第1話 魔法界の皇女、人間界へ
この物語りはフィクションです。
登場する人物、団体、メーカーには一切関係ありません。
また登場する兵器は創作物が多数あります。現実とは異なる部分があります。
「艦長!敵艦に捕捉されました。真直ぐ此方に向かって来ます」
観測員がキャプテン・シートに座る少女に向かって、大声を張り上げた。
「取り舵三〇度!カラベル山脈を盾に隠れて!」
「とーりかーじ!」
操舵員が舵を大きく左に切った。船はギシギシと音を立て左に傾いた。
船は海原を疾走する物・・・・・・・・ではなかった。
この世界の船は大空を飛ぶ乗り物だった。船体は白く美しい。煙突から煙を吐いている。
白い船体は蒼い空を疾走している。大空が、大海原のように。
「まもなく、異空間転移魔法発動エリアです」
副長らしき女性が艦長へ進言する。
「そうね。なんとしてもパラス家の空中巡洋艦を振り切って、人間界のマリア女王へ魔法対抗策を届けないと」
「はい。敵対するパラス家が人間界へ侵略を開始したら、魔法が使えない人間は我ら魔法使いになぶり殺しにされます」
少女は艦長と呼ばれていた。歳の頃は十七、八。幼さの中に凛々しさが感じられる。彼女は立ち上がり、拳を握る。
「パラス家の野望は私たちが食い止めないと。人間界が魔法によって蹂躙されてしまう」
少女の顔に悲壮な決断が浮かぶ。
少女は手に艦内マイクを握り、演説を始めた。
「わが母なるブランバンド王国の皇女、エミリー・ブランバンドです。我々は八百年間守られて来た禁断の魔法を使い、これより異世界の人間界へ行きます。魔法使いと人間が袂を別けて以来、人間界へ行くのは禁為でした。その禁為を破ります。生きて帰って来られないかも知れません。でも、パラス家の人間界侵攻と言う蛮行を許すわけには行きません。人間は魔法を使えない稚拙で脆く弱い存在です。我々の持つ空中巡洋艦や飛行機械のような強力な武器も持っていません。パラス家の一方的な蹂躙で罪もない弱い人々が多数殺されるかも知れません。私たち高貴な魔法使いが人間を救うのです!これは聖戦です!」
「おおおお!」
艦内から雄叫びが上がった。皆、士気は高い。
「みんな……ありがとう。では行きます!人間界へ!」
艦長のエミリーが右手を進行方向へ掲げる。
「魔道戦士官へ異空間転移魔法発動!」
艦の前に真っ黒い雲が現れた。少女達の艦はその雲に向かって突き進んだ。