21こんな事になるなんて(ルカ)
俺はこの場にいてもいいのかと狼狽えた。
この百戦錬磨と言われた俺が?ハハハ。乾いた笑いが出そうになって急いで口を閉じる。
だってそうだろう。
王女が不倫。
しかも不倫相手の子を妊娠。
そもそも一体いつの間に?夜会の前日に関係を持ったという事か?
まったく、どれだけばかなんだ。
そのせいで王太子の面目は丸つぶれ。
こうなったらロガワロ国と戦争になってもおかしくないと言う危機的な状況で俺はどうすればいい?
オルセン王太子を捕らえるべきか?
俺は思わず国王の顔色を伺う。
「それではどうすれば?」
一国の国王ともあろう男が情けないほどの声で尋ねる。
「はっ?決まっている。リベラとは離縁するに決まってるだろう」
オルセン王太子は目の前のテーブルをバーンと叩いた。
「申し訳ない」
国王はひたすら謝る。
王妃も側妃も頭を下げた。
リベラは気まずそうに俯いていてアリーシャは唖然としている。
「いいか。よく聞け!私はロガワロ国の王太子なんだぞ。そんな私以外の男を垂らしこんだ事だけでも死罪にしてもいいんだ。ましてや妊娠までさせたとなればいっそ相手の男も一緒に死罪にしてもいい。だが、罪のない赤ん坊まで道連れにするのは後味が悪いからな。だからこの夜会の招待に応じてこちらの考えを聞かせてもらおうと思った。すでに私とリベラは離縁してロガワロ国ですでに手続きは終えた。国王それを踏まえて適当な処分では済まされないと覚悟して判断をお願いしたい!!」
オルセン王太子は怒りに任せて滾る怒りを一気に言葉を吐きだした感じだ。
無理もない。オルセン王太子に同情する。
俺の心にばかなふたりへの侮蔑の感情が吹き荒れた。
それで俺はどうしてここに?いっそ部屋から退室したい。
一体なぜここに呼ばれたのか全く分からない。
「オルセン王太子の怒りはごもっともです。わが娘が誠に不実なことをしたことを深くお詫び申し上げます。リベラには今度オルセン王太子のご機嫌を損ねたら平民にすると伝えてありました。ですから‥」
「ほう~機嫌を損ねる。それ以上の事をしたが?」
オルセン王太子はじろりと国王をねめつける。
蛇に睨まれたカエルの国王。
「リベラは王族から追放します。平民にして国外追放に‥」
「こいつを平民にか?まあ、それも一興だ。だが、国外追放は止めてくれ。こんな奴がもしロガワロ国に入国したら迷惑だ。それにだ。相手の男も世話してやらねばならんな。アッシュ・レーヴェンも同罪として平民にしてリベラと結婚させろ。だってそうだろう?ひとりで子は出来んからな。ふたりを夫婦にして強制労働をさせろ。死罪よりこの方がずっといい。離縁は認めん。それからふたりに援助するんじゃないぞ。金も住まいも宝石なども一切与えてはならん。いいな国王!」
オルセン王太子はこれは決定事項だとでも言うように。
「はい、もちろんおっしゃる通りに‥」
側妃が泣き崩れた。
「どうか情けを‥」
「それは出来ん。嫌ならお前も王宮を去れ!」
「‥‥‥」側妃は何も言えなくなった。
そこに王妃が口をはさむ。
王妃の出身はロガワロ国。オルセン王太子は甥っ子になる。
さすがわが甥。見事な采配と思ったが。
自国の国王の娘の味方をするべきか甥っ子の味方をするべきかずっと考えていたがここで大きな問題がある事に気づいたのだ。
「陛下。問題がひとつあります。アッシュ・レーヴェンは妻帯者ですわよ」
「あいつに妻が?あんな男に?」
「まあ、ご存知ないのですか?あの男の妻はミュリアンナ・ベネットですわ」
「「なに?あのコンコン病の救世主であるベネットの令嬢が?!」」
国王とオルセン王太子が揃って声を上げる。
「よりによってあんな極つぶしと結婚など。誰が支持をした?」
「まあ、ベネット辺境伯領が天災で被害に遭ってレーヴェン公爵家が援助をした時婚約が決まったじゃありませんか」
「ああ、そうだったな。でも、離縁したのでは?」
「あのくそ狸(宰相ロードン)ふたりが離縁すればリベラ王女との事を疑われると思ったのですよ。まったくふてぶてしい!」
王妃はレーヴェン公爵も息子のアッシュも好きではなかった。何か胡散臭い親父だと思っていて思わず本音がポロリ。
国王は王妃とは思えない発言に一瞬声を失ったが。
「わ、わかった。アッシュとミュリアンナの離縁手続きをするように指示しよう」
俺は願ってもない流れに口をはさんだ。
「あの、離縁の事でしたらベネット辺境伯も王都にきたらすぐにその手続きをすると話しておられまして」
「そうか。良かった。執務官を呼んで伝えろ」
国王が指示を飛ばして急いで執務官が出て行った。
これでミュリアンナの離縁は間違いなく行われる。良かった。
「リベラ。お前はもういい。護衛兵。連れて行け。いいか。くれぐれも目を離すなよ。こいつは信用できんからな」
オルセン王太子の目は冷たい。一緒に連れて来たのもわざとリベラに恥をかかせるためだろう。
まあ、無理はない。
リベラ王女はふらつきながら立ち上がる。
「お父様‥」リベラが国王にすがるような目で見た。
国王がその瞳を見返すことはなかった。
「とんだ娘だ。お前にはもううんざりだ。これからはアッシュとつつましく暮らして行くんだな!オルセン王太子の恩情に心から礼を言ったらどうだ?」
「オルセン王太子。申し訳ございませんでした」
「‥‥‥」返答は返されなかった。
「さあ行け!もう、二度と会う事もない。護衛兵。この女を鍵のかかる部屋に隔離しろ、ああ、王宮の地下牢でもいい!」
国王の瞳はオルセン王太子以上に冷たかった。
そしてリベラ王女は連れて行かれた。