24オルセン王太子の仕返し1
そしていよいよ国王のスピーチが始まった。
「今日の夜会は我が国を襲った流行り病であるコンコン病の終息を祝うものだ。家族や友人の中には残念だったものもいるだろう。しかし大半のものは素晴らしい特効薬を見つけてくれたここにいるベネット辺境伯のミュリアンナ嬢と言う女性のおかげで命を救われた。皆、もう一度ミュリアンナ嬢に感謝しようではないか」
「「「本当にありがとうございました。あなたのおかげでみんな助かりました」」」
会場から拍手が沸き起こった。
国王と王妃は私達の方に顔を向けて頭を下げられた。
そう言えば離縁が成立したので私は独身女性になっていたからそんな呼び方なのかとますます恥ずかしくなりがばりと深く頭を下げてお辞儀を返した。
そこにオルセン王太子が声を上げた。
「私はロガワロ国の王太子。オルセン・ロガワロです。我が国もコンコン病の深刻な状況にありました。それを彼女が救ってくれた。どれほどお礼を言っても足りないほど恩義を感じています。ミュリアンナ嬢。本当に感謝しています。心からお礼を言わせてほしい。どうもありがとう」
オルセン王太子からも頭を下げられた。そして大きな花束を貰った。もちろんそばにいた側近が持って来てくれた。
ここで会場は一段とヒートアップ。
もう、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
まだ熱狂的な雰囲気の中。
突然オルセン王太子が言葉を放った。
みんなの視線が集中する。
「実はこんなお祝いの場所でこのような話をするべきではないと思います。が‥我が国とシガレス国との友好関係をこれからも続けていく上でどうしても必要な事だと判断しました。いや、私の気持ちが済まないと言った方がいいかも知れません。こんな公の席でと思われるかもしれませんがこれから紹介するふたりはそれだけの罪を犯したのです」
彼の言葉に騒然としていた会場は水を打ったように静まる。
国王の顔が引きつった。
「オルセン王太子?まさか‥いや、それは公にするべき事ではないのでは?落ち着いて下さい。王太子殿下それは公にするべき事ではありません」
「いいえ、国王陛下。我が国は侮辱されたのです。これくらいの事はさせていただかなければ私の気はすみません!」
「オルセン王太子のお気持ちはわかりますが、これは個人的な腹いせではありませんか「国王はこうおっしゃっていますが皆さんはどう思われますか?」」
オルセン王太子は目の前にずらりと居並ぶ貴族たちに問う。
しばし沈黙があったがすぐに口々に声が上がった。
「私はオルセン王太子の考えを尊重します」
「国王!そんな問題があったなら我々に公にするべきですじゃないんですか?」
「我々は知る権利があります!」
「どうか話を続けて下さい」
「「「「そうだ!そうだ!」」」」
観衆はオルセン王太子を指示した。
そりゃそうだろう。
大体国王陛下はシガレス国とロガワロ国の国力の違いを分かっているのだろうか?
ロガワロ国と言えば、この辺り一番の大国でおまけに国王はものすごい暴君と言われている。
些細な事でも国王の気に触れたら死罪か流刑は免れないとまで言われるほどで、それに輪をかけているのがオルセン王太子だと聞いた事がある。
そんな人を怒らせたらこの国はただでは済まない。
彼の気が済むなら例え王女を火あぶりにされようが元夫のアッシュが断首刑になろうと目をつぶらなくてはならないと言うのに。
まあ、私に言わせれば当然の報いって思うけど。
それなのに引き留めるとは、国王としてあるまじき行為なのでは?
オルセン王太子は大きくうなずくと話を始めた。
「皆さん聞いてください!私の妻だったシガレス国のリベラ王女。皆さんもよくご存じですよね?驚くことに彼女は王太子妃と言う立場にありながら3カ月前勝手にロガワロ国から自国に帰り護衛騎士であったアッシュ・レーヴェンと肉体関係を持ちました。そして今その男の子を妊娠しています。どう思いますかみなさん?一国の王女が?王太子妃が?信じれますか?私はそれを知った時怒りで身体じゅうが震えました。ロガワロ王太子の子でなく他の男の子を身ごもった妻に。私はこの事実を知ってすぐに離縁の手続きをしました。当り前です。私も何とか事を荒立てず収めようと努力しました。国王はリベラとアッシュを平民に落としてアッシュを強制労働の刑に復させると言われた。ですが、それでも私の気持ちは収まりません。例え一国の王太子とは言え1人の人間です。私は考えました。どうすれば私は気持ちを収められるのか‥‥私はこの夜会でふたりの結婚式を見届けようと思います。この夜会にはシガレス国のほとんどの貴族の方がお越しのはず。きっと皆さんはふたりに侮蔑の目を注がれるでしょう。それはふたりにとって耐えがたい屈辱となるはずです。それほどの辱めを受けたとこの目で見届けられれば私も今回の事を何とか乗り越えられると思うのです。どうでしょうか皆さん。こんな私のわがままを聞いていただけますか?」
オルセン王太子の正直な気持ちはその場にいた人々の心を打った。
「賛成です!」
「当然です!」
「どうかオルセン王太子の思うままに!」
「ふたりを鞭打ちにでもして下さい!」
「強制労働くらいでは軽すぎます!」
「もっと重い罰を!」
「オルセン王太子を指示します!」
全員がオルセン王太子を指示した。
国王は何も言えなくなった。
「オルセン王太子、あなたの思うようにして下さい。すべてはわが娘のしでかした罪。心からお詫び申し上げる」
そして首を垂れた。
オルセン王太子は話を続ける。
「国王のお気持ちをありがたくお受けします。私も今回の不測の事態には心を痛めましたが、この夜会でふたりの哀れな門出を見送る事ですべてを水に流すつもりです。そして今後もロガワロ国とシガレス国の友好関係を続けて行きたいと考えます」
オルセン王太子も被害者なのに、こんな事でふたりを許そうなんて本当は優しい人なんだろう。
きっと心の内は掻き乱れているはず。
そして連れて来られたリベラとアッシュを連れ出すよう指示する。
「さあ、皆さんお待たせしました。アッシュとリベラをここに」
ふたりはすでに平民が着る薄っぺらい服を着て手枷をつけられていた。
リベラは泣きはらした目をしてうつろな表情をしている。
アッシュは信じられないと言う表情で周りをきょろきょろ見回している。
「国王陛下。どうかお許しください。リベラの妊娠は私には全く身に覚えのない事です。信じて下さい。私はあの時避妊薬を飲んでいます。彼女が妊娠するはずがありません!」
「アッシュ。私はあなた以外と関係を持っていないわ。お腹の子は絶対にあなたの子だから。いい加減諦めなさいよ。あなただっていい思いをしたはずよ!」
「誰が?お前がいい女だとでも?身を滅ぼしてでも欲しいと思うほどの女での訳がないだろう!」
「なによ!あんただって最低男じゃない!」
「オルセン王太子。どうかお願いします。罰はリベラにだけ与えて下さい。私には身ごもった女性がいるのです。私はその子への責任があります。どうかお願いします」アッシュが懇願する。
「他にも子が?」
オルセン王太子は呆れた顔で尋ねる。
アッシュは縋るように言う。
「はい、バークレイ男爵令嬢です。妻と別居している時に私を支えてくれた女性なんです。私は彼女を守りたいんです。ですからどうか‥」
心にもないことを‥
私はそんなアッシュを白けた顔で見ていた。
ほんとっ、離縁できてよかった。って言うか結婚しなきゃよかった。
私の4年を返してと言いたかった。




