5.早速、魔法を覚えよう!
知ってたかい?
実はまだ、父さんの名前決まってないんだぜ?(笑)
早く父さんもお話に入れてあげないとなあ。
どうしよう。
無事に「魔法―初級・中級―」の本を手に入れた俺は、
早速、超がつくほど詠唱の短い初級魔法、「ブリーズ」を習得するために練習を開始した。
時計がないのでわからないが、夜の9時をとうに過ぎたのは鐘の音を聞いたので分かる。
そして今、部屋には誰もいない。おそらく皆寝たのだろう。
「よし、まずは試しに詠んでみるか。「風よ吹け、ブリーズ」」
とはいえ、大声で練習するわけにはいかないので、小声で詠唱を行った。
「・・・」
しかし、何も起こらない。
どこか間違えたのか?
そういえば、エミリーが「簡単にできるものではない」と言ってたような…。
俺はてっきり、文字が読めないから簡単ではないと言ったんだと思っていたんだが。
ということはあれか、魔力の精製が下手ということか?
少なくとも母は魔法を使えるわけだし、流石に魔法が使えない体なんてことはないと思いたいが。
「魔力の精製法は流石に書いてないよなぁ。」
ぺらぺらとページを捲っていくが、やはりそれらしいことは書かれていなかった。
あくまで、初級と中級の魔法のデータしか載っていないようだ。
さて、どうしたものか。
母さんもエミリーも教えてくれるか分からないし、見て技術を盗むのも…。
そこまで考えて、あることを思いついた。
「…明日にでも試してみるか。」
とりあえず今日はいくつかの初級魔法の呪文を覚えて寝ることにした。
翌日、俺は朝から寝たふりをしてターゲットを待っていた。昨日思いついたアイディアを試すためだ。
「(…来た!)」
部屋に入ってきたのはどうやら母さんのようだ。
母さんは魔法が使えるから、ターゲットとして申し分ない。
「クリスー、朝ですよー。」
母さんはベッドまで来ると俺の体を持ち上げようとして・・・、
俺の意識は遠のいていった。
「おっと、危ない危ない。」
一瞬意識を失って危うくクリスを落とすところだった。
俺はゆっくりとクリスをベッドに寝かせた。
「単なる思いつきだったんだけど、まさか成功するとはねぇ。」
ベッドで寝ているクリスをみて呟く。
そう、俺の思いつきとは、
魔法の使える人の身体を乗っ取って、魔法が出るメカニズムを体感して覚える、というものだった。
「さてと、ちゃっちゃとやりますか。」
クリスの心臓は止まっているだろうし、魂の抜けてない人の身体は長時間乗っ取れないはずなので、早速始めることにした。
「風よ吹け、ブリーズ!」
俺が詠唱すると何やら背中にぞわぞわする感触を覚えた。
なるほど、外から魔力のもとー魔素と呼ぶことにしようーか何かを取り込んでいるのか。
そして胸の辺りに魔素が流れ込むと魔力に変換され、その魔力は手のひらに流れ風となって放たれた。
「やった!」
ようやく、疑問が解決した。
おそらく普通の人なら体内から魔力を精製し魔法を使うことが出来るのだろうが、
俺は生まれてこのかた魔素を取り込んだことがなかった。
だから体内で魔力を作ろうとしてもできなかったのだ。
要はタンクに水を入れてないのに、そこから水を出そうとしていたという感じか。
やり方が分かったのなら長居は無用だ。
俺は急いでベッドに向かうと、母さんが意識を失う直前のポーズをとり、
「(憑依、解)」
と念じた。
「・・・かはっ、ゴホッゴホッ!」
これで魂の抜けた身体に入るのは二度目になるが、やっぱり慣れないな。まぁ慣れたら恐ろしくもあるが。
「はっ、私一体何を・・・って、クリス?!どうしたの?!」
母さんの意識もほぼ同時に戻ったようで、俺が咳き込む姿を見て見て少し取り乱していた。
「む、むしぇた・・・ゴホッ!」
本当のことは言えないので、むせたということにすると、母さんは優しく背中をさすってくれた。
嘘ついてごめんね、母さん。
憑依解除時の息苦しさと嘘の代償として、俺は魔力の精製方法を覚えたのだった。
誤字、脱字、文章のおかしなところなどございましたら指摘してくださると嬉しいです。