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第9話 緊急発進

 私はマリア陛下と二人で病院の廊下にいた。廊下の陰からデイ・ルームを覗いていた。

「ちょっとカトリーヌ、そんなに顔を出したら、見つかっちゃうわよ」

「ゴメン・・・・・・でも今いい所なのよね・・・・・・」

 私達が見つめる先にはウィリアムズ大尉とハイネマン伍長がいる。ウィリアムズ大尉は車椅子に座っている。今日初めてベッドから出られた。ハイネマン伍長は制服、制帽姿で、ガウンを着たオリビア大尉の前に立っている。

「見てマリア、いい雰囲気よ」

 今日はウィリアムズ大尉がハイネマン伍長を病院へ呼び出した。私と、マリアは直感的に「これは何か起きる」と思い、ハイネマン伍長に付いて来た。そして姿を隠して覗き見している。私達は耳をダンボにして二人の会話を聞き入っていた。

「ハイネマン伍長・・・・・・わざわざ来てくれて有難う」

「いいえ大尉。無事で何よりです」

 二人は見つめ会っている。こ、これは・・・・・・脈有りね。

「無事じゃないわ・・・・・・無事じゃ・・・・・・ないのよ」

 ウィリアムズ大尉は俯いてしまった。どうしたのかしら?

「大尉・・・・・・いかがされました・・・・・・あ、あの・・・・・・」

 ハイネマン伍長が酷く狼狽している。私達の耳はダンボを通り越して、高性能集音器になっていた。

「エドワード・・・・・・助けてくれ有難う。私が負傷した時、手当てしてくれたんでしょ」

「まあ、そうですが、最後まで諦めず手当てしていたのはマリア陛下です。自分はさしたる事はしていません」

「ええ・・・・・・マリア陛下に聞きました・・・・・でも、あなたは私の服や下着をナイフで切り裂いて、私を裸にしましたね。これは婦女暴行です」

「うっ、そ、それは・・・・・・それは純粋な医療行為です。あそこは戦場でした」

「そうですね、医療行為と言えば、そうでしょう。ですが、私の心は傷付きました。若い殿方に肌を見られたのです。そして、お腹の傷跡も一生消えないでしょう」

「大尉・・・・・・・その・・・・・・申し訳ありません。全ては自分の責任です。大尉を護りきれなかった自分の責任です。自分はどのようにして償えば良いのでしょうか?」

「責任を感じているの?」

 ウィリアムズ大尉の声のトーンが変わった。顔を上げてニコニコしている。これからどう言う展開か、物凄く楽しみ。

「はい・・・・・・」

「責任とってくれるの?」

「自分に出来る事であれば、何でもします」

 ゴクリとマリアの喉が鳴った。私の手は汗でべっとりとなっている。ウィリアムズ大尉の顔が赤い。目もウルウルしている。こ、これは来るわよ!

「じゃあ・・・・・・じゃあ、エドワード。責任をとって私と結婚して!」

 やった!私とマリアは思わずガッツポーズをした。

「あ、あの・・・・・・その・・・・・・・何て言うか・・・・・・俺でいいのですか?何の取柄も無いですけど」

「そんな事無いわ・・・・・・オリンピック目指しているのよね。私が陰となり日向となりあなたを支えます。一緒にオリンピックを目指しましょう」

「あ、有難う御座います。ウィリアムズ大尉。その・・・・・・光栄です」

「オリビア。私の名前。オリビアと呼んで」

「わかりました。オリビアさん」

「《さん》付け禁止」

「お、オリビア」

「ハイ。よく出来ました」

 私とマリアはウィリアムズ大尉の所へ駆け寄って行った。

「おめでとう!オリビア!結婚式には呼んでね」

「ウィリアムズ大尉、おめでとう御座います」

 私はお見舞いの持ってきた花束の中から薔薇を一本抜き出し、ハイネマン伍長へ渡した。

「さあ、ハイネマンさん。この花を持ってウィリアムズさんにプロポーズして」

 ハイネマンさんは薔薇を両手で持ち、ウィリアムズさんの前で跪いた。たどたどしく、長い情熱的なプロポーズが始まった。


 

 あの事件から二週間経っていた。オレは脇腹の痛みも取れ、フツーの生活に戻っていた。アラート・ハンガーの前にある芝に座り、日向ぼっこ。今日も天気がいい。少し暑いくらいだ。

 ジョーズとフォンシュタイン大佐は戦後処理にてんてこまいだ。オレは通常任務に戻っている。下っ端は楽だな。

 ハイネマン伍長とウィリアムズ大尉が結婚する事になったそうな。昨日カトリーヌから聞いた。オレは一言おめでとうって言ってきた。

 エミリーはフューリアスに乗って魔法界へ帰って行った。彼女は彼女の世界で戦後処理があるそうだ。皇女ってのも大変な仕事だと思う。

 カトリーヌのミネルバとその乗員はリントン空軍基地に残った。ローズ大尉も一緒だ。このリントン空軍基地が対魔法世界の最前線基地としての役割を担ったからだ。現在魔法界を相手に出来るELINT《電子戦専用機》はミネルバしかない。そしてその魔道レーダーを操れるのは、カトリーヌとアリシアしかいない。そんな訳でアリシアはこの世界に残った。

 オレ達のファントムも退役が先延ばしになった。理由は最新鋭機が魔法下では能力を発揮できないから。それと敵艦船撃破五.敵航空機撃破十四。味方損害数は小破一と言う大戦果だったから。キルレシオは十九対0。圧倒的じゃないか我が飛行隊は。ファントムの寿命延長及び限定的近代改修の計画があるとか。

 オレは日向ぼっこしながら手紙を読んでいた。

「それはエミリー皇女からの手紙ですか?」

 アリシアが後ろから手紙を覗いている。彼女は空軍の制服を着ている。徽章は少尉だ。

「そうだよ」

「ラブレター」

 オレの前から手紙を覗くのはカトリーヌ。彼女も制服だが、一足先に夏服を着ている。

「相変わらずモテるわね」

 皮肉っぽくいうのはマリア陛下。オレ達の誤爆で王宮が使用不能となったので、リントン空軍基地の応接室を間借りして執務しているそうだ。でも何でこの空軍基地なんだ?

「読むかい」

 オレは手紙をカトリーヌに渡した。別に読まれても困る内容じゃないから。

「何これ?『I shall return』『I'll be back』 ってしか書いていないじゃない」

「オレが知る限り、その台詞を吐いた人間は必ず戻って来ているな」

 とある元帥閣下ととあるヒーローの台詞だ。

「カトリーヌもうかうかしてられないわね。先週のオリビアのように、勝負かけたら」

「ええっ?そんな・・・・・・無理よ・・・・・・恥ずかしいわ」

「でもキティ、ロイ殿は鈍いから、はっきり言わないとダメだと思います」

 オレが鈍い?なんのこっちゃ?鈍かったらファイターパイロットなんて出来ないだろう。

「そうよね、このにぶチンは・・・・・・」

 カトリーヌの一言で、女性陣が一斉にオレを睨む。なんかオレが悪い事したみたいじゃないか?

 ジリリリリリリリリリリリリリリン!

 突然ベルが鳴った。火災報知器ばりの強烈なベルの音。けたたましく部屋中に鳴り響いている。

「ホット・スクランブル!」

 ヴァルチャー達が待機室から飛び出してきた。アラート・ハンガーの扉が開く。中にはマット・ブラックとエクストラ・ダーク・シーグレイのファントムが並んでいる。

 オレも格納庫に向かって走る。

「グッドラック!」

 背後からカトリーヌの声が聞こえた。

「サンクス!」

 オレは後ろ手に手を振った。

 梯子を駆け上がり、前席へ座る。ハーネスを締め、ヘルメットを被り、酸素マスクを付ける。マスター スイッチON。後席にマーリンが付いた。

「マーリン。慣性航法攻撃装置作動!」

『了解!ケストレル』

 ヒュゴゴゴゴゴゴオオオオオ

 ロールス・ロイス・スペイMk・204ターボ・ファンエンジンが始動し始めた。

『こちらHQ。国籍不明機(アン・ノン)は北方海域から南下。機数一。ドラゴン隊がインターセプト。バイパー隊は現場に急行しドラゴン隊を支援』

『バイパー・リーダー了解。ケストレル、行くぞ!』

「バイパーセブン了解!」

 オレ達は対領空侵犯措置行動の為、飛び上がった。



「あーあ。行っちゃった。相変わらず凄い音ね・・・・・・」

 マリア陛下が腰に手をあてて、大きく嘆息した。私はロイが飛び去って行ったほうを見つめていた。

「カトリーヌ・・・・・・心配なのですね。心配する気持ちが大きい程、彼への気持ちが強いと言う事です」

「ロイもカトリーヌも私より年上なのに、恋愛は中学生みたいね」

 カトリーヌは拳をギュッと握る。

「何か・・・・・・凄く嫌な予感がする。とっても嫌な予感。ロイが二度と帰ってこないような気がする・・・・・・」

 私は言い知れぬ不安が胸の中を飛び回っているのを感じていた。

「カトリーヌ、ロイを追いかけましょう。私も嫌な予感がします。もうすぐ哨戒任務で飛びます。ケストレルを追いかけましょう」

 私達は愛機、ミネルバに乗り込んだ。

「皆、飽きないわね・・・・・・」

 マリアは大きくため息を付いた。


「ナイナー・オクロック・ロウ!フレンド」

 オレは雲の切れ間にタイフーンの編隊を見つけた。

『こちらドラゴンリーダー。信じてもらえないかもしれないが、船が空を飛んでいる。白い蒸気船だ』

 オレはドキッとした。白い空飛ぶ蒸気船。フューリアスか?

「タリホー!テン・オクロック・ロウ!フューリアスだ」

 マーリンの敵発見のコール。オレは十時方向下を見る。間違いない。フューリアスだ。

『皇女様のお出ましだ。ケストレル、お相手を頼む。バイパー・リーダー、アウト』

「はあ?」

 ヴァルチャーは編隊を離脱。反転して行った。任務放棄じゃねえのか?

『こちらドラゴンリーダー、敵空中巡洋艦の監視の必要は無くなった。バイパーセブンに任せる。ドラゴン・フライト、アウト』

 二機のタイフーンは綺麗なターンを決め、離脱して行った。おいおい、タイフーンもかよ。どうなってるんだ?

『ロイ聞こえますか?エミリーです。予告通り、戻ってきました』

 聞き覚えのある声が聞こえて来た。エミリーだ。本当に戻ってきた。

「こちらケストレル。エミリー皇女!なにしてるんですか?防空識別圏でIFFを切って飛ぶなんて!撃沈されますよ」

『この辺でうろうろしたら、あなたが飛んでくると思ったからです。良かったロイで』

「よかった・・・・・・じゃないですよ。それでなくともピリピリしてるんですから・・・・・・」

『ごめんさない。今日はあなたを迎えに来ました。ロイ、私はもう、貴方を待つ事を我慢できません。このまま一緒に魔法世界に行きましょう』

「はあ?何言ってんだよ!」

『お父様……国王陛下を説得しました。ロイを連れて来たら。婿として認めて貰えるそうです』

「ケストレル、あっちに行くなら、俺はベイル・アウトするぜ」

 マーリンは降りると言って来た。お前までオレを見捨てる気か?

「おい!皆、強引過ぎる。オレの意思は・・・・・・・」

 ピーーーーーーーーー・・・・・・・・・。

 オレの台詞を遮るように、ファントムから警報が鳴った。

「どうした?ケストレル」

「ロック・オンされた。ミサイル・ロックだ!」

 ファントムの計器パネルの警告灯が空対空ミサイルのレーダーロックを受けている事を発報している。 オレは反射的にファントムを回避させる。

『何処に行くのですか?ロイ』

「エミリー!警戒しろ!敵機が現れた!」

 ファントムを旋廻させながら、索敵する。レーダーに反応が無い。

『こちらキティ。ロック・オンしたのは私よ・・・・・・ロイ、今すぐリントン空軍基地に戻りなさい。 ミネルバはアムラーム空対空ミサイルを装備しています。私と皇女、どっちを選ぶの?』

 何?キティが何でここに?でも、誰だよ!ミネルバにアムラームの運用能力を付与したのは?

『こちらエミリー、やるわね・・・・・・カトリーヌさん。私も負けませんよ。ロイ、私と一緒に魔法界に行ってくれなければ、スタンダード艦対空ミサイルを発射します。既に貴方のファントムをロック・オンしています』

 なんだと?誰だよ魔法界にハイテク兵器を流しているヤツは、ミリタリーバランスが崩れるって言っているだろうが!

『対等な立場と言いたいのね、エミリー皇女。受けて立つわ!』

「おい!お前ら。話し合いで解決しろ!外交問題を武力で解決するんじゃねえ!」

「ケストレル、俺を巻き込むなよ」

『ロイがハッキリすればいいのよ!』

『そうですわ!』

「何の事かさっぱりわからん!カトリーヌ、エミリー、戦争は良くない。当事者同士、話し合いで解決しろ」

 オレはありったけのチャフをばら撒き、スロットル・レバーを全開にしてリヒートを点火させた。

 ファントムはあっと言う間に音速を突破し、二人のミサイル・ロックから逃げた。

 オレには逃げる以外、いい方法が見つからなかった。

 だけど、最終的にはリントン空軍基地に帰るのだけれど・・・・・・・。

解説書(実物の話)

・ファントムFG・1

 米海軍のF‐4JファントムⅡを英国海軍仕様へ魔改造した機体。通称ブリティッシュ・ファントム

 英国航空産業の維持の為、『機体はアメリカから買うけど、せめてエンジンだけは英国製を使いたい』と言って、英国製ロールスロイス・スペイエンジンを搭載してしまった。

 これが苦労の始まりで、元になった米海軍ファントムのJ79型エンジンより直径か二十センチも大きなスペイを無理やりファントムに押しこむ形となってしまいました。その結果、胴体は太くなり、空気取り入れ口は二〇%もがばっと拡げられた。この改造が悪影響して空気抵抗が大きくなって、最高速がやっとの思いでもマッハ2程度しか出なかった。オリジナルの米軍仕様は余裕でマッハ2・4も出るのに……。六〇~七〇年代って戦闘機の最高速がパフォーマンスの証みたいな所があって、FG・1の性能は関係者をおおいに落胆させちゃったのでした。高いお金つぎ込んで改造したのに。

 しまいには失敗作(駄作機?)の烙印を押されそうになったのだけど。米軍ファントムよりもハイパワーなスペイエンジンのお陰で、加速力、上昇力は抜群だった。それと燃費がいいから作戦行動半径も広くなった。結果的には大成功だったようです。英国人は器用で改造が上手なのかなと思いました。

 結局、戦闘機の最高速って実戦で必要な部分は殆ど無くて、亜音速や遷音速領域での加速力や、上昇力が物を言うみたいです。その証拠に最近のF‐16やF‐18なんて最高速度をすっぱりと諦めた機体設計となっています。

 ブリティッシュ・ファントムの外観では、胴体が太くなって、空気取りれ口が拡がった為、米海軍ファントムと比べて、グラマラスな外観となっていてカッコイイです。

 あと英国の小さな空母で運用するから、折りたたみ式レードーム(戦闘機の鼻先に有る円錐形のヤツ。中にレーダーが入っている)とか、燃料投棄ベントチューブを短くしたり。距離が短いカタパルトで飛び立つ為に前脚が二段階に二メートル以上も伸びます。他にもたくさんの涙ぐましい大改造をしました。その割には、英海軍はファントムの空母運用をあっさりと止めて、英国海軍ファントムは全機、英国空軍に引き渡してしまいました。

 英国空軍へ再就職した機体は主に要撃戦闘機として運用されました。領空へ接近する国籍不明機の迎撃任務です。この物語の序盤の活躍の通りです。ここで、この機体の加速力と上昇力が生きました

 因みにロイの愛機、シリアルナンバーXT597はファントム二十五周年記念塗装を施され、エアショーに出ていました。


・ファントムFGR・2

 ファントムFG・1の英国空軍仕様基本的には同じ機体なのだけど、空母での運用が無いから、その絡みの装備を外されています。逆に二十ミリバルカンポッドの運用能力や偵察ポッドの運用能力が付与されています。この機体の最大の特徴は搭載バッテリーを使用して、地上支援無しで自力エンジンスタートが出来ます。

 ジョーズとヴァルチャーの愛機はこちらのタイプです。

 余談ですが英国人と日本人は何故か『飛行機のエンジンに名前を付ける』習慣が有りました。『ケストレル』『マーリン』『ヴァルチャー』は全てロールスロイスのエンジン名でした。日本語すると『チョウゲンボウ』『コチョウゲンボウ』『ハゲワシ』って所です。


・美味しいケーキ

 この物語にはケーキがいっぱい出てきます。飛行機好きにの方に楽しめるような内容にしたかったこの物語。だけど、こんなにもケーキについて調べるとは思わなかった。女の子に食べて貰うケーキはどんなのが良いかなと思って、いっぱい調べました。


・F‐4ファントム2戦闘機

 劇中、ロイが言っていたように、マクダネル・ダグラス社が開発した艦上戦闘機。当初は艦隊防空任務の戦闘機だったけど、開発コンセプトが時代の要求にヒットし、ベストセラー戦闘機になりました。十一カ国、十五の軍隊(オーストラリア空軍はレンタルだった)で採用され、総計で50195機も生産されました。

 F‐4B、C、D、E、F、G、J、K、M、N、S、EJ(航空自衛隊仕様)、RF‐4B、RF‐4C、RF‐4Eのタイプがあり、ワイドバリエーションになっています。このタイプの他に能力向上型とかが有ります。この戦闘機を語り出したら、二百ページくらい書けそうです。


・E2Cホークアイ

 米海軍が採用した早期警戒機。航空自衛隊も採用しています。

ミネルバはこのタイプです。魔導レーダーからの下りは完全な創作で実際はあり得ないでしょう。

 因みにホークアイをベースに作った輸送機がC‐2グレイハウンドです。


・AIM9Lサイドワインダー空対空ミサイル。

 かつて言われた『西側陣営』の殆どの国で採用された空対空ミサイル。劇中での説明の通り、赤外線ホーミング誘導方式です。航空機のジェットエンジンから排出される高温ガスを探知して追尾します。


・オレ達のファントムは後席にも操縦装置があるタイプ。

 ロイが言っていたセリフです。ファントムは後席に操縦装置が有るタイプと無いタイプが有ります。空軍で採用されたファントムは後席にも操縦装置が付いていました。空軍機は戦闘爆撃機としての運用を求められていた為、激しい対空砲火に晒される危険が有り『前席パイロットにもしもの事が有っても、最悪、後席で操縦して帰ってくる』のが要求として有ったようです。

 ロイ達の海軍型から派生したタイプは後席に操縦装置は無く、英国仕様ファントムにも後席操縦装置は付いていませんでした。ですが、英国仕様にも、機種転換訓練用に数機、後席に操縦装置が搭載されていた機体が有ったようです。ロイの愛機はこのタイプです。


・フレア弾

 赤外線ホーミングミサイルが熱源を追尾するから、航空機は自機を防衛するため。

『ジェットエンジンに似た熱源をばらまけば、ミサイルはそれる』と言う対抗策です。

 ファントムは翼下パイロンにフレアディスペンサーを装備していて、ここから真っ赤に焼けた球が数個飛び出して行きます。


・空対空ミサイル

 飛行機から発射して飛行機を撃墜する為のミサイル。

 ミサイルとロケット弾は異なる兵器です。誘導し(誘導され)目標を追尾するのがミサイルで、燃料を燃焼し、飛んで行くだけの物はロケット弾と区別されています。


・リヒート/アフターバーナー

 日本語に直すと『再燃焼装置』となります。ジェットエンジンの排気には結構、酸素が残っているから、排気に大量の燃料を噴射して点火させれば、爆発的に推力が上がります。その分、燃費は最悪となります。

 戦闘機や音速を超えて飛ぶ飛行機には必須の装備です。

 アフターバーナーはジェネラルエレクトリック社の登録商標で、ロールスロイス社ではリヒートと呼んでいます。


・エリアルール

 ロイがカトリーヌの身体を見て出た一言。超音速機であるファントムや、F‐105サンダ―チーフは真上から見ると、胴体中央部が絞り込まれて、胸元とお尻が膨らんでいる形状になっていて、グラマーなスタイルとなっています。このような機体形状は超音速付近の空気抵抗が抑えられて、物凄い速度が出せるようになります。発明当初は米軍の最重要機密事項でした。


・ウエストランド・リンクス

 ヨーロッパが主体となって開発したヘリコプター。時速四〇〇キロも出るらしいです。

 三〇ミリチェーンガンを装備したGT型は僕の創作で実際には存在しない型です。


・タリホー

 これを、日本語に訳すと……『敵機発見!』になるのかなぁ。戦闘機のパイロットは敵機を見つけたらこう叫ぶ。


・航空機関砲

 実は『機銃』と『機関砲』は全く異なる物です。一番の違いは弾頭です。

 機銃の弾頭は普通の拳銃と同じで、鉛とか、合金の弾です。対して機関砲の弾は弾頭に炸薬が入っているから、命中すると爆発します。二〇ミリ機関砲でも大型爆撃機なら三、四発当たればバラバラになるし、装甲の薄い車両であれば簡単に撃破します。

 機関銃はあくまで銃で、機関砲は大砲の区分けなのです。英語に訳すとどちらも『GUN』なんですけどね。個人的に思う所で、映画とかアニメの機関砲の描写は『威力が弱過ぎ』のような気がします。(正確な描写の作品もあります)


・ホワイトランス空対艦ミサイル

 これは僕の完全な創作です。元ネタはAGM‐12ブルパップ空対地ミサイルです。ブルッパプは語呂が悪いかなぁと思い、ホワイトランスにしました。


・タイフーンF・2

 ヨーロッパ各国が協力して開発した戦闘機。航空自衛隊の次期戦闘機選定でF‐35に負けてしまった。性能は折り紙つきなのにね。


・ホークT1・A

 世界各国で採用され、米海軍でも『ゴスホーク』と名前を変えて採用されました。練習機のベストセラー。戦闘機パイロットを育てる為の飛行機です。

 劇中、この飛行機は運動性能が高いとロイは言っていましたが、米空軍の練習機T38や航空自衛隊のT‐4も総じて運動性能は高い。逆に高くなきゃ練習にならないと思う。


・ファントムはゆっくり飛ぶのが苦手

 ファントムは低速で飛ぶと操縦幹の操作とは逆方向に機体が動くって現象が発生します。

 専門用語で『アドバース・ヨー』とか『エルロン・リバーサー』(エルロンの逆効き現象)とか言います。どんな事かと言うと離着陸とかの低速時、機体が左に傾いたから、反対の右へ操縦幹傾けたら、もっと左に傾いて、最悪ひっくり返って墜落してしまいます。これは初期型の米海軍F‐4B型から最終形のF‐4EJ型まで直ることが無かった悪癖でした。艦載機として設計された為、避けきれない現象でした。低速時の機体制御は操縦幹ではなくラダ―ペダルを使うようです。


・クロック・ポジション

 劇中「六時方向!」とか「シックス・オクロック」て叫んでいたけど、これはクロック・ポジションの事です。自分から見て、正面が零時、後が六時、右が三時、左が九時になります。

「ナイナー・オクロック!」って叫んでいたけど、飛行機業界では『ナイン』を『ナイナー』と言います。昔の無線は雑音が大きくて、聞き間違いが無いように『ナイナー』となったようです。僕はそう習いました。


・飛行機の燃料は灯油

 実は灯油なのです。某アクション名作映画でテロリストが乗ったボーイング747の燃料コックを開いて燃料を排出させて、ジッポで火を付けるシーンが有りました。引火した燃料が導火線となって747は爆発するって凄いアクションなんだけど、これは多分無理。灯油はガソリンみたいな強烈な引火性はないので、刑事さんがジッポで灯油に火を付けている間に、犯人たちが乗った747は悠々と逃げ切れたでしょう。

 いずれにせよ、灯油もガソリンも消防法で定める『危険物』なので、取り扱いには細心の注意が必要です。

 昔『JP4航空機燃料を石油ストーブに入れて焚いた』って武勇伝を語ってくれた整備士さんが居たけど、ストーブが溶けるくらい真っ赤に加熱したそうです。本当かなぁ。よく無事に済んだと思うよ。危険ですから絶対に真似しないでください。


・ミネストローネのポットが破裂した。

 これは某爆撃機映画より頂いたエピソードです。幼かった僕があのシーンで心臓が止まりそうになるくらい、驚いたシーンです。今でも強烈に覚えています。


彼女カトリーヌは果敢にもベルトを外して、身体を起こし、後方の敵機を監視していた。

 ロイがカトリーヌを後席に乗せて、模擬空戦をした時の話。

 これはベトナム戦争で実際にあったエピソードを頂きました。F‐4はベトナム戦争へ大量投入された戦闘機でした。

 MIGに背後を取られたF‐4の後席迎撃士官が、後を見ながらMIGの動きをパイロットに実況中継して攻撃の回避に成功しました。彼らはその後、エースパイロットと呼ばれるようになりました。


・ホルテンHo229

 第二次世界大戦の末期、ドイツで試作された戦闘機。本当に木で作られていました。実戦には間に合わなかったようで、そのまま連合軍に接収されました。コイツは何とジェット機です。しかも現用爆撃機のB‐2スピリットにシルエットがそっくりです。半世紀以上も前に、ステルスの概念が有ったかどうかわかりませんが、 ホルテン兄弟は遥か未来を見ていたのかもしれません。


・YB‐49

 これは一九四七年に初飛行したアメリカの爆撃機。コイツも凄い形をしている。僕が初めてこの飛行機を見たとき『本当に飛ぶの?』と思った。実際は飛ぶのに凄く苦労したらしい。当時はコンピュータ制御とか一切なかったから、人力で機体の制御をするのは大変だったろうなと思う。


・シーハリヤーFRS・1

 英国で開発した戦闘機。V/STOL機で有名なハリヤーの英国海軍バージョン。ベースのハリヤーにブルーフォックスレーダーを搭載して能力を向上しました。(元々のハリヤーはレーダーを搭載していませんでした)また、外観では空対空戦闘での後方視界確保の為、コクピットを三〇センチぐらいかさ上げしていま す。

 劇中、飛行中に垂直上昇してロイ達の攻撃を回避する下りがありました。これは 昔、僕が幼い頃、ハリヤーの特集をしたテレビでやっていました。ハリヤーを導入したアメリカ海兵隊の大佐が『水平飛行中に垂直上昇のレバーを引っ張ったらどうなるか』と試した所、その場で垂直上昇して、追尾していた僚機の視界から消えたそうです。

 シーハリヤーのエンジンも英国流儀に漏れず、《ペガサス》と言う名前が付けられています。


・チャレンジャー主力戦車

 英国陸軍の主力戦車です。コイツの特徴は四人乗りです。

現用の各国主力戦車は『自動装填装置』により装填手がいない三人乗りが多いですが、アメリカのM‐1戦車とチャレンジャーは装填手がいて、四人乗りとなっています。装填も慣れた人がやると、自動機械より早いのかな?


・オットー・カリウス

・エルンスト・バルクマン

・アルベルト・ケルシャー

・ミハエル・ヴィットマン

 この人たちは実在の人物で、第二次世界大戦の戦車兵のエースです。そのまま名前を貰っちゃいました。

 特に、オットー・カリウスさんは日本でもその筋には有名な人で、プラモデルや、漫画や、ラノベに登場する程です。


・ヤード・ポンド法

 高度を表す『フィート』液体の体積を表す『ガロン』、重さを表す『ポンド』はヤード・ポンド法です。一フィートは約三〇・五センチメートル。一ガロンは約三・七リットル。一ポンドは〇・四五キログラムです。 

 この物語を書いている時は電卓を片手に書いていました。(特に高度についての計算)飛行機関係はこのヤード・ポンド法が標準単位となっています。MKS単位系は使われていません。アメリカ製が幅を利かせているせいでしょうか?めんどくせえなあ。と思います。

 昔、この『ポンド』と『キログラム』を間違って燃料を計算した飛行機が墜落しそうになった事件がありました。


・便器爆弾

 これは実際にベトナム戦争で使用された爆弾です。本当に洋式便器の形をしていました。効果が有ったのかは、わかりません。

 劇中、『ファントムの翼下パイロンにつり下げて』と書きましたが、ファントムに搭載するのだったら、相当巨大な便器になるのでは?ああ、そっか、特注品だ。と自分を無理やり納得させました。


・F‐4Jファントム

 米海軍仕様のファントムです。ブリティッシュ・ファントムの原型です。

劇中『エンジンが異なる』ってロイの説明が有りました。コイツのエンジンはJ79型ターボジェットエンジンと言って、ファントムFG・1のターボ・ファンエンジンとは仕組みが異なります。

 あとこのファントムの最大の特徴は『派手な塗装』でした。このファントムが現役当時は米海軍に『迷彩塗装』の概念は無く、飛行機の垂直尾翼は部隊マークのキャンバスでした。現在は低視認迷彩塗装が海軍でも標準となっています。


・A‐4スカイホーク

 ファントムと同世代の古い艦載攻撃機。小型、軽量、堅牢ならば、おのずと高性能になるとの考えで作られた攻撃機です。普通、攻撃機って空中戦をやらないから、機動性は求められないのだけど、コイツは戦闘機を凌駕する運動性能を持っていました。アクロバットチームの飛行機に採用された事も有ります。


HUDヘッドアップ・ディスプレイ

 戦闘機の操縦席の前に装備されている装置で、透明なディスプレイに飛行状態や照準装置を映し出す物です。HUDの定義として、パイロットが視線を落とさず、自機の飛行状態を知る物としてあります。照準装置を映し出すだけでは有りません。高度や速度。包囲、水平儀を投影します。


・光学照準器

 ファントムの前席操縦席に装備されているのは、ただの照準器でHUDの機能は有りませんでした。これは《オプティカル・サイト・ユニット》と言います。HUDはファントムより後の世代の軍用機で実用化されました。

 但し、後の能力向上型ファントム(F‐4EJ改とか)はHUDに置き換えられています。


・愛機には固定武装が無い

 ロイが嘆いていました。ファントムの配備が始まった頃は『ミサイルは絶対命中するから、戦闘機には時代遅れの固定武装はいらねぇ』とか言って。初期型のファントムには機関砲の固定武装が有りませんでした。米海軍ファントムや、ロイ達のブリティッシュ・ファントム、初期の米空軍ファントムがそうでした。

 ところがどっこい、ベトナム戦争で『ミサイルって言うほど当たらない』とか『ミサイルに頼り過ぎて空中戦を忘れた』とか。厳しい交戦規定が有って、自由にミサイルが使えなかったのだけど、ミサイル万能論は脆くも崩れました。パイロットたちは接近戦でミサイルが思ったほど役に立たなくて、凄く苦労したようです。 苦肉の策で劇中に有ったように胴体下にバルカンポッドを装備したんだけど、ヴァルチャーの言うように扱いが難しかったようです。その後、バルカンポッドはもっぱら、地上掃射に使われたようです。

 業を煮やした米空軍はM61Aバルカンを機首に標準装備したF‐4E型を開発します。

 以降開発された戦闘機には固定武装が必ず装備されています。懲りたようですね。


・ソニック・ブーム/衝撃波

航空機が超音速で飛ぶと発生する巨大な騒音と衝撃波です。この衝撃波を語ろうとすると物理法則と難しい数式がいっぱい出てくるので、説明が難しいです。

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