20.特待生選考の案内状
1647年3月13日
「特待生選考試験、ですか。」
「あぁ、そうだ。」
レティとの結婚を認められてから2年半、5歳になった俺の元に飛び込んできたのは、初等学校の特待生選考試験の話だった。
詳しく聞くと、父さんが俺に内緒で既に書類を送っていたようで先程案内が届いたらしい。
「ちょっと待ってください。まさか魔力測定の結果も送ったのですか?!」
「まさか、魔力測定の結果は送ってはいないから安心しなさい。あれを送るとこの国だけでなく他国までもがパニックになる。」
その言葉を聞き俺は安堵した。
というのも、試練を終えた後も毎日欠かさず魔力を溜め続けたので俺の魔力量は既に魔級にまで達してしまったのだ。
名前:クリストファー
称号:上級魔術師
魔力量:1441200000
魔力濃度:常人の20倍
「それにしてもクリス、何故ここまで魔力を溜めた?」
「趣味、だから...?」
「趣味って...。明らかにそのレベル超えてるだろうが...。」
父さんは俺が最近ラルフの元で行った魔力測定結果を見て、呆れながらそう言った。
「まぁいい。それで選考試験だが、案内を見るに一週間後に行われるらしい。明日、王都に向けて出発するから準備しておきなさい。」
明日出発という間の悪さに俺は思わず溜め息をついた。明日はレティとデートに行く約束をしていたのだ。
そもそも、ここから王都までは一日で着くはずだ。
その事を指摘すると、
「クリスは王都に行ってみたくはないのか?」
と言われた。そりゃ行きたいけどさ...。
「勿論行ってみたいですが。レティは連れていけませんか?実は明日デートに行く約束をしていたのです。」
「成る程、元気がないのはそのせいだったのか。レティが家にいるほうが防犯になるだろうが、セレスとエミリー2人でも十分だ。連れて行こう。」
「ありがとうございます。でも、2人いれば十分という根拠はあるのですか?」
「勿論あるさ。実際は正確にはセレス1人で十分、なんだがな。
これはクリスが生まれるよりも前の話だ。
俺が外出している間に、泥棒に入られたことがあったんだがな。あろうことか、セレスは泥棒を捕縛した上、宙吊りにして攻撃と治癒魔法を延々と繰り返す拷問をしていたんだ。凄くいい笑顔で。」
「そ、そうなんですか…。」
怖ぇぇ!延々と痛めつけられてしかも死ぬことはない。そんなことされたら精神を破壊されそうだわ。
母さんを怒らせないようにしよう、そう心に決めた俺であった。
翌日、準備を整えた俺たち3人は王都へ向け、馬車で出発した。
「初等学校ですか。懐かしいですね。」
「レティも通ってたのですか?」
「ええ、私も特待生として通ったんですよ。この国に辿り着いた15歳のときに、ですけどね。」
レティは故郷を10歳で故郷から追い出され、そこから5年間、住んでは追い出されを各地で繰り返した末にオルディーヌ王国に辿り着いたのだと話してくれた。
「そうだったのか、大変だったな。だが、安心しなさい。この国はそういった人種差別の少ない国だから。」
「ありがとうございます、アレックス様。私もこの国に来て良かったと思っています。」
「僕もレティと出会えたから、この国に来てくれて嬉しく思うよ。」
「ふふ、ありがとうございます。私は幸福者ですね。」
「クリス、レティはお前の婚約者だから責任もってしっかり守れよ?」
「はい!その為にももっと強くなってみせます!」
「…やれやれ、一体どこまで強くなるのやら。」
雑談をしている間も馬車は進んでいく。
太陽が殆ど沈んだころ、俺たちは王都へと到着した。
「さぁついたぞ。クリス、ここでは魔力隠蔽の魔法をかけておけ。」
父さんに言われ、慌てて魔法をかけ町へ降り立つ。
今しがた発動させたこの魔法、俺が魔力量1億を超えた頃にラルフから教えてもらったのだが、これが何かと便利なのだ。今回俺は1億もの魔力量を注ぎ込んで発動させているのでごく一部の例外を除いて誰も見破ることができないだろう。
「これは...!」
馬車か降りた俺はその圧倒的なスケールに息を飲んだ。
人の多さや建物の数、道の広さからしてヴイッシュとはまるで違う。
その光景を目の当たりにしてテンションがあがる俺だったが、
「うぇぇ気持ち悪いぃ...。」
不幸にも王都に着く直前にで乗り物酔いを起こしていた上、あまりの人の多さで症状が悪化してしまった。
無理をして、王都についた日に嘔吐する、という体を張ったギャグをするつもりは毛頭ない。
結局、この日は町の探索を諦め、父さんが此処に出向く度に利用している高級宿で軽く夕食をとり速やかに寝ることにした。使い慣れた家のベッドには及ばないものの、宿のベッドは最高級というだけあって寝心地も良く、旅の疲れも相まってベッドに寝転ぶとすぐに俺は夢の世界へと堕ちていった。
日は変わって3月15日。
体調も良くなった俺はレティを連れて町へと出かけた。父さんは王宮に挨拶をしにいくそうなので別行動である。
しかし、平日だというのに人が多い。最初に立ち寄った雑貨屋の店主に聞くと、平日も休日も同じくらい人が多いらしい。
人ごみの多い場所を通ったことで俺もレティも予想以上に体力を消耗し、腹が減ってしまったので探索もそこそこに近くの喫茶店で昼食をとることにした。
「見えてきましたよ、あの店です。」
「へぇ、あそこがレティのよく通ってたお店か。」
レティに案内されやって来たのは、裏通りにある「リアン」という小さな喫茶店。
場所が場所なので人通りも少なかったのだが、その店の前だけは人だかりができていた。
名の知れた店なのだろう、てっきり俺はそう思っていたのだが、店内から響いた悲鳴と怒号によってそれは大きな誤りであることを知るのだった。
【魔力隠蔽魔法】
任意の魔力を一括で支払うことで発動。
発動時に支払った魔力量未満の生物に対して、一部例外を除き完全に隠蔽することが可能である。
効果の持続時間は、(支払った魔力量)/100 秒で、任意で解除可能。
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