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3/3

第3話

一日に数万もの投稿がなされ、ユーザーたちが熱狂的に議論を交わす中、一つのスレッドが投稿された。


【投稿者:初心者くん】

【タイトル:このゲームってライフルとスナ同時持ちダメなん?】


「ふと思ったんだが、ライフルとスナイパーの両方を持って臨機応変に戦った方が効率よくないか?

なんでみんなやらないの?

俺初心者だから詳しくないけど、見たことないんだけど」


▼レス▼

┗【通りすがりのプロ】:「やらない × やれない ○」

┗【砂漠の蛇】:「物理的に無理ゲー」

┗【いもスナ愛好会】:「そんな器用なこと練習する暇あるなら武器一本極めたほうがマシだぞw」

┗【天井のシミ】:「そのプレイはスキル以上にステータスや才能必須だから実質不可能だろ」


ゲーム開始当初から、『武器二刀流』は不可能というのが常識だった。

プレイヤーの中では、それは既に当たり前のことになっていた。


依然として「二刀流」は無理だという空気が支配的なその時。


【投稿者:ブリテン紳士】

【タイトル:公式の最新クリップ見た?何これwww】


「(YouTube動画リンク)

チュートリアル最速クリアらしいけど、これやばすぎない?

ライフルとスナイパー同時運用してるんだが、どうなってんだ?

しかもチュートリアルは再挑戦不可だから完全な初見プレイだよなこれ……」


▼レス▼

┗【スナ専】:「?」

┗【ルーマニアンライフルマン】:「!?」

┗【爆破マン】:「いやww嘘乙www」

┗【万年初心者】:「これが初心者だったら俺の立場がないんだが……」

┗【転がるフンコロガシ】:「変だな……チュートリアルは『特性』未解放のはずだよな?ならこれ全部本人のPSってことか……?」


公式YouTubeにアップされたチュートリアル最速クリップ。

『ザ・ゲート』は一人一アカウントのみであり、間違いなく画面の男は初めてゲームを始めた新人プレイヤーのはず。


それでも、彼のプレイは瞬く間に注目を集め、再生数は数百万を超えるほどバズった。


このことを、本人――神崎蓮司が知るのはもう少し後の話だった。



---


チュートリアルをあっという間に終えた蓮司は、表示されたウィンドウを黙って見つめていた。


【チュートリアル報酬が支給されました。】

【特性抽選券 × 1】

【使用しますか?】


プレイヤーが最初に得られる『特性』。

チュートリアル成功なら即座に入手できるが、失敗すれば数多くのクエストを経てようやく手に入る重要な能力だ。


『ザ・ゲート』において特性は勝敗を左右する決定的要素。


「皆が必死にあの鬼畜難易度のチュートリアルをクリアしようとするのも当然だな。」


毎日、チュートリアルを突破できずに泣き叫ぶ初心者たちが後を絶たない理由はここにあった。


蓮司は迷わず『はい』を押した。

ルーレットが回り、特性が一つ表示される。


蓮司が望む特性はたった一つ。

それは最強と謳われるチート級でも、破壊力抜群の特性でもなかった。


『思考加速』――

ユーザー評価は最低ランクF、応用性の低さで有名なハズレ特性だ。


しかし蓮司は誰よりもこの特性を望んでいた。


【特性『思考加速』を獲得しました!】

【マナを消費し、一時的に思考速度を大幅に上昇させます。】


蓮司は満足げに頷いた。

数多くの特性があっても、20年間共に戦ったこの特性に勝るものはなかった。


「これが『ザ・ゲート』で一番使える特性だ。」


人類最後の敵・イレギュラーを倒せたのも、この特性のおかげだった。


抽選を終えた蓮司に、チュートリアルで共に戦った中年男性が笑顔で近づいてきた。


「ハハハ、本当にありがとう!物資を奪われていたら我々だけでなくゲート内部の仲間も全滅していただろう。」


頭が薄いその男は蓮司に握手を求め、道を指さした。


「あっちに行けば、生存者がいる町がある。本当に助かったよ。」


初心者エリアに進めばチュートリアルは終了。

だが、蓮司には別の目的があった。


蓮司はフェリックスの言葉を思い出す。


――「チュートリアルには隠されたクエストがある。本来入れないと思われているゲート内部に行けるんだ。」


蓮司は男に話しかけた。


「よければ俺もゲートの中まで同行させてください。一緒に戦った仲ですから、最後まで助けたいんです。」


男は少し驚いたが、蓮司を見て頷いた。


「君のような腕前なら大歓迎だが……かなり危険だぞ。それでも構わないか?」


男の頭上に青い感嘆符が浮かび上がった。


【隠しクエスト発生!】

【難易度:A】

【ゲート内の危機に瀕した仲間を救出せよ!】

【成功報酬:特別な報酬を支給】

【失敗時:死亡扱い、24時間ログイン不可】


隠されたクエストがあるなんて、誰が想像できただろう。

しかし蓮司は既に報酬内容を知っていた。


「もちろん行きます。」


その報酬が自分をさらに強くすることを確信していたからだ。


蓮司の目は決意に燃えていた。


「絶対に手に入れてやる。」


強い覚悟を胸に、蓮司は男の後を追った――。



【ゲート - tut450に進入しました。】


ゲート内部は湿った薄暗い洞窟だった。

蓮司は慎重に洞窟の奥へと歩を進め、周囲を警戒した。すると、先ほどの男が話しかけてきた。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はバルティメル。このゲート攻略隊の第二部隊長だ。よろしく頼む。君の名前は?」


「ああ、俺は……いや、『OP』と呼んでください。」


「OP?変わったコードネームだな。だがここから先は油断するなよ。一歩間違えれば命取りだ。」


蓮司は軽く微笑みながら頷いた。


「ええ、心得てます。」


バルティメルの言うことは正しかった。

現在の蓮司のレベルはわずか「1」。

ステータスも、わずかに速度が上がった程度で、他はほぼ初期値同然だ。


いくら腕に覚えがあろうと、一瞬の油断が命取りになる。

そんな蓮司たちが周囲に気を配りながら進んでいる、その瞬間だった。


視界に真っ赤な警告ウィンドウが表示され、けたたましい警報音が耳を貫く。


【※警告!※】

【第一ウェーブが開始されます!】


「来たか……!」


表示されるや否や、モンスターの荒々しい咆哮が響き渡り、膨大な数の群れが姿を現した。


「全員止まれ!」


前方に立つバルティメルが、手慣れた手つきで仲間たちに合図を送る。


「武器を構えろ!ウェーブが来るぞ!」


バルティメルの掛け声と共に戦闘が始まった。


ドドドドドドッ!


耳をつんざくような激しい銃撃音が洞窟内を満たし、蓮司を含めた全員が圧倒的な火力で次々に湧き出すモンスターを殲滅していく。


だがその時だった。


奥から恐ろしい叫び声を上げ、果てが見えないほどの大群が一斉に迫ってきた。


――キシャァァァァァッ!!


赤黒い外殻を持つ、虫のような姿をした異形のモンスター。

人間の死体を宿主とした忌々しい化け物――『パラサイトデビル』。


通称『パラデビ』。

単体なら雑魚のような敵だが、その数と攻略法の難しさゆえ、高レベルゲートでなければ現れないモンスターだった。


蓮司は思わず眉をひそめた。


「……なんでここにパラデビが出てくるんだよ?」


こんなこと、フェリックスからは聞いていなかった。

彼から聞いた情報では、せいぜい低レベルゲート相当のモンスターが出るはずだった。


蓮司にとってこれは予想外の事態だった。


自分はまだレベル1の初心者。

いくら前世で経験を積んでいるとはいえ、これはちょっとやりすぎじゃないかと思った。

それでもクリアできないとは思わなかったが、ヒドゥンクエストにしてはあまりにも難易度が高すぎる。


周囲のNPCたちもパラデビを見るのは初めてらしく、激しく動揺していた。


「あれはなんだ!?」

「見たことないぞ、撃っても再生してやがる!」

「くそっ、どうすりゃいいんだよ!」


彼らの反応は当然だった。

銃をどれだけ乱射しても、パラデビは時間が経つと再生してしまう。彼らは次第に押し寄せる化け物たちにただ必死で抵抗するしかなかった。


「……どうすればいい。」


バルティメルの表情も険しい。

このまま撤退すれば奥にいる仲間は見殺しだ。しかし、この圧倒的不利な状況で戦い続けることはできない。


ここにいる仲間だけでも救うため、彼は苦渋の決断を下そうとした。


「ひとまずここは撤退――」


その瞬間。


蓮司は迷うことなく、モンスターの群れへと飛び込んだ。

ライフルの銃口から火を噴き、信じられないほど正確な射撃で次々とパラデビを薙ぎ払う。


蓮司は慣れた動きで次々と敵を撃破しながら叫んだ。


「弱点は腹の真ん中!そこにある魔石を破壊しないと再生し続ける!仲間を簡単に諦めるなよ!」


蓮司の冷静かつ鋭い指示に、後退しかけていた仲間たちも再び奮起し、彼の指示通りに弱点を狙い始めた。


(おっさん冗談じゃないぞ。ここで撤退なんて冗談じゃない。俺の報酬を諦められるか……!)


蓮司の内心は少し違った。

彼の瞳は情熱と執念に燃えていた。


フェリックスが手に入れていたあの報酬を何としても手に入れる。

あれさえあれば、前世の20年間で唯一足りなかった弱点を補うことができる。


蓮司は歯を食いしばり、目前の敵を一掃した。


そして遂に――


「これでラスト一匹!」


最後の一匹が倒れ、蓮司の前に再びシステムウィンドウが表示された。


【第一ウェーブをクリアしました。】

【ゲート攻略までの残りウェーブ数:1/4】


一息ついていると、再び驚くべき表示が蓮司の目に飛び込んだ。


【レベルアップしました!】

【Lv.1 → Lv.10】


戦闘時間は長く見積もっても一時間ほど。

その短時間でレベルが10まで跳ね上がった。


蓮司は驚きつつステータス画面を開いた。


▣【プレイヤー名】:OVER POWER

▣【レベル】:10

▣【ステータス】:

体力(1,000)、マナ(50)、スタミナ(30)、

攻撃力(30)、防御力(25)、速度(35)、命中(70)

▣【特性】:思考加速

▣【称号】:歴代級の才能

― 命中率と射撃速度が10%上昇します。


(本当にレベルが一気に10まで上がったか……。)


レベルを含め、あらゆる能力値が大幅に上昇した。

初心者エリアで何十時間ものクエストを数個こなしてようやく得られるレベルだ。


蓮司は思わず笑みをこぼした。


(初期ステータスでは正直厳しかったけど……だんだん慣れてきたぞ。)


自分の成長と、変わらないゲートの難易度――。

蓮司にとって、このクエストはもうクリアしたも同然だった。

読んでいただき、ありがとうございました!(〃´u`〃)

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