7 揺らぐ証言
スフィンクスの背後に朝陽が差し込み、砂漠の広大な地平線を金色に染め上げていた。
調査団はリーダー殺害事件の謎を解くべく、現場に戻り、砂地や保管室のさらなる調査を進めていた。
零は助手たちに指示を出しながら、現場で見つかった砂の異常に注目していた。
「犯人はこの砂漠の特殊な環境を利用して証拠を隠した可能性がある。砂の状態をもう一度細かく調べてくれ。」
助手たちは頷き、砂地の調査を進め始めた。
その中で、零は保管室の管理を任されているアミールの様子をじっと観察していた。
彼の態度にはどこか落ち着きすぎた冷静さがあり、それがかえって不自然に感じられた。
午後、零はアミールを伴い、保管室の記録について再度確認していた。
「アミール、鍵をリーダーに渡した夜のことだが、彼がどの遺物を調べていたかはわからないのか?」
アミールは少し考え込むような仕草を見せながら答えた。
「正確にはわかりません。ただ、彼が特定の棚を何度も確認していたのは確かです。」
零はその言葉を聞きながら棚を調べ、微かな傷跡を見つけた。
「この傷跡は何かを取り出した際にできたものだろう。その物が事件と関係している可能性が高い。」
アミールは言葉を選ぶように慎重に続けた。
「リーダーは発掘した遺物の中で、特に重要そうなものを調べていました。それが何を意味するのかは私にはわかりません。」
零はアミールの視線を捉えながら、さらに質問を投げかけた。
「保管室の中で、特に異常を感じたことはないか?例えば、誰かが侵入しようとした形跡や、物が勝手に動かされたようなことは?」
アミールは一瞬ためらった後、答えた。
「特にはありません。ただ…事件の前夜に少しだけ音が聞こえた気がします。」
零はその証言を聞き、静かに考えを巡らせた。
「音の方向は?」
アミールは保管室の奥を指差した。
「この辺りから聞こえたと思いますが、何かを確認したわけではありません。」
夕方、調査団全員がテントに集まり、これまでの調査結果を共有していた。
零は砂地の異常について改めて説明した。
「現場で見つかった砂の異常な密度。それが犯人のトリックを解く鍵になる。犯人は砂漠の温度差を利用し、短時間で凶器を消す仕掛けを作った可能性が高い。」
助手の一人が質問する。
「零さん、砂漠の温度差だけでそんなことができるんでしょうか?」
零は頷きながら答えた。
「通常では考えにくい。だが、遺物に特殊な性質があった場合、それを実現できる可能性がある。」
その言葉に調査団全体が息を飲んだ。
「犯人はこの遺物の特性を知っていた人物だ。その人物を特定するのが次の課題になる。」
調査団の中に緊張感が広がり、誰もが静まり返った。
その中で、アミールはじっと零の話を聞きながらも、どこか淡々とした表情を崩さなかった。
夜、零は一人テントに戻り、これまでの証言と調査結果を整理していた。
ハルが念話で話しかけてくる。
「零、アミールが言ってた音の話、どう思う?本当のことを全部話してるのかな?」
零は軽く頭を振りながら答えた。
「まだわからない。だが、彼の証言には微妙な曖昧さがある。それが真実を隠しているのか、ただの勘違いなのか。」
ハルは少し考え込んだ後、念話を続けた。
「でも、アミールが保管室の全てを知ってるわけじゃないとしたら、誰かがすり抜けた可能性もあるよね。」
零は静かに資料を閉じ、スフィンクスの方向を見つめた。
「犯人のトリックを解き明かせば、それが誰なのかも自ずと明らかになる。」
星空が広がる砂漠の静寂の中で、零は次の調査に向けて頭を整理していた。