12.想像通り…?
ね、眠いぞ・・・
翌日から俺はレティの指導を受けることとなった。
そういえば、昨日は顔合わせだけで、まだレティの実力を見てなかったな。
でも、エルフは魔力が高いと聞くし、何よりラルフが選んだ人なのだから間違いはないだろう。
約束の時間通り、レティがやってきた。
「クリス君、おはようございます。」
「おはよー!」
「ふふ、朝から元気そうですね。」
優しく微笑むレティ。美少女なだけあって破壊力がやばい。
一期一会だ、せっかく出会ったのだから嫌われるより好かれたほうがいいに決まっている。
兎に角、誉められるように頑張ろう、と俺は気合いを入れた。
それにしても今日は何をするのだろうか。
気になった俺はレティに訊ねた。
「せんせー、何するの?」
「無詠唱魔法です。」
は?無詠唱、だと…?一歳半児にいきなりそんな高度なことをやるせるのか。見かけに依らずなかなか鬼ですな。
いや、待て。この世界では意外と簡単な技術なのかもしれない。その可能性はある。
「それってむずかしー?」
「少し難しいかもしれません。ですが、幼いころから魔法の練習を行っていた人ほど会得するスピードは高い傾向にあります。」
少し難しいか。それでも習得する速度には個人差があるだろうからどうなることやら。
「そうですね、クリス君は魔力的にはもう中級魔法の発動も楽々と出来るはずですが、まずは初級魔法でいいでしょう。何事も順序がありますし。」
それ、一番最初の授業に無詠唱魔法を持ってきたレティが言えたことじゃないよね...。
まあ、いつかは無詠唱で魔法を出せるようになりたいと思ってたから、俺としてはありがたいくらいだけど。
「では、今からお手本を見せます。出すのは初級魔法の「ウォーターボール」です。口が動いてないか確認してもいいですよ。」
えーっと、確か「生命の源たる水よ、穢れなき流れ、我に与え力と為せ」だったかな?
俺は言われた通り彼女の口が詠唱を行っていないことを確認する。うん、動いていない。
「ではカウントしますよ?さん、に、いち…。」
ゼロ、とレティが言った瞬間、その手から水の弾が放たれた。手の向きはやや下向きに構えているため5メートル前方の地面にむかって着弾する。
「おー!せんせー、すごーい!」
「ふふ、ありがとう。コツとしては出したい魔法の明確なイメージを持つこと、それと詠唱しているときにどのように魔力が流れているのか知ることです。」
イメージと魔力の流れか。
想像力には自信があるので案外上手くいくかもしれない。
「がんばるー!」
あっという間に習得して、驚かしてやろう。
俺は早速練習に取り掛かった。
まずはイメージするだけ、魔力の流れは考えず適当に魔力を込める。
すると、見た目はさほど変わらない水弾ができた。
「え…?」
レティが驚いた様子で俺を見つめる。傍から見たら一発で成功したように見えるもんな。
でも実際は、詠唱して魔法を使った時よりも多くの魔力を消費している。これでは駄目だ。
そんなことなら腹話術を覚えた方が幾分かマシだろう。
「クリス君、今のは魔力の流れを意識した?」
「ううん。」
俺は首を横に振る。
「そうですか。でも一回目でそこまで出来るのはやはり凄いですよ。水弾の形は完璧に再現できてますので、今度は魔力の流れも意識してやってみてください。」
その言葉を受け、今度は魔力の流れを意識して水弾を作ってみた。先程よりも魔力の消費は少なく済んだがそれでもまだ多く、形も少し崩れていた。
「(何処が駄目なんだろう。流す魔力の量か?それとも流速か?)」
それから数回、同じようにやってみたが詠唱時と違い上手くいかない。
「(うーん、これはもしかして。)」
そして、練習を繰り返すうちに、俺はレティの言った「コツ」というものに疑問を持つようになった。
もしかすると、詠唱時の魔力の流れを完全に覚えなくても、イメージで何とかなるのではないか?
そういえば、先週、魔力を身体の色々なところへ集めたときも、操作は頭の中でイメージすることで行っていた。
わざわざ「魔力の量はこのくらいで、速度は血液の流れに合わせて~」などと考える必要はないのかもしれない。
よし、思いついたら即実行だ。
頭の中で水弾の形を思い浮かべ、その一方で魔力の流れもイメージする。
「(ここで、右手に集まった魔力を掌の上で一気に左回転…おお!?)」
で、出来た…!さっきまで難しいと悩んでいたのが嘘のようだ。
やっぱり魔法はイメージ力が重要、ということか。
「せんせー、できたよ」
「詠唱時と魔力の消費量の違いは感じますか?」
「ううん。」
「では、それを試しに連射してみましょうか。」
そうか、無詠唱のメリットは連射が出来ることだったか。
えっと、水弾を掌から放ちながらも魔力の回転運動は継続させて...、こうだ!
「先生がお手本を見せますのでそれに続...。」
「あっ...。」
しまった。レティがお手本を見せてくれるはずだったのに、その出番を奪ってしまった。
「で、できた...。」
「そ、そうですね...。」
お手本を見せる前に連射を成功させてしまった俺を見て、レティは何だか悲しそうな顔をしていた。
レティ、本当にごめんなさい。
その後も幾つかの初級魔法を無詠唱で行う練習をしたが、それも数回でコツを掴むことができたので、早めに授業を終え、余った時間を使ってレティと中央街へ行くこととなった。
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