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2婚約者はクズ


 アッシュ様は学園では人気があった。私が婚約者になったと噂が立つと周りの女の子からの妬みや嫌がらせの連続だった。

 特にアッシュ様と同じ学年だった王女のリベラ様からの嫌がらせは酷かった。

 私がいるとわざとアッシュ様の腕にすがるように絡みつきふたりで私をからかう。


 「まったく、何が良くてあなたなんかを婚約者にしたのかしら?」リベラ王女が蔑んだような目で私を見る。

 私はそんな事を言われても困ると思いながらもじっと黙ってその場に立ちすくむ。

 「リベラ。俺だってこんな女と結婚すると思うと吐き気がする。でも、父さんにどんなに言っても婚約は解消させてくれないんだから仕方ないだろう?」

 アッシュ様も顔をしかめて私を一瞥する。


 「……」

 「ねぇ、ミュリアンナ。いっそあなたから婚約を解消したいって言えば?あなただってここまで嫌われてたら嫌でしょ?ねぇ、あなたから身を引きなさいよ」

 「私から?」

 そんなことが出来るの?だって、レーヴェン公爵家からは高額な援助をして頂いた。

 それなのに要求されたのは私との婚約だけだった。

 そのおかげでベネット領の領民がどれほど救われたか知れない。もし、申し出を無下にするようなことをすればレーヴェン公爵はすぐに我が領地の援助を差し止めてしまうかもしれないのだ。

 そんな事は父でなくてもわかった。

 それにこのアッシュ様には恩はなくてもレーヴェン公爵には助けてもらった恩もある。

 貴族として私にだってそれくらいの分別はあるから。


 聞けばいくつもの高位貴族との縁談を断られ唯一残っていたのはベネット辺境伯家だけだったとか。

 この無類の女好きの男の妻となる事で我が領地を救ってもらえたのだから。と頭の中で繰り返す。

 咄嗟に可愛い甥っ子のシモンの顔が頭に浮かぶ。それだけで私の脳内には我慢しろ!の命令が下る。



 「そうだな。おい、ミュリアンナ。お前から婚約を解消すると言え。そうすれば俺はお前と結婚しなくて済む。そして俺はこれからもいろんな女と楽しめる」

 「アッシュ!どうしてそうなるのよ。あなたには私がいるじゃない!」

 リベラ様が不満げに文句を言う。

 「何言ってるんだ?リベラは隣国のロガワロ国の王太子と婚約してるだろ?俺だってそれくらいの分別はあるんだ。お前とは学園では仲良くするがプライベートでは無理だってわかってるはずだろう?」

 「もう!あれはお父様が勝手に決めた事なのにぃ~」

 「王女って言うのは国の為に嫁ぐのは当たり前だろう?無理言うなよ。もし、お前が婚約さえしていなかったら‥」

 アッシュ様はそこまで言って口を閉じた。


 それを聞いている私はそんな事はどうでもよかった。

 「あの‥婚約を解消することは出来ません。わがベネット辺境伯家はレーヴェン公爵家に助けて頂いたのです。婚約。そして結婚するだけでいいからとレーヴェン公爵はおっしゃってくださいました。そんな寛大な申し出をお断りすることはとても出来ません」

 私は全く怒りも感じずに淡々とふたりにそう言った。

 アッシュ様の眉がキッと上がる。

 「ミュリアンナ。お前さえ嫌だと言えばいいんだ。なぁ、そうすればお前も嫌な思いをせずに済む。ほんとはそうしたいって思ってるくせに。そうなんだろう?なぁ‥」


 ああ、もう腹立つ!今すぐそう言いたい。でも、それは無理でしょ。

 私はぐっとお腹に力を込めてゆっくり息を吐きだす。

 そうすると煮えたぎった怒りが少しづつ身体から放出されるんですよと侍女のネネが教えてくれた。

 やっと、少し落ち着いた気持ちになれて言葉を紡いでいく。でも、私だってと少し、ほんの少し反論する。

 「いいえ。とにかくアッシュ様。私が気に入らないのはわかっています。だから私はあなたの行動には何も言いません。あなたはあなたの思うようになさっていただいて構いませんので。但し私はあなたの婚約者。そして形だけの妻。ですが次期レーヴェン公爵夫人ということは変えようのない事実ですだと言うことは忘れないで下さい!」

 心の中では自分が気に入られていないと分かっている。でも、我慢は限界だった。

 「もういい。お前がそこまで言ったんだ。はっ!俺は好きにさせてもらう。結婚してもお前とは書類の上だけの妻という事だからな!覚えておけよ」


 アッシュ様の勝ち誇った顔。

 なに?あれ。いい加減ムカつく。

 「構いません。その代り一つだけ条件があります。私とは白い結婚にさせていただきます。いいですよね?これくらいのわがままは」

 私にだって心はある。こんな男に抱かれたくはない。絶対に!

 「ああ、その方がこっちも都合がいい。お前を抱かなくていいなんてお前から言ってくれるなんて、良かったよ。その代り俺の行動には一切口出しするなよ」

 「はい、もちろんです。これからも婚約者。そして夫婦としての最低限の社交のみ行う事で構いません。では、私はこれで失礼します」

 まさか、こんな展開になるとは予想もしていなかったけど、良かった。一番不安な部分が解決したわ。

 思わず心の中でガッツポーズ!



 「チッ!生意気なやつ」

 アッシュ様は舌打ちをしたがすぐに気持ちを切り替えたらしい。

 くるりと向きを変えるとリベラに声をかけた。

 「まったく、可愛げのない女だ。おい、リベラ、お前も友達連れてこいよ。一緒に飲みに行くぞ!」

 「ええ、あなたって意外と冷たいのね。アッシュに焼きもちも焼かないなんて。あなたそれでもほんとに女なの?フフフ‥」

 ふたりは笑いながら私から離れて行った。


 




 

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