表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第5話 コンバット エア パトロール

 日が沈み、再び日が昇った翌日。士官食堂で昼飯を食う。テーブルのオレの隣にはカトリーヌが居る。オレの向かえは何故かディアナさん。ディアナさんは昨日までの金の刺繍が入った黒マント姿ではなく、短い黒い襟の緑の服を着ていた。

「騎士団長ではなく、兵長に格下げです。したがって皇女と食事を同席する事はおろか、私の方から近づく事が出来なくなりました。その代わりロジャース様の警護を皇女より仰せ使いました」

 オレとカトリーヌは目が点になった。

「ディアナさん。何でオレの警護?オレってそんなに重要な人間じゃないんだけど。警護する価値はないよ」

「皇女は《悪い虫が付かないように》と仰ってました」

「ディアナさん。何で、私の方を見るのよ!」

 カトリーヌが突然怒りだした。カルシュウム不足だな。煮干食え。

「それから・・・・・・私の事はアリシアと呼んで下さい。ディアナは家の名前なので・・・・・・」

 ディアナ改め、アリシアは膝の上に両拳を握り、俯いた。顔が赤い。

「ロイ様・・・・・・あの・・・・・・お願いが有ります」

 アリシアが畏まって、オレにお願い?なんだろう。

「オレに出来る事ならいいけど」

「あの・・・・・・・・エミリー皇女とご成婚された後・・・・・・私を側室に迎えていただけないでしょうか・・・・・・」

「えっ?」

「な、なにいってんのよ!」

 一際大きな声を上げたのは、カトリーヌだった。マーチン・ベイカーの射出座席(イジェクションシート)のように、豪快に立ち上がった。

 周囲の視線がカトリーヌに集まる。キティは顔を真っ赤にして椅子に座った。

「まあ、待ってよアリシア。オレはエミリー皇女と結婚出来ないよ。身分と住む世界が違う」

「そうですか」

 オレはアリシアが驚かず冷静な事に驚いた。アリシアはエミリー皇女の部下だろ。皇女の希望を叶えないのか?

「確かに・・・・・・ロイ様の気持ちはわかります。死ぬまで、《エミリー皇女の旦那》と言われるのは御辛いでしょう。それに皇女はブランバンド王国の国民の母となられる人です。つりあうお方が限られます。・・・・・もしかして、ロイ様はフランソワーズ殿と結婚するのですか?それでも構いません。フランソワーズ殿とのご婚儀が済んだら、私を側室にしてください」

 爆弾発言とはこの事だ。気化爆弾並みの破壊力。しかも昨日までツンツンしていた女の子が突然しおらしくなって「側室にして」と言ってきたら・・・・・・こんなオレでもドキドキしちまう。

「オレは嫁さん二人を養う程、稼ぎがないんだが・・・・・・」

「ばーか。この国で重婚は犯罪よ」

 キティの一言で冷静になれた。



 オレは士官食堂を出て、ハンガーへ向かって歩く。今日もいい天気だ。まあ、戦闘機に天候なんて関係ないけど。天候不良で欠航なんて有り得ない。オレのファントムは全天候型超音速要撃戦闘機だから。

 駐機場に赤い垂直尾翼のファントムが並んだ。隊長機が復活したのだ。機首にはシャークマウスが描かれている。被弾して壊れていたのが・・・・・・まだ修理完了していない。修理完了まで待てない状況となり、倉庫でモス・ボール保管されていた機体を引っ張りだしてきたのだ。その機体を化粧直しして隊長機として復活させた。ただ・・・・・・倉庫で眠っていたのには理由があった。この機体はF‐4JファントムⅡ戦闘機。米海軍の余剰中古機を防空の穴埋めで王室空軍が米海軍から十七機ほど買った内の一機。オレ達が乗っているF‐4K/M型とはエンジンが違うから飛行特性が若干、異なるんだけど、ジョーズは気にせず、乗りこなすだろう。

 そう言や、オレのファントムにも対地/対艦ミサイルが装備出来るようになったんだ。重整備のついでに、ミサイル運用能力付加された。

 今日は対地/対艦ミサイルの試射が有る。オレのファントムはハンガーの中で、ホワイトランス対地/対艦ミサイルを装着準備中だ。

 ホワイトランス対地/対艦ミサイルはテレビ誘導方式。ラジコン飛行機みたいなものだ。後席のレーダー迎撃仕官がジョイスティックで遠隔操作し敵艦へ命中させる。この誘導方式の最大の欠点は、母機がミサイルの命中までを誘導をしなければならない事。つまり、ミサイルを誘導する為、発射したミサイルの後を母機が追っかけて行かなくてはならない。

 それはどう言う事か?

 対空砲火や対空ミサイルが雨あられのごとく飛んでくる敵艦へミサイルを追っかけて突っ込んで行かなきゃならない。ミサイルが命中するまで回避は出来ない。男の根性の見せ所となる。当然、対空砲弾が当たればお陀仏だ。

 ハープーンみたいなアクティブホーミングは魔法使い相手に使えないから、旧式のミサイルが引き摺り出された。

 オレの横を牽引車に引っ張られた黒いファントムが走って行く。ヴァルチャー機だ。

「今日はジョーズと一緒にCAP《Combat air Patrol》だ。ジョーズ機の試運転も兼ねて」

 そう言い残して、ヴァルチャー機は飛び上がって行った。ジョーズ機と共に。



 俺、《ヴァルチャー》リチャード・アレイは戦闘機乗りになってもう何年経つだろう。俺も戦闘機パイロットとしてやって行けるのは、もう何年も無い。この後は、輸送機とか対潜哨戒機とか比較的体に負担が掛からない機種へ転換するか、地上で管理職となるか、空軍を除隊して民間のパイロットへ転職するか。最近そんな事を考えている時間が長い。こうしてパトロールの最中でも、そちらへ意識が飛んでしまう。だめだな俺は。やっぱり、潮時なんだろうな。

 この歳まで、幾つかの実戦も経験した。中東、東ヨーロッパ。西アジア。テレビニュースでお茶の間を騒がした紛争には殆ど関わった俺。でもこんなヘンテコな事件はもちろん経験が無い。ましてや魔法使いの兵器と空中戦なんて。最後まで生き残って、パイロットを引退したいと思う。俺の横を飛んでいるジョーズもそうだろう。ヤツは俺より経験年数が長い。あの年齢で戦闘機に乗っているのは凄いことだ。

「タリホー!イレブン・オクロック・ロウ!ツーボギーズ!」

 俺が妄想している意識を強制的に引き戻すコール。俺の後席に座っている《ニーン》グラハム・モントレー大尉。ファントムって便利だよな。二人乗りだがら、対空監視する目が四っつもある。俺はボーっとしていたが、ニーンがちゃんと対空監視していた。任務に支障はない。

 俺はニーンがコールした方角を見る。確かに二つの黒い影。二つとも煙を吐いている。例の黒い空中巡洋艦か?黒い影は寄り添うようにして併走していたが、突然散開した。

 こっちに気付いたようだ。

『ヴァルチャー!敵はこっちに気付いたようだ!ダイブして撃破するぞ!』

 ジョーズから指令が下った。

「了解!」

 二機のファントムは旋回降下して空中巡洋艦へ接近する。

『HQ。こちらバイパー・リーダー。ターゲット捕捉。敵艦船二隻!迎撃する!』

 俺は、眼下の敵艦から艦載機が飛翔するのが見えた。その数六機。

「ジョーズ、打ち合わせ通り、オレはハエ叩きだ」

『了解ヴァルチャー。俺は敵艦をやる。オーバー』

『こちらHQ。敵空中艦の予想進路から、コーディアル市へ向っている。既に、停電および携帯電話使用が出来ない影響が出ている。市内には病院、学校、消防、警察がある。絶対に市街地への到達を阻止しろ!ジジイどものペースメーカーが止まったら大変だ!』

『バイパー・リーダー了解』

 俺は降下から反転して大きくループする。俺の頭上に地面が広がる。高度を取って有利なポジションから攻撃を掛ける。ジョーズの赤い垂直尾翼が真っ直ぐ敵艦へ突っ込んで行くのが見えた。

 今日は魔法使いとの会敵を予想して必殺兵器を積んできた。GAU-4二〇ミリバルカンポッド。ミサイルに頼り過ぎて空中戦を忘れたなんて言わせないぜ。やっぱりガンで仕留めるのが確実だ。ただコイツは取り扱いが難しい。胴体センターの兵器ステーションに装備してるんだが、基本ぶら下がっているだけだから、ブレて命中率か良くない。空気抵抗がデカイ。G制限がある。とか欠点か多い。だが破壊力は抜群だ。ベニヤ戦闘機なんてイチコロだ。

 一機こちらへ突っ込んで来る。やる気か?エンゲージ。

 ケストレルの言うとおり、こいつら連携して戦う事をしないようだ。まるで指揮官が居ないみたいだな。ディアナさんの言うように、騎士が手柄を競っているから基本個人プレーみたいだ。

「十二時方向ヘッドオン!左側にすれ違うぞ!」

 目の前から黒い塊がすっ飛んで来る。すれ違いざま左に操縦幹を倒し、思いっきり引っ張る。インメルマルターン!キャノピー越しの景色がグルグル入れ替わる。一八〇度ターンを決め、敵を追う。リヒート点火。光学照準器に黒い点が飛び込んできた。敵機は左旋廻して逃げようとしている。俺も左旋廻、敵機を追いつつ、距離を詰める。黒い点はどんどん大きくなってくる。

「ニーン!チェック・シックス!」

 敵を追っている時も後方警戒は怠らない。空中戦の基本だ。俺は後席のニーンに後方警戒を促した。

「クリアー!我に追いつく敵機は無し!」

 敵は組織立った戦闘をしていないようだ。敵の援護が来ない。

 いいだろう、遠慮なくやらせて貰うぜ!

 ヒュゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 俺は敵機との距離を更に詰めようと、スロットル・レバーを全開にした。燃料流量計と排気温度計の針が跳ね上がる。照準器に捉えた敵機がサイドワインダーの射程距離に入る。レーダーが使えないから正確な距離が掴めないが、経験上、勘でわかる。

「距離を詰めて、ガン・アタックする。」

 兵装コントロールパネルをガン・モードに選択。照準器のレティクルが上下右左と躍りまくる。高速で動く物に対する射撃は難しい。敵機の進路を予想して、あらかじめ敵機とレティクルが重なるようファントムをコントロールする。その重なった一瞬を狙う。

「そのまま・・・・・・そのまま左へ行け・・・・・・ファイヤー!」

 ブモオオオオオ!

 機体に連続した振動が伝わる。一秒間で約一〇〇発の掃射。敵機が目の前で砕け散るのが見えた。

「ナイス!キル!」

 ニーンからのコール。すぐさま反転し、次の獲物を探す。眼下には敵空中巡洋艦から猛烈な対空砲火が飛んでいるのが見えた。



「さてと、倉庫で埃を被っていた四十年前の空対艦ミサイルをぶっ放してみようか!」

 バイパーワン、ジョーズ機の翼下パイロンには《ホワイトランス》空対艦ミサイルを二発装備していた。空中巡洋艦と会敵する事を予想して。

「エイヴォン!ホワイトランスの射程距離に入ったらぶっ放す。ミサイルのコントロールは頼んだぜ!」

「了解、ジョーズ。思い出すなぁ。敵の対空陣地へマーベリック抱えて突っ込んだ時の事を!猛烈な対空砲火だった・・・・・・」

「そうだな。さっさと終わらせて、家に帰ろう」

 俺は、二隻の敵艦のうち、先頭の一隻に狙いをつける。巨大な船体は目視の距離感を狂わせる。

「エイヴォン!ホワイトランスを発射するぞ!的がでかけりゃ、当てやすいだろう!」

「了解。いつでもいいぜ」

 ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 俺たちのファントム目掛け、対空砲火が炸裂した。機体のすぐ傍で、砲弾が爆ぜる。

「ヤツら、近接信管付き高射砲を持ってやがる」

 発射した砲弾が飛行機に接近したのを検知して砲弾が炸裂する。その炸裂した砲弾の破片で機体を破壊する。俺が戦場の空を飛ぶ時には、必ず飛んでくる歓迎の花火だ。

 俺は対空砲火の真っ只中、砲弾破裂の振動で機体を揺さぶられながら、ホワイトランスの発射態勢を取った。

「行くぜ!スリー!ツー!ワン!フォックスワン!」

 俺は引き金を引いた。機体右側から眩い光を放ちながらホワイトランスがすっ飛んでいた。

「後は任せろ!必ずぶち当ててやるぜ!」

 エイヴォンがミサイルのコントロールを始めた。ここからが男の根性の見せ所だ、目の前対空砲火を掻い潜り、ホワイトランスを追っかける。ミサイルとの相対角度が三五度以上ズレるとミサイルのコントロールが出来なくなるから、殆ど真っ直ぐミサイルを追っかける事になる。

 ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!バキイイ!

 嫌な音がしたと思った途端、俺のキャノピーが真っ白になった。砲弾の破片でヒビが入った。

「ガンバレ!植民地海軍ファントム!」

「命中までスリー!ツー!ワン!ビンゴ!」

 ミサイルは命中。俺は対空砲火を避ける為、機体を左反転させる。スティンガーを喰らわないよう、フレア弾を撒き散らしながら・・・・・・だが猛烈な砲撃は続いている。

 バン!

 また変な音がした。なんだ?

 リヤビュー・ミラーを見ると、後席のキャノピーに真っ赤な液体が飛び散っていた。エイヴォンがやれたか?

「おい!エイヴォン!やられたか?返事をしろ!エイヴォン!エイヴォン!」

 俺は相棒を呼び続けた。まさかとは思う、嫌な予感がした。ファントムは戦闘機だ。後席の人間が先に戦死する事だってある。

「大丈夫だ・・・・・・何とも無い」

「嘘付け!キャノピーに血が飛び散ってる!ショック状態で痛みを感じてないんだろう!」

 明らかにキャノピーには鮮血が大量に飛び散っていた。くそっ!これじゃ基地に戻るまでにエイヴォンは死んじまう。

「違う!違う!落ち着けジョーズ!・・・・・・保温ポットに入れてたミネストローネが砲弾の破片で破裂した。俺は怪我してない!大丈夫だ」

 なんだと・・・・・・。

「紛らわしいぞ!てめえ!しかもトマトの量、多すぎなんだよ!スープが真っ赤じゃねえか!」

「逆にポットが犠牲で、俺は負傷せずに済んだ・・・・・・それより敵艦の二次爆発は見えたか?」

 そういえば・・・・・・二次爆発が・・・・・・ない・・・・・・?



 オレはハンガー内にある愛機、ファントムの前席に座り、発進準備をする。既に後席にはマーリンが座り、発進準備をしている。オレは大きく嘆息した。

「落ち着く・・・・・・」

 今日のマーチン・ベイカーの射出座席は妙に座り心地よく、なぜか落ち着く。いままでこんな感じは無かったんだが。多分、結婚だの側室だのヘンテコな事で、女の子に追っかけられたのが、ストレスだったんだろう。少なくともこの場所には女の子は来ない。周りにいるのは整備班のオッサンばかりだ。その状況が妙に落ち着く。ヘルメットを被り、酸素マスクを付ける。

 愛機のジェットインテークに付いているスプリッター・ベーンに無尾翼機のシルエットマークが四つと船のシルエットマークが一つ描かれていた。撃墜(キル)マークだ。オレは撃墜マークを見て、心にズキンと感じる物があった。ここは戦場だと。

 VHF無線機のスイッチをオンにした時だった。

『HQ。こちらバイパー・リーダー。ターゲット捕捉。敵艦船二隻!迎撃する!』

『こちらHQ。敵空中艦の予想進路から、コーディアル市へ向っている。既に、停電及び携帯電話使用が 出来ない影響が出ている。市内には病院、学校、消防、警察がある。絶対に市街地への到達を阻止しろ!ジジイどものペースメーカーが止まったら大変だ!』

 不意にジョーズたちが戦闘状態に突入した事を知らせる無線が入った。

「マーリン・・・・・・ジョーズ達が戦闘状態に入ったようだ」

「ああ・・・・・・ヤバイんじゃねえか?・・・・・・運良く、オレ達のファントムにはホワイトランスの実弾を二発積んでいる・・・・・・」

「そうだな。しかも燃料は満載だ・・・・・・ヤルか?マーリン」

「いいぜ。ケストレル」

 オレ達はジョーズの援護に行く事を決意した。

「こちらバイパーセブン、ケストレル。HQ聞こえるか?我々はホワイトランス試射実験の為、発進準備中。実弾二発と燃料が満載。バイパーワンの支援が可能。指示を請う」

 オレは司令部にすぐに出撃可能である事を告げた。暫しの沈黙。

『バイパーセブン。出撃を許可する。緊急発進。だたちにバイパーワンの支援に向え!』

 指令部の許可出た。オレはすぐさま地上整備班にエンジンスタートの指示を出す。

 ジリリリリリリリリリリリリリリン!

 ハンガー内に緊急発進の警報が鳴った。エンジンの始動を終えたファントム。オレはスロットル・レバーを前に倒し、格納から、誘導路へ向け走らせる。

 滑走路の南端には離陸しようとしていたE2Cみたいなのがいた。垂直尾翼に女神のマーク。ミネルバだ。

 E‐2Cは調達数が少ないので、各機、個別のパーソナル・ネームが付けられている。その名前でもあやかりたいのか、皆、神様の名前が付けられている。《ウラヌス》とか《アイテール》とか。機体シリアルナンバー、4875《ミネルバ》もそのうちの一機だ。

 ミネルバにはE2C自慢のロートドームが無かった。見た目は《痩せたC‐2グレイハウンド輸送機》だ。ロートドームを背負っていた場所には機体軸に沿って板みたいなアンテナを装備している。フェイズド・アレイ・レーダーだろう。

「ミネルバの魔改造が終わったようだ。エミリー皇女が持ってきた魔道レーダーを装備したんだ。ボスコム空軍基地から来た整備班が二日徹夜で改修したらしい。今日、魔道レーダーの試運転って言ってた。あと、自衛用に空対空ミサイルを二発携行出来るようになったんだとよ」

 マーリンが教えてくれた。そうか、だから、キティと練成訓練させられたのか。これからミネルバと連携するから。それに、ミネルバに自衛用の空対空ミサイルを装備?手の込んだ改造だな。

「こちらケストレル。ミネルバ、イカロスへ。割り込んで済みませんが、先に行きます。スクランブル」

『了解。こちらイカロス。御武運を』

 E2Cの操縦席で手を振るパイロットが見えた。イカロスかな?オレも敬礼で返す。

「サンクス、イカロス」

『また、無茶な事するんじゃないわよ・・・・・・無事に帰って来てよ・・・・・・』

 カトリーヌの声だ。意外に心配症だな。あいつ。

「了解」

 オレは誘導路上でリヒートを点火させ、離陸を開始した。



 ピーピーピーピー

 黒いファントムは敵機の後ろに喰らい付き、ミサイルの発射ポジションに付いた。

「ヴァルチャー!六時方向敵機!ガン・アタックされるぞ!」

「了解!必殺技をお見舞いしてやるぜ!」

 俺はエア・ブレーキを展開し急激に速度を落とした。ファントムを六時方向の敵機に対して、ヤツの視界を奪う位置につける。逆に言うと敵機にとっては絶好の射撃ポジション。

「さあ、撃てよ。楽しませてくれよ」

 敵が機銃を撃つ瞬間のタイミングを計り・・・・・・。

「ニーン!横転降下させる!舌噛むなよ!」

 操縦幹を右に倒し横転降下。その瞬間六時方向の敵機は機銃を掃射。

 俺が機銃弾を回避した先には、俺が追っかけていた敵機がいる。

 ドン!

 同士討ちだ。撃たれた方は煙を吐いて落ちていった。

「マニューバーキルって知ってるか?」

 俺は既にもう一機、同士討ちした方の敵機を追う。既にサイドワインダーの発射ポジションにいる。

 ピーピーピーピー

 サイドワインダーが敵機を索敵しているトーンが聞こえる。敵を確実に追い詰めていく。

「もう止めろ!貴様らに勝ち目は無い・・・・・・」

 プーーーーーーーーーーーー。

 ロック・オン!照準器のレティクルが赤く光る。

「フォックスツー!」

 引き金を引いた。サイドワインダーが敵機へ向って飛翔して行く。

 命中。

 敵機の左翼をぶっ飛ばした。錐揉みして落ちて行く。

「一方的だぞ。ヴァルチャー。これは・・・・・・殺戮だ」

「ああ、その通りだ。ニーン。ただ、ヤルなら徹底的にやらないとな・・・・・・力の差を見せ付ければ、ヤツらはもうこっちの世界に来ないだろうよ」

 そうだ。徹底的にやってやる。なんと言われてもかまわねえ。

「残りは?何処だ」

 俺は敵機を探す・・・・・・いた!・・・・・・敵艦上空を旋廻しているジョーズ機に向って飛んで行く。

 気になるのは、敵艦が二隻健在だ。ジョーズのヤツ、しくじったか?

「タリホー!ボギーイレブンオクロック!」

 ニーンのコール。操縦幹を握る手に力が入る。

「ジョーズをやらせてたまるか!」

 リヒートを点火して敵機を追った。

 


「二次爆発が無いぞ、敵艦は健在。エイヴォン、外したのか?」

「バカこけ!外す訳無いだろう!あんなデカイターゲット」

 敵空中戦艦は健在だった。エイヴォンはキャノピーにこびり付いた、ミネストローネをフライトジャケットの袖口で拭っていた。

 俺はハッと気付いた。エイヴォンに尋ねる。

「あの船、木造だったよな」

「ああ」

「ホワイトランスの飛翔速度は?」

「マッハ一・八・・・・・・ミサイルが爆発する前に貫通したか・・・・・・」

「そのようだな」

 元々、鋼鉄の巡洋艦に打ち込むことを想定したミサイルだから、木造建築に対しては威力がありすぎる。

「どうする?エイヴォン。木造船に対応できる空対艦ミサイルなんて無いぜ!」

「ジョーズ、相手は蒸気船だ。蒸気を焚く釜を持っているんだぜ。冷静に考えろ」

 そうか・・・・・・簡単な答えだった。

「ボイラーを狙おう。煙吐いている煙突の下」

 ボイラーは鋼鉄で出来ているハズ。ミサイル打ち込めばイチコロだろう。

「じゃあ、行いくか・・・・・・対空砲火の雨の中へ。今度こそやられるかもな・・・・・・」

 エイヴォンは覚悟を決めたようだ。

「当たらなければ、どうってことねえ!さっさと終わらして、家に帰ろう」

 俺は再び空中戦艦へ攻撃する為、一度距離を取る。加速して一気に突撃する。

 リヒート・・・・・・じゃなかったな、植民地海軍ファントムはアフターバーナーか・・・・・・そのバーナーを点火して、一気に敵艦から離れた。

『こちらミネルバ、ジョーズ殿、聞こえますか?貴機の攻撃目標はパラス家攻撃型空中巡洋艦キャンベラです。この艦は対空装備が不十分です。高速で接近すれば、攻撃可能です。ただ、魔法防御シールドを持っています。が、そのミサイルは防御シールドを突破する威力が有るようですね。安心して下さい。シールド魔法を詠唱している魔導戦士官はレベルが低い輩です。何とかなりますわ』

 おっ、ミネルバの到着か。この声はディアナさんだな。ミネルバは魔道レーダーとやらを積んだようだな。

 ディアナさんは敵艦には魔法防御シールドがあるって言ってたな。シールドでホワイトランスの威力を少しでも相殺してくれれば。敵艦にとって致命弾になっていただろうな。役に立たない魔法シールドめ。

 オレは植民地海軍ファントムを大きく右旋回させ、敵空中巡洋艦を真正面に捕らえた。

「こちらバイパーワン。敵空中巡洋艦キャンベラへ突撃を開始する。オーバー」

 俺はスロットル・レバーを全開にした。アフターバーナー点火!

『こちら、ミネルバ。マジック・カウンター・メジャーを展開します』

 ほう、ECM《エレクトリック・カウンター・メジャー(電気的攻撃)》の魔法版かな・・・・・・・ミネルバはいい仕事するな。キティ、助かるよ。

 ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 対空砲火が飛んでくるが、さっき程じゃない。ミネルバのお陰か。

「エイヴォン!ホワイトランス発射用意・・・・・・」

 兵装選択パネルを対地/対艦攻撃に選択。

「了解!いつでもいいぜ!」

『ジョーズ!こちらキティ。六時方向敵機二機。追撃を受けます。回避を!』

 俺はミラーを確認した。後方に黒小さない影が二機見える。

「ネガティブ!オレ達はミサイル発射コースに入っている。大丈夫だ。こっちの方が速い」

 光学照準器に敵艦を捕らえている。植民地海軍のファントムはエンジンの違いから、王室空軍のファントムより最高速度が勝る。マッハ2・4は出る。

「エイヴォン!腹くくれよ!」

「こきやがれ!お前もちゃんと飛ばせよ!」

 ジョーズ機は真っ直ぐ敵艦へ向って突っ込んで行く。左翼下に吊り下げたホワイトランスをぶち込む為に。敵機がジョーズ機へ追い縋ろうとしている。

『ジョーズ!敵機は俺に任せろ!そのまま突っ込め』

 ミラーを見ると敵機が砕けてバラバラになるのが見えた。多分ヴァルチャーが二〇ミリバルカンで仕留めたんだろう。さすがの威力だ。もう一機は回避して逃げたようだ。

「エイヴォン!ミサイル発射・・・・・・スリー!ツー!ワン!フォックスワン!」

 引き金を引くと同時に左翼パイロンからホワイトランスが景気良く飛び出して行く。ロケット・モーターの噴射光が眩しくて直視出来ない。オレ達はミサイルを追っかけながら、敵艦へ飛翔して行く。

 ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 対空砲火の振動が機体を揺さぶる。その数は少ない。

「よし!そのまま真っ直ぐだ!煙突の下のボイラー!」

 ホワイトランスはその名の通り、マッハ一・八の白い槍となって、敵巡洋艦キャンベラに向っていった。敵艦には音より早く飛んでくるミサイルを迎撃する手段が無かった。

 ドゴオオオオオオオオオ!

 大音響と共に真っ黒い煙が舞い上がった。

 俺は照準器越しにキャンベラが真っ黒い煙を舞い上げながら、真っ二つに折れる所を見た。確実に仕留めた!

「ビンゴ!」

 エイヴォンのコールを聞きながら、オレは操縦幹を引き急上昇して回避する。

 もう一隻いる・・・・・・俺の機体は対地ミサイルを撃ちつくして、丸腰だ。

 僚艦の轟沈を見て、逃げるか・・・・・・逃げてくれ。どの道、お前たち魔法使いたちに勝ち目は無い。この世界で戦うのなら、絶対に勝てない。戦争じゃなくて、外交努力で問題解決しろよ・・・・・・俺は願った。

『こちらキティ、敵対空防御空中巡洋艦コリングウッドは方向を転換し真っ直ぐコーディアル市へ向っています』

「くっそう!あいつらまだヤル気か!」

「どうする?ジョーズこっちは丸腰だぞ!」

『こちらケストレル。敵空中巡洋艦をビジュアル・コンタクト。こちらは対艦ミサイルを装備している。指示を請う』

 畜生・・・・・・ルーキー。いいタイミングで来るよな。なんか主役みたいじゃん。

「こちらジョーズ。ケストレル、敵艦へアタック。撃沈しろ。ミネルバ誘導を頼む」

『ケストレル了解』

『キティ了解』

「こちらエイヴォン。マーリン!狙う先は敵艦ボイラーだ。煙突の下。一発KO出来る。オーバー」

『マーリン了解』

「エイヴォン、俺たちは高みの見物と洒落込むとするか?」

「すまん・・・・・・ジョーズ・・・・・・左足を被弾したようだ、今度は本当だ・・・・・・血が止まらん・・・・・」

「クソッ!マジか?こちらジョーズ、エイヴォンがやられた。このままリントンへ戻るぜ!」

 ジョーズの通信は悲鳴に近かった。



「ようし!マーリン、とんだ試射実験となったが、敵艦を仕留めるぞ!」

「いいぜ!さっさと終わらして帰ろう。今日中に見たいDVDがあるんだ」

『こちらアリシアです。ケストレル殿。敵艦は敵対空防御空中巡洋艦コリングウッドは対空防御を装備した空中巡洋艦です。マジック・カウンター・メジャーを使いますが、貴方の世界からもたらされた対空兵器を多数搭載しているようです。ご注意願います。リンガー殿の情報です』

 聞きたくない忠告だよ、アリシア・・・・・・ところで何処のどいつだ、武器を流してるヤツは・・・・・・魔法世界のミリタリーバランスが崩れるだろう。あっちには高性能な兵器はまだ無いんだから。

『こちらキティ。敵艦載機の最後の一機をヴァルチャーが撃墜しました。航空戦力の脅威はなくなりました』

 オレはファントムを旋廻させ、敵空中巡洋艦コリングウッドに向う。

「やるぜ、マーリン。マスターアームオン。ホワイトランス発射準備完了だ」

「了解。こっちは準備完了だ」

『こちらキティ。ケストレルはレーダーが使えないので、こちらで敵とケストレルを測距します・・・・・・このまま直進よろしい?』

 キティの誘導に従う。やっぱりレーダーが使えるのは強力な武器だ。光学照準器オプティカル・サイト・ユニットには敵艦を捕らえている。

「準備OKだ」

 ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 対空砲火が飛んで来た。猛烈に撃たれている。砲弾が破裂する振動がビリビリ伝わる。

『気をつけろ!ケストレル。ヤツらは近接信管を使っている』

 わかってるよヴァルチャー。オレのすぐ横で砲弾が破裂してらあ。当たったらお陀仏だぜ。

『こちらキティ、ケストレル、発射カウント。ミサイル発射三秒前、二、一・・・・・・』

「フォックスワン!」

 トリガーを引く。一発発射。当たればイチコロだせ。

「マーリン!ミサイルを追う!コントロール頼む!」

「了解!任せろ!」

 スロットル・レバー全開。全速でミサイルを追う。対空砲の猛烈な砲撃が来る。

 ゴバアアアアアアア!

 突然変な音が聞こえ、機体に変な振動が発生した。なんだ?

 ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!

 突然コクピットに警報が鳴り響いた。警報ランプが真っ赤になっている。

 やられた・・・・・・。

「左エンジン停止!自動消火装置作動!くっそう砲弾を喰らいやがったか?」

 リヤビュー・ミラーで機体を確認した。幸い火は出ていない。

「ケストレル!後三秒持ちこたえろ!何とか飛ばせ!ミサイルを当ててやる!」

「わかってる!何とかしてやる!」

 右エンジンは生きている。右エンジンをリヒート全開で飛ぶ。速度がだんだん落ちて来て、音速を割り込んだ。このままじゃ対空砲の餌食だ。

 長い三秒だ。早く当たれ!

 バッキイ!

 突然目の前が真っ白になった。砲弾の破片が前面キャノピーに当たったか?ヒビが入り真っ白になったのと同時に光学照準器が無くなった。強化ガラスが破砕して、オレはガラスの破片をしこたま被った。痛ってえ、どっか怪我したかな?

『命中まで、三、二、一・・・・・・ビンゴ!』

 ドゴオオオオオオオオオ!

 前が見えないオレのファントム。キティのカウント“一”の合図で急上昇。敵艦に激突するのを避けた。片肺飛行だから上昇が鈍い。

『こちらアリシア。命中です。コリングウッドは急激に高度を落としています。轟沈のようです』

「マーリン無事か?」

「オレは無事だ・・・・・・ケストレルは?」

「大丈夫だ。片発飛行だが、操縦系統に異常は無い」

「HQ。こちらケストレル。ミッション完了。RTB(リターントゥベース)

『HQ、了解』

 何とかなったな・・・・・・また死にそうになったけど。

『こちらキティ。ケストレル、怪我は無い?大丈夫?』

「健在だ。オレもマーリンも」

『こちらアリシア。ケストレル様。無事でよかったです』

「心配してくれてありがとう・・・・・・」

「ケストレル、モテモテじゃねえか?いつの間に仲良くなったんだ?」

 


 基地に戻って、オレは愛機を見て驚いた。砲弾の破片が左エンジン・ベイに突き刺さっている。左エンジンは完全にお釈迦だ。一番驚いたのはフロントキャノピーに特大の破片が突き刺さっていて、コクピット側に貫通していた。この破片が光学照準器を破砕していたのだ。もし破片が貫通していたら、オレは首がもげていただろう。ジョーズの機体も同じようなものだった。

 戦闘機の損耗は空対空戦闘よりも対地、対艦攻撃のほうが多いというが、まさにそれを証明した。当然ヴァルチャー機は無傷だ。

 オレは死ぬ寸前だった事に対し、あまり実感がない。実戦を経験したお陰で、不感症になったか?

 エイヴォンは病院に運ばれた。何とか命は助かったようだ。それぐらいの怪我だった。だが歩けるようになるまでつらいリハビリが1年以上続くらしい。もう戦闘機には乗れないだろう。戦争は惨い。人の人生を簡単に変えてしまう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ