10.これ一個で○○分の…これが何と60兆個ついて…!
クリス君、チートと化す。
「クリス、朝ですよ。」
母さんの声で目を覚ます。
清々しい朝だ。昨日の疲れもすっかり取れている。
今日から頑張らなくては。
エミリーが朝食を持ってきたので速やかに食べるとしよう。
「エミリー、お風呂ー。」
朝食後、食器を取りに来たエミリーに同伴 ―と言っても一緒に入るわけでもなく溺れないように監視するだけだが― してもらい風呂に入ることにした。
「つめたっ」
「大丈夫ですかクリス様?」
「うん…」
お風呂の水は冷たかった。この世界では水風呂が主流らしい。
俺ももう何度も入ってはいるが中々慣れることができないでいる。
温かいお風呂が懐かしい…。
さて、問題はこの水だ。この水に魔素があればよし、無ければ…どうしましょう。
あってくれよと願いつつ俺は風呂の水の中で魔素を取り込んでみた。
「(おお、分かる、分かるぞ。俺の体内に魔素が入ってくるのが!)」
実験の結果、この水には結構な量の魔素を含んでいることが分かった。体力の消耗も全くと言っていいほどない。
「エミリー、この水、どこからー?」
「どこから、ですか。この水はすぐ近くにある山の麓の泉から汲んできているものですよ。」
「へー。」
成程、それであの魔素の量か。これは思ったより上手くいきそうだ。この調子でもっと魔力を溜めてやる。
幸い、水風呂なのでのぼせる心配がない。そのため、俺は調子に乗って実に半刻もの間魔素を取り込み続け、エミリーを困らせることになった。
「お水ほしい」
「少々お待ちを。はいクリス様、お水です。」
風呂上がりに水を一杯飲んでみる。
うむ、やはりこちらも俺の考え通り魔素を取り込むことができるようだ。
だが、ここで一つ疑問が浮かぶ。
「前から泉から汲んできた水を飲み水として飲んでいたはずのに何故魔力が溜まらなかったのだろう。」
でもまあ、今は魔力を溜めることができてるし、そこまで原因を追及する必要もないと考えることをやめた。
それに、水分を取り過ぎると尿意を催すだけだから、皮膚から体内に取り込む方法が一番だろう。
自分の立てた仮説は正しいと確信した俺は、翌日も同じようにお風呂で魔素を取り込もうとした。
しかし、
「あれ…入ってこない。」
何故か体内に魔素が入ってこない。いや、入っては来ているのだが魔力に変換されていないのだ。
まじかよ、まさかもう上限が来てしまったのか?
「(いや、待てよ?)」
諦めそうになったとき、あるアイディアを思いついた。
試しに今まで溜めこんでいた魔力の全てを腕に集中させてみる。
すると、昨日と同じように魔素が体内に入ってきた。
よし、思った通りだ!
取り込んだ魔素は一旦胸の辺りに集められる。恐らくそこに器官があって魔力に換え蓄えているのだろう。
でもそこに入る魔力には限界がある、と。だから今のような現象が起きたのか。それにしても昨日今日でいっぱいになるとは、それほど小さい器官ということなのだろうか。
魔力を色々なところに集めてみる。どうやら魔力は頭のてっぺんから足のつま先まで全身に溜めておくことができるようだ。
「(細胞の数は60兆個だぜぇ!ヒャッハー!※体重60kgの場合)」
俺は頭の中で身体の細胞一つ一つに刻み込むようなイメージで、週末に向け魔力を溜めることを心掛けた。
そして週末、俺たちは再びラルフのもとへ訪れた。
「ラルフ、今日も来たぞ。」
父さんがドアを開ける。
「やあ、いらっしゃ…。」
そこでラルフは固まった。
「ん?ラルフどうかしたのか?」
父さんは様子がおかしいラルフを不思議そうに見ていたが、俺は見当がついていた。
恐らく俺のことだろう。
「クリス君!これはどういうことだ!」
教授だから魔力の量を探知することくらい簡単にできるのだろう。
ラルフは俺を問い詰めてきた。
「おい、ラルフ。状況が読めないのだが、どういうことなんだ?」
父さんは状況が分からずに混乱している。
「アレックス、聞いてくれ。お前の息子、とんでもない魔力になってるぞ。」
「は?」
ラルフの宣告に戸惑う父さん。
「まあ、見た方が早いだろうな。クリス君、いつもの部屋で魔法を使ってみてくれ。」
ラルフに言われ俺たちは部屋に入り先週と同じく「ブリーズ」を使い続けた。
俺は二人の顔を見た。目線が合う。父さんは口をぽかんと開けている。
父さんは相当変な顔をしていたが、それは俺も対して変わらない。
俺は今、自分に動揺していた。
「ブリーズ」を魔力が切れるまで使い続けるつもりだったのだが、50回やっても100回やっても
殆ど魔力が減らなかったのだ。
極限まで魔力を圧縮した結果、俺がこの5日間で溜めこんだ魔力は体感で5000程。
それで100回「ブリーズ」を使った今、残っている魔力は4995、だろうか。
殆ど減った気がしないからもっと残っているかもしれない。そして人間(体重60㎏の場合)の細胞の数が60兆個だから…。
60兆個分の5千って、今の調子でやっても生きてるうちに魔力の上限来ないじゃねえか!
「クリス君、君は本当に天才だ。魔力を溜めてくるようにとは言ったが、ここまでとは…。」
ラルフはそう言うと俺の頭をなでた。
遠すぎるというレベルではないくらい途方もない道のりに落ち込みそうになったが、ラルフも言ったように今の状態でも普通ではないので気にすることはないと思うことにしよう。
「クリス君は先週から見ている限り、右利きのようだね」
撫でるのをやめたラルフが俺に話しかける。
「みぎきき?」
「ああ、右手をよく使っているということさ。」
「うん!」
「では、左手でも同じことができるように練習してみよう。」
うん?戦闘で右手を失ってもいいように左手での練度も上げておいた方がいいのかな?
なんか、イメージするだけで良さそうな気がするけど。
「因みに、慣れたらこういうこともできるぞ。「風よ吹け、ブリーズ!」」
ラルフはそう言うと「ブリーズ」の魔法を出した。お尻から…。
「あははははは、ラルフ、何やってるんだよ。くそ、笑いが、止まんねえ…。」
父さん大爆笑。それを見て俺も大爆笑。それにしてもラルフ、何やってんのよ…。
こうなるとレッスンどころではない。その後、俺たちはラルフの部屋に入ってきた人がここに来るまで談笑をし続けるのだった。
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