第二話 同情クロニクル
その後俺は、担任に廊下に呼び出されて軽いご指導をいただいた後、また教室に戻った。
入学式開始まであと20分か。
俺はそう思いながら、学校生活が終了したこと、あのまま男子校に進んでおけばよかったことを後悔して突っ伏して寝るふりをしていた。すると
トンッ
一斉に20人ほどの右手が俺の頭、肩、そして背中に置かれた。俺が顔を上げると、クラスの男子全員が俺の机を囲んでいた。やばいこの感じはさっき俺の密告で恨みを買い、いじめになるパターンだ。そう俺が覚悟していると、坊主の奴が
「鈴木、お前には同情するぜ」
そうやって全員が俺に同情の目を向けてきた。そして
「ちょっと廊下来てくれ。ほら」
その坊主のやつは俺の隣の密告者の方に目を向けた。あーこいつに聞かれちゃまずい話なのか?そう考えながら俺は、男二十人に囲まれながら廊下へ出た。
「でなんだなんだー?こんな大袈裟に」
「あれは見てもしょうがないレベルだ。俺たちの代わりに藁人形になってくれてありがとな!」
そうやって坊主は俺に握手を求めてきて俺はそれに応じた。
「俺もだ」
メガネをかけているが、どこかやんちゃそうな雰囲気のやつが俺に言ってきた。そいつらに続いて全員が俺に握手を求めてきた。
違う違うちがーう!俺が仲良くなりたいのは男子じゃなくて女子なんだ!こんなことなら男子校でできたはずだろ。
「なあみんな、俺さっき彼女の発言で女子からの印象はどうなった?」
そういうとみんなが一斉に喋り出して、まとまった答えは聞けなかったが、断片的に聞こえてくるのは、「最悪だよ」とか「元気出せよ」とか、とりあえずプラスの感じの答えは返ってこなかった。
「なあ、俺みんなには申し訳なんだがもうそろ教室戻るわ」
俺がそういうとみんなは拍手で俺を教室に送り出した。
女子しかいない教室に戻った俺は、刺すような視線を全方向から感じた。しかし、俺にはやらなきゃ行けないことができたんだ。それは今から前の席表を確認して、俺の華やかな共学物語を一瞬にして塵にしたやつの名前を確認した後、クラス全員の前で俺の無実を証明させるということだ。
えーっと名前は、どれどれ。
「ん?これなんて読むんだ?」
小鳥遊コトリってなんだこれ。まあいい、とりあえずあいつを入学式後に呼び出して、俺は説教してやるんだ。
そうして俺は、何たらコトリの席に向かった。あいつは悠々と音楽聴きながら読書してやがる。だが今に見てろよ。お前の容姿なんてこの際もうどうでもいいんだ。俺はこいつを負かすことができればいい。
「おーーーい!ことりあそびコトリい!」
「何ようるさいわね!あと、た・か・な・しコトリ!」
「お前の名前なんっか、どーでもいいんだよお!」
「はあ?」
「お前今日入学式終わったら、校舎裏に来い!」
「別にいいけど!なんでよ!」
案外あっさりいいよと言われてびっくりした。
「後で話す!じゃーな!」
「ふんっ!もうわけわかんない!」
とりあえずこれで決まったと思ったが、さっきよりも女子の視線が冷たくなっているのをひしひしと感じた。それでいいんだそれで。後でこいつに謝らせて女子全員から、俺の負のイメージを払拭するんだ!
そうして入学式が始まり、どうせ経験したことない戯言をペラペラと喋る校長の話を聞かないで、俺は何をコトリに何を言うか考えていた。
(どうする。どうする俺!)
入学式に来ている俺の親は、息子の入学式を見て、さぞ感極まっているであろう。そんな親には申し訳ないが、俺は数十分前にクラスメイトに俺が変態であることを暴露されました。
そうやって1時間、考えている努力も虚しく、結局何をいうか決まらないまま入学式は終わった。
帰りの会が終わって俺は教室を相対性理論を軽く覆すような速度で教室を出た。だって説教するやつが、後に行ってどうする。先に行って仁王立ちで待っている方がよりかっこいいし、説得力もあるだろう。
そうやって俺は、下駄箱で靴を履いて駆け足で校舎裏へ向かった。
「はあはあ・・これ・・であいつを・・待っていればいいだけだ」
俺は息を切らして前屈みになっていた体を起こした。すると
「もうおっそいわね!」
そこには涼しい顔で、仁王立ちしながら俺を待っている小鳥遊コトリの姿があった。
は?いや俺今一番乗りで校舎出たよね?なんでこいつの方がここに早く着いてんだよ。