20オルセン王太子怒る(ルカ)
俺はミュリアンナと婚約の話をして王都に帰った。
するとすぐにあちこちで流行り病が発生して週末にベネット辺境伯領を訪ねるどころではなくなった。
あっという間にコンコン病が広まり王都でも深刻化してしまった。
俺達は治安の乱れた町の見回りや王都に出入りする人たちの検問などにも人手を取られた。
そしてベネット辺境伯領でコンコン病に効く薬が見つかったと分かりやっとコンコン病が収束してミュリアンナに会いに行けた。
勝手なもので、今まではどんなに好きでも彼女とは一緒になれないと思っていた。
俺の目は片方見えないし、この見てくれでは絶対に無理だと思っていた。
年頃になって女性から向けられる視線はおぞましいものを見るような蔑みや良くても憐みに思えてミュリアンナも同じように思うはずだと思っていた。
もちろんミュリアンナがあの事故のことを覚えていないことはすごく助かったし俺は一度だって彼女が悪いと思った事もなかった。
でも、ヒックスと友人になりミュリアンナに会える機会が増えると彼女に少しでも近づきたくてミュリアンナに声をかけるようになった。
今までは俺から声を掛けようなんて思ってもいなかったのに。
声を掛ければあの淡い桜色の瞳を向けられて胸がじわりと熱くなって、戸惑いやうれしさがないまぜになって俺の心はいつも掻き乱された。
でもそんな気持ちを悟られたらと、つい無表情な顔をしていたと思う。
でも、ミュリアンナがアッシュに襲われて俺の自制心は粉々になった。
結婚していてもあいつはミュリアンナに触れないと知っていたからまだ平気ではないが何とか自分の気持ちをごまかせていた。
ミュリアンナを無理やり襲ったアッシュをあの場で殺してやりたかった。
何とか踏みとどまりあいつを騎士隊に連行したのに、宰相であるあいつの父親が出しゃばった。
まじ、子供のしつけくらい出来ないのか?って言いたい。
一国の宰相のくせにどうしてあんなに子供を好き放題にさせてるんだ?
ああ、それを言えばうちの出戻りのディアーナもそうだが。ミュリアンナと同じ年だがずいぶんと性格が違う。
俺の母は早くに亡くなって父は再婚して出来たディアーナだ。
父は真面目で愛人もいなかったし女は妻だけ。年の半分は外交で隣国を行ったり来たりの生活で妻や子供に構う暇もなかったから無理もないかも知れないが。
再婚した父の妻モリーは子爵の未亡人。まあ、俺から言えば義理母になるんだが興味があるのは夜会やドレスや新しい宝飾品などだ。
ディアーナの事は公爵令嬢だからってかなり甘やかした。
最初は可愛いと思ったが10歳を過ぎる頃にはわがままで手が付けられなかった。
俺は関わりたくないともうその頃には思っていた。
まあ、そんな事はどうでもいい。
やっと両思いだとわかってどんなに嬉しかったか。
おまけにミュリアンナがあの俺が目を怪我した日の事まで思い出して‥可哀想に思っていた通りミュリアンナは自分を責めていた。
そんな事まったく気にしていないとはっきり言った時のミュリアンナの顔が忘れられない。
でも、これであの日の事をミュリアンナが悔やむ事もないな。
すぐにまた会えると思っていたのになかなか会えない日が続いてやっとミュリアンナに会えると思うと心がはやった。
それなのに再会すると彼女はどこか遠慮していて、俺の心は一気にフリーズした。
でも、ヒックスがいるから照れていただけだった。
もう、俺のミュリアンナが可愛すぎる。
そして愛を確かめ合って俺は王都に戻った。
そして夜会の前日~
ベネット辺境伯がレーヴェン公爵に会えないと言っていた。面会を申し入れたが忙しいので夜会が終わってからにして欲しいと言われたらしい。
だからミュリアンナとパートナーとしての出席が無理になった。
まったくいつまで逃げたってもう逃げられないんだ。いい加減諦めたらどうなんだ?それにアッシュも往生際が悪いだろう。
責任はきちんとしろよ!と言いたかった。
俺は国王から呼び出された。
シガレス国にはロガワロ国のオルセン王太子とリベラ王女が来ていた。
俺は国王の客間に出向いた。
そこには国王陛下と王妃。側妃にオルセン王太子とリベラ王太子妃。そしてアリーシャ王女もいた。
リベラ王太子妃の顔色はすごく悪い。
なんだ?俺は場違いじゃないのか?そう思うがそんな事言えるはずもなく。
和やかな雰囲気はなくどこか緊張した面持ちの面々に俺は戸惑ったがそれを顔に出すことなく言われるままに一番端の席に着いた。
「この度は流行り病の終息何よりお喜び申し上げます。そして夜会へのご招待もありがとうございます。わがロガワロ国も深刻な状態でしたがこちらの特効薬に助けられましたこと心からお礼申し上げます」
オルセン王太子が国王にお礼を述べた。
「いえ、薬の件に関しましてはベネット辺境伯に感謝です。何でも令嬢が効き目のある薬草を見つけられたと聞き及んでおります。そのおかげでお互いの国の人々が助かりこれに勝ることはありません」
国王も返事をつらつらと返した。
そしてオルセン王太子がしばらく言いにくそうにして口を開いた。
「実はリベラ王太子妃と離縁したいと思っています」
「それはどういう訳でしょうか?」
国王が身を乗り出す。リベラ王太子妃は俯いたままだ。
「実は‥リベラの腹には私以外の男の子がいます」
国王、王妃。側妃の顎が落ちた!と言ってもいいほどの顔だった。もちろん俺も。
「「「「はっ?」」」」
やっと国王が声を出す。
「オルセン王太子、何かの間違いでは?リベラはそのような事をするは「まだ隠すつもりですか?3か月前リベラはシガレス国に勝手に帰った。その時アッシュ・レーヴェンと関係を持った事を私が知らないとでも?」そ、それは‥」
「ですが、アッシュの子だと決めつけるのはどうかと‥」
「私はリベラとは半年以上も寝ていない。それなのにどうやって子が出来ると言うんだ!!」
リベラ王女が慌てて口を開く。
「お、お父様、こんなはずじゃなかったのよ。夜会の前日アッシュと‥でも、避妊薬は飲んだってアッシュが言ったから‥」
「誰がそんなことを言えと?」
国王の顔は引き攣っている。
当然だろう。
「でも、間違いなくこの子はアッシュの子よ。間違いないわ。私は他には誰とも‥「うるさい!もう黙ってろ!」…」
ああ‥終わったな。俺は心の中でつぶやいた。