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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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『改善 ― 答えの音は、消えなかった』

作者: ブラック・まなパ
掲載日:2026/07/15

ある「改善」が決まった。


理由は理解できた。


だから従った。


──それでも、どうしても数えてしまったものがある。


これは、私が現場で感じた違和感から生まれた物語です。


「業務改善です。」


そう説明された。


台車たちの車輪は、四つとも違う音で軋む。


前輪が甲高く、後輪が低く。


誰も油を差さない。


窓の外で、蝉が鳴き始めていた。


朝の七時は、もう鳴いている。


だから私は歩いた。


台車たちを倉庫へ運ぶ。


戻る。


患者の準備をする。


また倉庫へ行く。


また戻る。


蛍光灯の下で、影は二つに割れる。


右の影が先に曲がり、左の影が追いつく。


角を曲がるたび、それだけが変わる。


一日で何往復しただろう。


誰も数えない。


「改善だから。」


その一言で終わる。


翌日も歩く。


翌週も歩く。


翌月も歩く。


蝉の声は、いつからか止まなくなった。


夜になっても、どこかで鳴いている気がした。


靴底がすり減る場所は、いつも同じだった。


右足の外側。


そこだけが薄くなっていく。


私は、一度だけ数えてみた。


台車たちを押して歩く距離。


倉庫まで。


戻って。


また倉庫まで。


また戻る。


一日、およそ百二十メートルもあった。


日曜日を除くと、一年で三百と……十三日。


120m × 313日 = 37,560 m


メモ帳に書いた。


人の歩く速度は、時速五キロ。


──その頁を閉じた。


誰も聞かなかった。


私も言わなかった。


歩くことが嫌なのではない。


意味のない一歩が嫌なのだ。


台車の取っ手には、私の手の形が残っている気がした。


実際には何も残っていない。


ただ、握る場所はいつも同じだった。


私は言った。


「この業務、本当に必要でしょうか。」


返事は一つだった。


「決まりだから。」

「方針だから。」

「みんな納得しています。」


その瞬間、

蛍光灯が一度、わずかに瞬いた。


誰も顔を上げなかった。


蝉の声が、少しだけ大きくなった気がした。


私も、そのまま頷いた。


会議が終わって、

私はメモ帳のその頁を破った。


紙だけが、

軽い音を立てた。


答えは、

消えなかった。


汗が背中を伝う感触だけが、やけに鮮明だった。


それ以外は、何も感じなかった。


私は今日も台車を押す。


昨日決められた場所へ。


今日も。


車輪が軋む。


前輪が甲高く、

後輪が低い。


私は、その音だけで角を曲がれるようになっていた。


ある朝。


音が、一つ増えていた。


蝉の声にまぎれて、

最初は誰も気づかなかった。


車輪は、

前輪が甲高く、

後輪が低い。


その音だけは、

昨日と同じだった。


 (了)


この物語に登場する『改善』が正しかったのか、間違っていたのか。


私は答えを持っていません。


けれど、一つだけ確かなことがあります。


人は数字を消せても、

紙を破っても、

音だけは、ときどき心の中に残り続けます。


もし、この物語を読み終えたあと、

あなたにも何か一つ、

思い当たる「音」が残っていたなら、

この物語を書いた意味はあったのだと思います。


最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
 改善は改善が目的だから改善はされているのです!(笑)  残念な現場あるあるですね……。  組織全体としてその作業に意味はあるのかもしれないけど、コストがかかっているなら報告はした方がイイのでは? …
改善という名の改悪はきっと多くて 一部の納得を当然の様に呑み込まされる 目的があった筈のそれも 夢であった筈のそれも 何時しか夢幻の様に薄く 薄く 透き通るくらいに薄くなった「ゆめみるみらい」は 一体…
業務改善で決まった作業がモヤモヤすることなんでしょうか…… 一生懸命仕事をして、色々考えている人ほど、悩んだり苦しむことは多いような気はします。もしこれからもその作業が続くなら、その120mも歩く間…
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