5問題児リベラ王女
そんなある日リベラ様がシガレス国に戻って来たと連絡が入った。
嫁いだオルセン王太子に愛する人が出来たらしい。だが、すでにリベラ様が王太子妃なのに、どうして?
王宮の人間が頭をかしげる中リベラ様が帰ってこられた。
彼女は周りの者に離縁すると大きな声で話をして回った。
巷ではこんなうわさがささやかれた。
”きっと国王に言ったんだろうよ”って。
国王がリベラ王女にはめっきり甘いことは有名だった。
「お父様聞いて。私はこの国の王女なのよ。そんな私がどうして夫の愛をひとり占め出来ないの?オルセンが別の人を愛するなら私は離縁するに決まってるわ!いいでしょう?お父様」
「オルセン王太子には困ったものだ。こんな美しい妃を娶ったと言うのに、お前がどんなに辛い目にあったか‥だが、王家としては跡継ぎは大切な問題なんだ。それはわかるだろうリベラ?」
「もちろんよ。でも‥しばらくしたら帰るから少し羽が伸ばしたいの。いいでしょうお父さまぁ~」
「ああ、ゆっくりすればいい。だが、こちらに帰る事はロガワロ国の国王も了解しておるのだろうな?そうなんだろうリベラ?」
「も、もちろんよ。お父様、い、いくら私だって国王の許可くらいは頂いているわ。オルセンにはきちんと話してあるから心配しないで。だから、ここにいてもいいでしょう?」
「ああ、もちろんだ。さあ、疲れただろう。ゆっくりするといい」
「ありがとうお父様。あっ、そうだ。護衛騎士にはアッシュがいいから、彼を呼んでくれない?」
「ああ、そうだな。お前の護衛が必要だな、アッシュ・レーヴェンを呼べ!」
こりゃ、離縁は時間の問題だな。国王はどうする気なんだ?
ざっとこんな事だろうと。
そして案の定、私の夫アッシュ・レーヴェンがリベラ様の護衛騎士となりそれは王家主催の夜会の数日前の事だった。
その日アッシュ様が帰って来ると私に言った。
「ミュリアンナ。すまないが今度の夜会は同伴出来なくなった」
「はっ?」
思わず出た呆れた声。
仕方がないじゃない当然よ。それにしても想像通りとは…しばし脳内でため口の嵐。
年に2回ほどの社交の同伴。夫婦としての唯一の務め。
まあ、私も同伴なんかしたくはないのだが、でも、それでも、自分はレーヴェン公爵家の一員だと知らしめる大切なイベントと分かっているから。
だからこそ私だって‥‥今度は思わずぐっと唇を噛んでいた。
「いや、わかっている。でも、王女殿下の護衛で仕方がないんだ。わかるだろうミュリアンナ?」
珍しく慌てたアッシュ様が私の唇をそっと指先でなぞる。
そのあざとい仕草に私はハッとしてその手を振り払って一歩下がる。
「いえ、いいんです。旦那様は仕事ですから。仕方がありません」
胸の中に落ちる嫌悪感とほんの少しのもやもや。
私は懸命に口角を持ち上げる。
そのおかげか彼がふっと微笑んだ。
「ああ、すまない。少しくらいは時間取れるだろうから、ダンスは踊ろう」
アッシュ様もこれがどれほど失礼な事だと少しはわかっているらしい。
まあ、婚姻の際の誓約書にもはっきり書いてあることだし、仕事とはいえまたあの王女の事だから、私に対する嫌がらせなんだろう。
相変わらず嫌な女だ。
「ええ、そうですね」
私だって貴族の端くれ。すぐに口元に笑みを張り付けることくらい出来る。
まったくリベラ様はいくつになっても問題児だと思う事にする。