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第二話

 尻を思いきり叩かれるという、原始的でとてつもなく暴力的な罰を受け、俺は二日間寝込んでいた。最初に意識を取り戻したときは、腰が火で炙られているのかと思うほど暑くて痛かった。そのあとも痛みで意識を何度か失って、眠りながら延々とうなされていたらしい。


 目を覚ましてからも地獄だった。腰を床につけても腹ばいになっても、どんな角度にしても絶対に腰の痛みはおさまらず、寝る場所に布団のようなものもなかったので、固い木の床の上で苦しみ続けていた。


 俺をリュウホウと名付けてくれたルーズはよく面倒を見てくれた。そもそも俺が寝ている場所もルーズの家だったし、食事も出してくれたし、下に敷くものが欲しいと言ったら衣類を何着か貸してくれた。

 こんなことになる前に役人たちに弁明して、罰を受けさせないようにしてほしいと思ったが、この国は法律が厳しいようで、あまり口答えせず罰を受けたほうが上手くいくらしい。


 罰を受けてから三日目になると、少しは立ち上がって歩き回れるようになった。ルーズは痛みがまぎれるようにと、村を案内してくれた。この村はハインズという村で、近くには俺が落ちた大きな湖があり、周りの土地も湿地などが多く水気が多い所らしい。

 村は大きな木の柵で円形に覆われていて、千軒ほどの家が入っている。ルーズはその中の100軒ほどの地区長で、それなりの地位にいるらしかった。


 気絶した俺を運んでくれた二人とも仲良くなった。二人は役所からの偽物判定を気にせず転生者として扱ってくれた。ロンは役人の息子だが座って何かをするよりも、外で遊びまわる方が好きなようだった。エスタヴォは隣の区長の息子で、本が好きらしい。この世界では本が貴重らしく、そもそも本を読めること自体が珍しいらしかった。


 起き上がれるようになってからは、こっそり自分にチート能力がないか棒を振ってみたり魔法を想像して唱えてみた。しかしいっさい何も起きず、自分に能力が備わっているのか少し不安を感じ始めた。


 チート能力が見つからないで落ち込んでいる俺を、転生者として認められなかったから落ち込んでいると二人は思ったようで、もしかしたら転生の証拠が見つかるかも、ということで湖に行くことになった。



 湖のほとりに着いたとき、俺はすでに疲労困憊だった。二人の口ぶりからすぐ近くだと思っていたが、2時間以上歩かされた。それに二人の歩く速度がかなり早い。腰が万全でも、息が上がらなかったかはかなり怪しい。


 湖の周囲は背の高い草が生い茂っており、その根元では見たことのない色や形をした鳥たちが浮かんでいた。さらによく足元の周りを見ると、丸々とした小さなカエルのような生き物がいた。ぷっくりとした体でぽてぽてと歩く姿がとても愛らしい。

 よく見ようとかがんで観察していると目が合った。すると短い手で自分の目を覆って照れているような格好になった。


 「かわいい!」


思わず大声を出してしまったが、カエルは逃げることなく恥ずかし?がっている。


「ハジガエルだな、やっぱり初めて見るのか?」とロンが教えてくれた。


「なんで恥ずかしがってるんだ?」


エスタヴォが不思議そうに「わからないです。みんなそういう生き物だと思っていますね。珍しいですか?」と答えた。どうやら顔を隠す生き物でも昔からいれば不思議に思わないらしい。


 ハジガエルのプニプニした体を指でつついたりして遊んでいると、突然強い風が吹き抜けていった。


 驚いて頭上を見上げると、一匹の赤い龍がすれすれの高さで通り抜けていくところだった。龍は軽く旋回してから俺たちから少し離れたところに降り立っていく。赤い龍は姿は違えど、青い龍と同じくらい大きかった。龍の背中には男が一人乗っているのが見えた。


「「「あの人に聞けば何かわかる!」」」


 三人で声を揃えて顔を見合わせ、一目散に龍のいるところまで走っていった。どうやら龍に水を飲ませるためにこの湖に降りたようで、うまそうに水を飲む龍を乗り手の男は嬉しそうに眺めていた。


 俺たちが近づくと、男の方も気が付いたようでこちらを見つめている。俺は手を振りながら近づいていくが、ロンとエスタヴォはなぜか足が止まっていた。


「どうしたんだ?」


と尋ねるとロンは少し震えていた。


「な、なんか怖くて近寄りたくねえ。リュウホウは感じねえのか…?」


 何か感じるかと聞かれれば、特に何も感じなかった。まあ、手がかりを得るためとは言え、初対面の龍にいきなり近づいていくのは危険なのか…?

 だが湖に落とされた時の青い龍も龍自体は穏やかだったし、目の前にいる赤いドラゴンもこちらに気づいているが特に威嚇はしていない。さっさと情報が欲しかったので俺は一人で行くことにした。


「じゃあ俺一人で行くから、二人は待っといてくれ。」


 後ろの二人は心底安堵した表情で頷いている。よほど恐怖を感じていたらしい。


 俺は龍と乗り手の様子を少しは警戒しながら歩いて行ったが、特に一匹と一人は態度を変えることなく俺を見つめるだけだった。


 乗り手の男と3メートルほどの距離まで近づいて見たが、あちらは無言だった。男は燃えるような赤髪で、軽装だが軍人らしい雰囲気があった。


「あ、あのー、お尋ねしたいことがあるんですが…」


「お前、ゼノが恐ろしくないのか?」


 男からの唐突な問いに俺は頭を悩ませる。

 ゼノ?多分赤い龍のことだよな。


「初めて会うので少し怖いですが、威嚇もしないとても良い子のようであまり怖くありません」


 俺の答えを聞いて、男は大笑いし始めた。


「はっはっは、そんな回答は初めて聞いたよ。君は何者だ?」


「実は、4日ほど前にこの世界に来たばかりでして。青い龍と白い鷹がこの湖に私を運んでくれたんです。」


騎手の男は納得しながらうなずく。よく見ると、男の目の片方は不思議な模様をしていた。赤い目の中に五芒星のような文様があるようだった。


「なるほど、この世界で生まれたものではないのか。ならばこのゼノのドラゴンフィアの影響を受けないのかもしれないな」


乗り手の男はなぜか少し嬉しそうだった。ゼノと呼ばれる龍は少し不思議そうに頭を傾けている。


「私はコウネリウス。ゼノの運動に付き合ってここまで来たんだ。良ければ君の名を聞いてもいいかな」


「私はリュウホウです。と言っても、この世界に来て名付けていただいたものですが。」


コウネリウスという男はなぜかやはり嬉しそうに笑っている。


「ふふ、ゼノを恐れぬ人間には初めて出会ったのだ。良ければ一緒に乗ってみるか?」


龍に乗る!?突拍子もない提案でかなり怖かったが、親切心から言ってくれていそうだったので断りにくく、


「良いのですか?あなたの龍の負担にならなければ乗ってみたいですが…」


「もちろん大丈夫だ!よし、ゼノ、少し飛ぶぞ!」


コウネリウスは大喜びでゼノの背中をたたいた。ゼノと呼ばれる赤い龍は不思議そうにコウネリウスを見つめている。どのくらいコウネリウスの言葉は通じているんだ?


俺はあっという間にゼノの背中に乗せられ、コウネリウスが俺の前に飛び乗ってきた。


「いけ!」


 コウネリウスがゼノの背中を叩くと、一つ羽ばたいただけでとんでもない加速をして空へ飛んで行った。風が体中に吹き付けてきて吹き飛ばされそうになるがコウネリウスは嬉しそうで


「ははは、もっと飛ばせ、ゼノ!」


 楽しそうに加速の指示を出していた。早送りのように変わっていく地上の景色を視界の端に映しながら、俺は必死にゼノの背中にしがみついていた。


「君は転生者は世界を統べると言われていることを知っているか?」


暴風の中で切れぎれに、前からコウネリウスの声が風と共に流れてくる。


「はい!」


風に負けないように短く叫ぶが、口を開くと空気が押し込まれてきて呼吸すら困難になる。


「俺も死皇帝の支配を破壊して祖国を復興させたいを思っているんだ」


「私は!世界を支配しようとは思っていません!」


「そうなのか?だが、もし君がこの世界の支配に抗いたいと言うのなら、共に戦おう。きっと我が叔父上も力になってくれる」


世界転覆を誘われてしまった。断って空から突き落とされるのは嫌なので、なんと答えようか考えるが


「ふふ、こんなに気持ちのいい空は初めてだ。ゼノを恐れず、さらに新たな世界の支配者になるかも知れない人に会えるなんて」



 解放されたときには俺の全身の筋肉は硬直していたが、コウネリウスは気づく様子もなく、


「初めて人を乗せたが、いいものだな!叔父上すらゼノに乗ろうとは言わんのだ」


と笑顔を見せてくる。国家転覆なんて普段はできない話をしたからか、すっきりしていそうだった。


「何か困ったことがあれば何でも頼ってくれ。私はカイケルという町に住んでいる。少し遠いが連絡をもらえばすぐに向かう」


コウネリウスの提案に俺はまだ聞きたいことが色々あったが、長時間の飛行でまともにしゃべる気が起きず


「ありがとうございます。またいつかこのお礼は…」と言いかけ、そもそもこの男に声をかけた理由を思い出す。


「転生者としての証拠を探しに来たのですが、何かないでしょうか?」


「私も詳しくは知らないが、ドラゴンフィアが何よりの証拠だ。自信をもって言えばいい。」


「そ、そうなのですか?もっと証拠となるような物があればよかったのですが」


不安を感じる俺をよそにコウネリウスは笑って


「疑う者がいれば私を呼べ。すぐにゼノと一緒に駆けつける」


解決方法がだいぶ力任せだ。まあ、もともと転生者として認められることは諦め気味だったし、ドラゴンフィアが効かないという話が出ただけでもよしとするか。証言者はまた、あの二人になってしまって信憑性は低いかもしれないけど。


「そろそろ戻らねば皆が騒ぐころかもしれん。それでは、またな!」


 全く疲労を感じさせない声で、コウネリウスはゼノとともに飛び去って行った。振り回され続け、ほとんど何も知ることはできなかったが、不思議と胸の奥には、コウネリウスの善意と、空を飛んだ感覚だけが静かに残っていた。




更新は火曜、木曜、日曜を予定しています。

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