威力が上がった気がした。
現時点でどこまで風が届くのかも見ておきたいので、エミリーが実演した時のように本を開いて置くようにしようと思い、部屋の入り口の近くにある本棚を見ると、
「クリス、今の風は…?!」
父さんが驚いた様子で俺を見ていた。
いつからそこにいたんだよ?!
いやそれよりも、今のを見られてしまったのか。
そういえば今日が休日なのを忘れてた。
前に「今度の休日は一緒に街に行こうな」って言ってたし、多分それでここに来たんだろう。
それにしても、まだ練習1日目だというのにあっという間にばれてしまった。
どうしようもないので
「でたー!まほーでたー!」
と、事の重大さがわかってないふりをしてやり過ごすことにしよう。
「そ、そうだな…。」
父さんはそう言いつつもまだ信じられないようだ。
恐らく、独学では魔法は出せないというのが常識なのだろう。
誰が教えたのか聞いてきたので
「エミィー(エミリー)ちゃんがやってたー!」
と返すと、
「「やってた」って…。ちょっとこっちに来なさい。」
父さんは少し怖い顔をして、俺を半ば強引に連れていくのだった。
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町に遊びに行く、とクリスに以前約束したのを思い出した俺は、
町に出かけるためクリスの部屋の前に立っていた。
中から何やら楽しそうな声が聴こえてくる。
何をしているのかな、と耳を澄ましていると、
「風よ吹け、ブリーズ!」
という声がした。
クリスが「魔法―初級・中級―」の本を持っていることはエミリーから聴いて知っていたので、
おー、上手に読めてるな、くらいにしか思わず、
楽しんでいるクリスの邪魔にならないよう、こっそりとドアを開けたのだが、
そこには実際に魔法を放っているクリスがいた。
「(これは夢か?)」
目の前で起こったことに俺は混乱していた。
クリスもすぐ俺に気づいて、一瞬驚いた顔をした後、
「でたー!まほーでたー!」
とはしゃいでいた。
「(そんな馬鹿な…。)」
魔法は独学で出来るものではない。
2歳の誕生日に親が魔力を子供の身体に流し込むことで初めて感覚を掴むことができるのだ。
誰が教えたのか、と問うと、エミリーが魔法を使うのを見ていたと言う。
見て出来るようになったなんて話は聞いたことがない。
クリスが嘘をついているとは考えたくないが、真偽を確かめるためエミリーのもとに連れていくことにした。
俺に無理やり抱っこされたクリスは、少し怯えているように見えた。
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