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未来の裁判

作者: 空川 億里

 検察官が、口を開く。

「被告は夜の8時頃ゲームセンターのメタバース・コーナーでヘッドディスプレイであそんでいた被害者の男子高校生を背後からサバイバルナイフで刺し殺しました。殺された高校生には何の落ち度もなく、加害者とは面識もありませんでした。亡くなった被害者は、2度と生き返りません。求刑は、死刑が妥当です」

 次に弁護士が、話しはじめた。

「確かに犯行は許されるものではありません。加害者は医学部の学生で本人曰く、学業のストレスも、犯行の一因だという事です。加害者はまだ21歳と若く、大変優秀な学生でもあります。また、今回の行為を深く反省しております。減刑をお願いしたい所存です」

 検察官と弁護士のやりとりを見ながら、裁判官は考えていた。

 被害者は三流高校の学生で、夜8時にゲームセンターにいたぐらいだから不良だろう。

 一方加害者は、裁判官も通っていた一流大学の学生だ。

 父親も有名な大物医師だった。加害者が有罪になれば、医師になる事はできなくなる。


「判決を、申し渡します」

 裁判官が、そう発言した。

「判決は、無罪。加害者は日々の勉強で過剰なストレスにさらされており、特殊な精神状態で起きた事件です。加害者本人も猛省しており、無罪と判断します」   


 裁判の様子は録画されておりネットを通じて全国に放映される。裁判は平日の昼に行われるので、見逃し配信も行われていた。

 見逃し配信は1週間行われ、裁判官の判決が妥当なものか、全国の18歳以上の有権者が判断し、妥当か否か投票できる。

 この高校生殺しの裁判も、他の裁判と同様全国に配信された。

 裁判官は、自分の判決がどう判断されるか、その結果をネットで観ていた。

 全国に配信されると言っても、観てない人間が多く、今回も自分の判決が正しいと判断されると信じている。

 所詮愚民は、自分が当事者でもない裁判の結果など気にしないのだ。

 やがて結果が出た。投票者のうち72パーセントが判決に不服だった。

 70パーセントを超えると判決は覆されるだけでなく、裁判官は今後一切刑事裁判を扱えなくなる。民事に回されるのだ。

 どうしてかわからなかった。不服理由を読んでみた。


「人間が1人殺されたのに、無罪とかありえない」

「被害者がかわいそう」

「裁判官の判断が鬼畜すぎ」


 不服理由を読んでも裁判官は、理解できなかった。彼は一流大学を卒業して裁判官になったのだ。

 法律に熟知したうえで、判決を下している。どう考えても不良の高校生よりも、医学部の学生の方が、この日本には必要じゃないか。

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