1.謎の世界、そして憑依。
R15、残酷な描写ありとなっていますが、
今のところはそのような描写はありません。
俺の名前は坂上達也、22歳の大学4年生だ。
第二志望ではあったが、電機メーカーに入社も決まり卒業できるだけの単位を既に取っていたので、
最近は朝までゲーム三昧と怠惰な生活を送っていた。
昨日も友達の健二と一緒に明け方まで格闘ゲームなどに熱中し、健二が帰宅するのを見送ったのは覚えている。
しかし、強烈な眠気に襲われベッドに倒れこんだ後、そこから先の記憶がない。
そして目を覚ました時、俺は見知らぬ部屋の中にいた。
「一体此処は何処なんだ…。」
いきなりのことで、頭の整理が追いつかない。
辺りを見回そうとして顔をあげると、部屋の隅に鏡が置いてあるのに気づいた。
何気なく覗き込む俺、そしてそこに映った俺の姿は…。
「うん、無いね。って、何が「うん、」だよおいっ!!」
そう、俺の姿は映らなかったのである。慌てて自分の手足を確認すると透けていた。
どうやら何らかの原因で死んで幽霊になってしまったようだ。
しかし、一向にここが何処なのかわからない。どうすればよいのかと考え事をしていると、
「クリス様!!」
と、若い女性が部屋に入ってくるなり大声をあげた。彼女はメイド服を着ていた。
「おぉ!メイドだ!」
初めてメイドを見て興奮しつつも彼女の言った言葉を反芻する。クリス様、確かにそう言った。
まさかこの部屋に誰かいたのか、とメイドの行く先を見るとベッドの上で死んだようにぐったりしている赤ん坊がいた。
「おいおい、マジかよ?!」
俺は急いでその赤ん坊のそばに近寄った。
結論から言うと、赤ん坊 ークリスという名前らしいー は死んでいた。
幽霊だったから分かったがこの子の身体は既に魂が抜けていたのである。
彼女は取り乱しているようで、「クリス様、クリス様」の繰り返し。
どうやらパニック状態になっているようだ。
そんな彼女と死んでいる赤ん坊を見て、俺はある思考に行きついた。
「これ、俺がこの子の身体に入れば助かるんじゃね?」
魂はあるが身体はない俺。対して、赤ん坊は身体はあるが魂はない状態なのだ。
生き返ったら彼女も泣いて喜ぶはず。
「俺が入っても問題ないよな…?」
この子の魂が近くにいるなら別だったが、周りには居ないようだった。
とりあえず、赤ん坊の胸に手を当て ーといってもすり抜けるのだがー 念じてみると意外と簡単に入ることができた。
「…っかはっ」
苦しい、苦しい、苦しい。
俺は酸素を求めて思い切り息を吸った。
身体を手に入れたことで、五感も蘇ったようだ。
簡単に身体に入ることができたのは良いが、こうなるとは予想してなかった。
俺が息をしたのを彼女も気づいたようで、すごく驚いた顔をして部屋を出ていった。
おそらく、他の人を呼びに行ったのだろう。
「ひと段落したし、とりあえず寝るか。」
色々と知りたいことはあったが、この身体を手に入れたことで疲労も感じるようになったので
ひとまず寝ることにした。
こうして二度目の人生を始めることになったのだが、此処が魔法の世界であることを俺はまだ知らなかった。