8わくわくしてきました
兄様が突然耳元に近づく。
「リベラ王女は離縁などしていないからな。オルセン王太子と喧嘩して勝手に王宮を出て来たらしい」
「じゃあ‥噂はやっぱりうそなんですね?」
王都ではリベラ王女は離縁するとか、いや、もうすでに離縁したともっぱらの噂なのだ。
「ああ、もしあいつと寝たら大変なことになる」
「うふっ、旦那様はご存知なんですか?」
アッシュがやらかす姿を想像して思わずこぼれる笑み。
「さあな。王女が離縁したって自分で吹聴していたからな。だが、今のところ離縁はあり得ない。フューデン辺境伯からも知らせが来ている」
「やっぱり」
我が家はロガワロ国と国境を面しているためあちら側の情報がすぐに入って来るのだ。
ちなみには母は亡くなったがフューデンの血を引く私もいるので今でもフューデン辺境伯とは仲がいい。
それに代替わりして今のフューデン辺境伯は私の叔父さんということになる。
「あいつの見張りは付けている。この先の展開が楽しみだ。なあ、そう思うだろう?」
「ええ、兄様踊りませんか?」
彼が失態を犯して離縁できるかもしれないと思っただけで心が浮き立った。
「ああ、ミュリアンナ、そのドレスすごくいいな。とっても似合ってるぞ。その首飾りはお母さんのか?」
「ええ、よくわかりましたね」
「もちろんだろう。きっと喜んでるぞ。父さんにも見せてやればいいのにきっと喜ぶ」
「そうだといいけど‥」
「なんだ?ミュリアンナ。父さんはお前の母さんを好きだったんだぞ。でも、お前がいるからってなかなかいい返事をしてくれなかったんだ。俺達の母さんが死んで落ち込んでいたけどリーシャと結婚が決まってとても嬉しそうにしてたからな」
「父さんは母さんを愛してたんですか?」
「当たり前だろう。愛してなきゃ子供までいる女と結婚はしないだろう?」
「同情かと思っていました」
「ああ‥だな。父さんは口数も少ないし冷たく見えるからな。誤解されやすいんだ。でも、俺達3人ともお前をものすごく愛してる。それだけは確実だからな」
「ええ、私も兄様を愛してますよ。でも、そろそろ妹離れしていただかないと‥」
兄様はまだ結婚していない。もう25歳になるんだからそろそろ可愛い奥さんを見つけて欲しいと思っている。
ルカ様も。
ダンスが終わり夜会もそろそろお開きという頃アッシュ様が近付いてきた。
兄様はすでに警護に戻っていて私はひとりでもう帰ろうとしていたところだった。
「ミュリアンナ。すまなかった。ダンスに誘えなくて」
「とんでもありません。大切なお仕事ご苦労様です。私は先に帰ろうと思います」
「ああ、すまない。今夜も帰れないかもしれないんだ。悪いが‥「はい、心得ていますので」そうか。では、気を付けて帰ってくれ」
「はい、ありがとうございます旦那様」
アッシュ様はほっとしたのか手を振って私を見送ってくれた。
私は心の中でつぶやいていた。
あなたもあの性悪女には充分気を付けて下さいね。じゃなくてどうか騙されてふたりで楽しんで下さい。
うふっ、その後がどうなるか楽しみです。