起きてから家出るまでを3000字で語れ。
「なぁ。俺と付き合ってよ」
「ん?ええよ、今晩だけなら」
恋愛をするなら、断然年上。年下なんてありえない。ガキやん。そんなよくいる女子でしたよ、私だって。
まさか5個も下の男の子に、この年で手を出すなんて、思いもせんがな。5個下のジャニーズアイドルにきゃーきゃー言うのとはわけがちがうよ。
そもそも私はカレセンで、好きになる人なんてみんな年上で、年下からはむしろ評判悪いくらいの人間なのです。
あ、ちなみに私、学生をやっております。
小学生が児童、中高生が生徒、大学生が学生、という区分での、学生です。
さてそんな満23歳の私の5個下ということは、もれなく満18歳。この前卒業したばかりの大学生でございます。
はいアウト―。
しかも、バイト先の生徒でございました。
はいさらにアウトー。コンプライアンス的にアウト―!
一郎して、京都から上京して、東京の大学を出て、京都の大学院へ進学しましたところ、同じく京都の大学に進学を決めた彼がついてきました。
院と大学は違うのか。
キャンパス一緒でした。
学食で当たり前に会います。
はいアウト―!!!
つーか例え、てめぇがバイト辞めたとしても生徒(卒業した生徒含めて)とプライベートで会うなよっていうのが、バイト先の労働契約の中にあったはずでしたが。無理じゃね?だって、会うことは偶然なのですもの。偶然だと思っていたのは、私だけのようでしたが。ははっ。
こちとら彼は東京の大学へ行くと聞いていたから、彼から告白された時も「ごめんよー(もう会うこともねぇだろうしなぁ)」と高をくくっておったのだよ。いつのまに京都の大学に進路変更してやがった。てめぇ、高2の時から東大とか早稲田の過去問ばっか解いてたじゃねぇか。意味分からん。若い男の考えることは私には理解できひんわ。
中高生を扱う私のバイト先でしたが、その中でも私は中学生専門の文系教師で、塾の生徒とは言ったって、高校生のあいつとは、なんやかんや事務的なつながりしかなかったはずなのだよ。何がどうしてこうなったのかしら。
そんでそんで。
そんで。
私は、いま目の前のこいつをどうするか考えているのである。
私の部屋。裸の私。裸のこいつ。脱ぎ散らかされた衣服。意味することは状況なんて見なくても、自分の体の違和感から十分分かりますがな、はい。
とりあえずコーヒー飲んでいいかしら。
とりあえず敵前逃亡するべきかしら。いや、でも私の部屋やし。外寒いし。
うわ、暖房つけっぱなしやん。風邪ひくわ。
なんせ私は、いたしてしまったものの、こいつのことを全く好きではないのだよ、いやほんとに。
素っ裸のまんまあぐらをかいて、彼を見下ろす。
二日酔いはないらしい。妙に頭がすっきりしてるんだが。
あ。
彼が起きた。
「・・・おはようございます。」
眠気眼であいさつされた。ちくしょう、可愛い。寝顔が不細工じゃないのは良いな。
「おはよう。」
「今何時ですか?」
「7時。」
「うわ俺、一限からだから、帰らなきゃ。」
そうか今日月曜か。一回生は大変だな。月曜一限の辛さは、私も何年か前に味わった。必修じゃなければ絶対取らんコマだわ。言うて私も昼過ぎから大学行かねばならんのだけれど。
「おぉ、ちゃっちゃか帰れ帰れ。」
「おー久しぶりに聞いた。『帰れ』って。俺が塾いた頃めっちゃ言ってたよな。」
かつてのバイト先では、なかなか帰らない塾生どもが帰るまで、私たち大学生講師の仕事は終わらなかった。私は早く帰りたくて、授業が終わってもなぜか塾に居座る彼らを追い返していたのだ。最低だな、私。
「うるせぇ。コーヒー飲む?シャワー浴びる?そのまま帰る?っていうか帰れ。」
「シャワー浴びさせてください!そんでもってコーヒーもください!」
「あいよー。インスタントやけどね。」
彼は素っ裸で、シャワールームへ歩いて行った。
私もそこらへんに畳んであった部屋着を着こみ、お湯を沸かすために動き出した。
そういえば、人にコーヒーを淹れるのは、あの人以来だ。
うまいと言って飲んでくれたのだった。
シャワーの音がする。んー。別の男と寝た次の日でも、あの人は私の中に現れるか。
まだ半年だもんな。前の前の恋を忘れるのに、たしか一年半かかったのだから、今の私のキズはまだかさぶたにもなってないんじゃなかろうか。
お湯が沸く間に、脱ぎ散らかされた自分のと彼の衣類を拾って、自分のは洗濯機に放り込む。箪笥からタオルを出して、シャワー室の向こうの彼に言う。
「タオルとあんたの着替えここ置いとくからー」
「ありがとー!」
コーヒーを淹れる準備。
そんでもってトースターにパン二枚入れて、それだけ。
あ、林檎も切ろう。あいつに朝からハムエッグなんてしてやる必要はない。トーストはいらなければ私が食べる。林檎は、おいしいからな。食べさせよう。
「タオル、これー?」
「おぉ。」
コーヒーの香りが部屋に充満する。
インスタントコーヒーも、手間をかければちゃんと美味しい。
ワンルームの窓際においてるベッドをソファ代わりに、私は座ってコーヒーを持って一息いれる。くたびれた自分の服を着た彼は、小さなテーブルに置かれたコーヒーを何も言わずに取って、当たり前のように私の隣に座った。距離近いわ。
「コーヒーうまっ。ありがとう。あ、シャワーも、タオルも、全部。」
「うん。」
「あのトーストは食っていいの?」
「ええよ。」
「あの林檎も?」
「ええよ。」
「その前にキスしていい?」
「ええよ。」
「うわ、無表情で無感情に言うなよ。なんか傷つく。」
ちゅ。
恋人か私らは。こら腰に手を回すな。
って思うけど、私は何もしない。
「減るもんじゃないしな。それにあんたとのキスは嫌じゃない。」
これは本当。
「それってもっとして良いってこと?」
「時間なくなるよ」
「したい。」
あぁもう。
可愛いからええや。
結局彼は、一限をサボることにしたらしい。
あ、コーヒーこぼれるっ!
昨晩のことを彼女はすっかり忘れているようだけど、
あれは彼女からだった。間違いなく。俺は我慢してました!
飲み会で、一緒にかえって。寒いからって豚まんコンビニで買って、そんで半分こして。
『あ、ほっぺについてる。とってあげるから、目ぇつぶって。』
いきなりそう言われて。
なんでほっぺなのに目?って閉じてから思った。
ぺろり。
至近距離に彼女の顔があって、
え、あ、うそ、良いの?って感じで、そのまま彼女の唇は俺のに。
いけるのか?って思って、改めて告白したら冒頭みたいな返事。
俺、一応あなたに告白したんですけど。そんでまだ全然あなたのこと好きなんですけど。
彼とキスをしていたら、色々思い出してきた。
そうかやはり私からか。
襲ったのだな。気持ちよくなりたくて。
目の前の柔らかそう唇奪っちゃったか。
あー
そうかぁ。
馬鹿か私は。今更か。そういえば頭良かったことなんて、いままでなかったわ。
結局。恋人たちみたいなキスをして、そんで彼はぐだぐだ私にまとわりついて、そんでだらだらと私たちはセックスをした。それは、すごく気持ちいいものだったけれど、やはり私の心の中にはまだあの人がいて。目をつぶったら、本当にあの人にされているみたいで、余計濡れた。彼はそれにさらに気を良くして。
あぁもう。
とりあえず考えなきゃいけないことは、あとで考える。
彼が帰ってから、あの人の家に電話をした。
彼の奥さんが出て、私は彼女にあの人への伝言を頼んだ。
いぶかしげな声だったけど、気にするまい。
さぁ。学校行くかな。