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二人ならんでフリースローラインに立つ。言い出したわたしが先だ。
何度かバウンドさせてボールの感触を確かめ、シュートの姿勢をとる。ボールが手に吸い付くような感覚を覚える。
自然に力が抜けた。何度も何度も練習した動作。
構えたボールの向こうに見えるゴールを見つめ、放った。
身体が自然に動き、肘の動きに合わせ、ボールが両手を離れる。
――ぽしゅっ――
ボールは真っ直ぐにネットを目掛け、真ん中を射抜いた。
「うしっ」
思わずガッツポーズをとるわたし。やっぱり、入れば嬉しい。小走りでボールを拾いにいく。
センパイも放つ。綺麗なフォーム。
寸分たがわず、ネットの中心へと吸い込まれる。
「やりますね、センパイ」
「ふふん、お前もな」
お互い、口元に不適な笑みを作る。
ぽしゅっ
「お? わたしもまだいけるんじゃない」
「おれだって、まだまだ若い」
がだんっ
「ダメダメじゃないですか」
「う、うるさい、今のは手が滑ったんだ。もう一回やらせろ、もう一回」
二人で、話をしながら、何度もシュートを繰り返す。身体で覚えたものはそう簡単には忘れない。
全ては変わっていく。それでも、変わらないものだって、一つや二つくらいはあってもいい。
「ねぇ、センパイ」
「なんだ?」
「今度、内履きもってくるんで、1on1やりましょう」
「おぅ、いいじゃん。やろうか。ついでに、その後、飲みにでもいこうな。いい店知ってんだ」
「いいですね。わたし、これでも結構飲めるんですよ」
「何言ってんだ、おれだって大学のときはビールを両手に持って……」
体育館に響くボールの音が二つ。
夕日の中に踊る影が二つ。
これはこれで、いい。そう思った。
夕焼けが茜色に燃えている。
センパイと二人、通学路を歩く。
「ねぇ、センパイ。あの公園覚えてます?」
「ああ、あのボロい公園だろ?」
「せめて『風情がある』とか言いましょうよ」
私達の足は高校生の時と同じようにその公園へと向かっていた。
駅から、小道へ一本入る。
しかし、公園の入り口で二人揃って立ち止まることになった。
唯一つのベンチ、そこには既に制服姿の男女が座っていたからだ。
センパイをみる。やれやれと、苦笑いをしていた。
「先輩らしく、後輩に譲ってやるかな」
「そうですね」
幸い向こうはこちらに気づいていないようだ。見つからないうちにこっそりと退散する。
「いやいや、若いっていいですね」
「ばーか、何言ってんだ。おれ達もまだまだ若い」
「まぁ、そういうことにしましょうか」
暮れる夕日、どこからか現れる制服の群れ。何年前かのわたし達。
「センパイ、送っていただいてありがとうございます」
改札の前で立ち止まる。
「いや、別に、せっかくだから、もうちょっと話したかったし」
「それじゃ、また。今度、ホントに1on1やりましょうね」
背中を向け、改札へ向かう。
「あ、ちょっと待って!」
わたしは、もう一度センパイの方を向いた。
センパイは、わたしに微笑み、言った。
「結婚、おめでとう」




