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16辺境領に戻る


 私達は早速領地に向かった。

 隣国のロガワロ国は広大な国土を持った国だがシガレス国は小さな国だ。

 辺境領まで馬車で一日もあれば着く。今日は出発が遅くなったので一泊は宿に泊まり翌日にはベネット辺境伯領に着いた。

 「ただいま。バクショット兄さま。ダリア義理姉様。わぁぁ~シモン。また大きくなったんじゃない?」

 3人に出迎えられて私はほっとする。

 お父様は執務室と聞いてアッシュ様の失態を話して別居することを話した。

 「お前がそうしたいなら好きにすればいい」

 お父様はぽそりとそう言うとすぐにに机の書類に目を落とした。

 「ありがとうございます。私も兄様の仕事を手伝ってもいいですか?」

 「ああ、邪魔にならないようにな」

 「はい」

 父の髪にはちらほら白いものが混じるようになった。無理をしないでほしいと思う。

 「お父様。無理はなさらないで下さい。こんな私でも少しはお役に立ちたいんですから」

 「ああ、お前はいつだって役に立っている。それに役に立とうなんて思わなくていい。お前は大切な家族なんだ。わかってるだろう?」

 いつになく父は饒舌だ。

 一瞬その言葉はレーヴェン公爵家とのつながりの事だろうか?とも思ったが。

 「あいつと結婚させたのは間違いだった。バグショットからも怒られた。私はミュリアンナともっと話をするべきだったと‥すまなかったミュリアンナ。女の子はどう接していいか分からず‥」

 「そんな。私の方こそ‥おかしな勘違いをしていました。お父様が私を思って下さっている事はずっと前からわかってました。でも、そんな風に言ってもらえるとすごくうれしいです!」

 ほころぶように笑顔がこぼれた。

 そんな私を見て父も頬を緩めた。

 「離縁したければ何時でもしていいからな。借金はもう返し終わっている。お前は家の大切な娘。いつでもお前は自由なんだ。わかったな」

 私の心を見透かすように父が優しい顔で私を見つめていた。

 長い間あった凍り付いた氷塊は急速解凍して、わだかまりと言う氷は解けて行った。

 そうか、私、変な心配する必要ないんだ。

 抱えていた鎖がすぅっと外れた感じだった。

 「ええ、お父様わかっています」

 浮足立つってこんな感じなのかな?

 父の執務室を出るときの私はまるで羽が生えたみたいな気分だった。


 それから私はあの馬車のアイディアをバクショット兄様に話して悪路でも使える馬車の試作品の製作に取り掛かっていた。

 そんなある日ルカ様がひとりで尋ねて来た。

 「ミュリアンナ。久しぶり元気だったかい?」

 作業場には私一人で屋敷で私がここにいると聞いて来たらしい。

 「‥ま、マクファーレン副隊長。どうしてここに?」

 私は髪は無造作に後ろで束ね、服は作業の為にズボンとシャツの姿で彼を出迎えた。

 「いやだな。そんな畏まった言い方。ルカでいい。ああ、実は騎士隊でまとまった軍馬が必要でベネット辺境伯にぜひお願いしたいと思って‥そんなことよりミュリアンナはあれから‥なにしてるんだ?そんな恰好‥とってもかわいいなぁ」

 ルカ様がふっと目を反らしてかわいい?そんな事言うはずがない。でも、私を妹みたいに思ってる所もあるから‥

 それにしても幼いときの記憶が戻ってから会っていなかったというか急いでこっちに来たから。

 その方が良かったとも思っていたけど。

 もう、どんな顔をして彼と向き合えばいいんだろう。謝るべき?でも、今さら?ううん、やっぱり思い出したからにははっきり謝らなくちゃいけない。

 心の中で押し問答をしていると。

 「何考えてるんだ?さっきから様子がおかしいな‥」

 彼の屈託のない態度。覗き込まれた瞳は相変らず片方だけなのに私の心をときめかせる。

 ああ…もう、黙っているなんて出来ない!

 私は何度も深呼吸を繰り返してやっと勇気を絞り出す。


 「‥あの、実は私‥‥ルカ様に謝らなくてはいけない事が‥」

 そっと俯いた顔を上げて彼の顔を見る。

 ああ‥何て言えばいいの?ルカ様の目はもう‥

 「なんだい?そんなに改まれると緊張するな‥」

 ルカ様がふんわり微笑む。

 いけない。きちんと謝らなきゃ!!

 私はがばりと腰を折る。一度深く頭を下げるとその勢いに任せて‥

 「ルカ様本当に申し訳ありません。私のせいで目を怪我させてしまって本当にごめんなさい」

 そこまで言うと今度は身体を起こして彼を真っ直ぐに見て真摯な気持ちで向き合う。

 「謝ってすむことではないってわかっています。こんなの言い訳ですけど私ずっとあの日の記憶がなくなってって‥あの日。夫に襲われた夜に思い出したんです。本当にもうし「ミュリアンナ!」

 私は彼に抱きしめられた。

 私は両手を自分の身体に巻き付けるようにしてどうしようもないほど怯えていたらしい。

 当たり前だ。彼のあのきれいでかけがえのない瞳を失わせたのだ。謝って済む問題ではない。

 身体が震えて恐くて仕方がないのは当然だ。

 「知ってる。あの時ミュリアンナは酷く怯えてどうしようもなかったんだ。それで催眠療法をしてあの日の記憶を消したって聞いていた。それにあれは事故だ。ミュリアンナのせいじゃない!「でも、私が余計なことをしたから男が怒って」そんな事誰も思っていない。悪いのは襲って来た夜盗だ。それに夜盗は処刑された。もう罪は償ってもらったんだ。だから」

 「ごめんなさい。あなたのかけがえのない物を失わせて‥」

 私はどうしようもない罪悪感で涙はひっきりなしに流れていて。

 ルカ様はそんな私の眦にそっと優しく指先を這わせ「そんな事を心配してたのか?俺が怒っていると?そんなこと思うわけがない。ミュリアンナは大切な人なんだから」

 「もう、ルカ様。勘違いしますよ」

 私の心臓はもはや空前の灯火に近い。抱きしめられこんな近くで顔を近づけておまけに勘違いしそうなことを言われたら。

 胸が苦しい‥‥過呼吸を起こした。

 「はっ、はっ、はっ、い、息が‥」

 「ミュリアンナ?おい、しっかりしろ!」

 私はそのまま意識を手放した。








 

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