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第五話 止水クロニクル

「まだ気づかないの!?やれやれ」

こいつがやっぱやれやれってするとクソ腹立つんですけど。


「もう参った、早く教えてください」

「あそこは時間の進みが遅くなる空間。私があそこを選んだのは必然であって偶然、たまたま学校に近い距離にあの家が位置していたのと、君が今日ロッカーを見て、裏門からではなく正門から帰って私と歩き始めるまでの全ての事象が絡み合った結果こうなっているというだけの話」

急に口調がシリアスになった。


「は?なんだそれ」

「じゃあこれからよろしくね!私門限あるからもう帰る!バイバーイ」

そう言ってコトリは全速ダッシュで帰っていった。


その一軒家に取り残された俺は、駅に向かって歩き始めた。駅に着くまでの時間、ずっと今日あった出来事を疑っていた。

(俺が見ていたあの空間は何だ。俺たちが普段入っていないからといって、コトリが言っていたように意識を遠くするってなんだ。あーもうわけわかんねえ!)


もうこれ以上考えるのはやめた。だって頭がおかしくなるのだから。こんなんだったらもういっそのことコトリから説明されたほうがマシだ。

そうして次の日。コトリは学校に来ていた。俺はコトリが隣の時点で俺の思い描いた青春劇はもうないと悟り、授業を真面目に聞こうと思った。しかしコトリが気になりすぎて授業に集中できない。恋愛的な意味じゃなくて、視覚的な意味で。


まあ入ってきた時から何度も感じていたが、こいつは本当に自由人だ。授業中にワイヤレスイヤホンだったらまだわかる。しかし彼女は、スマホを机の中に忍ばせ、イヤホンコードを衣服の中に潜り込ませて襟元まで通していた。そして決定打となるのは、トレードマークのポニーテールを封印し、流れるような髪で全てを覆い隠すという完璧な演出。

俺はもう呆れていた。一体こういう奴がどんな音楽を聴いているのか知りたい。そしてこいつは読書が好きなんだろう。だって小学生がやるような、教科書を机に立ててその影で本を読んでいるのだから。


そうしてこの日の授業が終わった。もうこの際話しかけてもらわないほうが楽だ。そうして俺は下駄箱へ向かってローファーを履いた。しかしなんかモゾモゾする。なんかカサカサしている、何かが。

(ん?なんだ葉っぱか?)

しかし靴の中を見ると、そこには昨日と同じピンク色のメモがあった。それには

今日放課後昨日と同じ場所で待ってる−−小鳥遊コトリ


またこいつかよ。まあでも正直、昨日の続きが気になってたし、いっか。今日は何をするんだ全く。

そうして俺は昨日と同じ、校舎裏へつくと

「相変わらずおっそいわね!」

いやこいつは本当にどこからどうやってこんなに早く着いているのか知りたい。

「お前が早すぎるんだ。で、今日は何をするんだ」

「今日は私のイチ押しスポットに連れて行くわ!」

なんだ夜景と海が望めるデートスポットにも連れてってくれるのか?


俺は昨日と同じところをコトリに掴まれて裏門から出た。裏門の方は虫が多いから通りたくないんだよ。それに裏門自体も錆びていて、土とか虫とかがいっぱい付いている。

そうして少しデートスポットを期待しながら、俺はコトリに連れられて昨日とは別の方向に連れて行かれた。


「ここよ!」

そう言ってコトリが自慢げに指をさした先にはデートスポットはおろか子供の遊べる遊具もない、かといってボール遊びができるほどのスペースもない。よくある、なんで存在しているのかわからない公園であった。


「おいここの公園で何が起きるんだよ」

「まあ見てなさいって」

コトリのすぐ下には止水栓があった。そして蓋を開けバルブに手をかけた。

「おいまさかお前、それひねるなよ絶対に」

コトリは俺の注意は聞かずにバルブを左回りに締めた。なんだ閉めるだけか。そう思ったのも束の間、コトリはその止水栓から繋がっているであろう水飲み場に走り、水飲み用の棒状の蛇口を捻った。だがさっき止水栓のバルブを閉めたから水が出るはずはない。そう思っていると


ブシャーッ

出るはずのない水が出た。どういうことだ。もしかして壊れているのか?

「お前さっき止水栓をちゃんと閉めなかったのか?」

「いいえ閉めたわ!」

「じゃあ栓に隙間があるのか?」

「いいえ!栓はちゃんとしまっているわ!隙間は一切ない、だって私が何回も業者に確認させたんだもの!」


「じゃあどうして水が出るんだよ」

「それはこの街のどこかで必ずバグが起こっているからよ!」

「理由になってないし、なんでこれが一番お気に入りなんだ?昨日の家の方が俺は驚いたぞ」

「あーゆー建物はこの街にいっぱいあるのよ!だって私たちが勝手に入ることを想定していないから。でもこういった公共設備は、私たちが使う可能性があるでしょ?」

「ここは私が今まで確認したこの街の全ての公園の中で、唯一バグが存在する公園なのよ!」


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