4 容疑者のアリバイ
砂漠の夜が明け、スフィンクスが再び輝きを取り戻す頃、調査団は事件の解明に向けて動き始めていた。
零は助手たちを集め、これまでの調査結果を整理しつつ、新たな手掛かりを探していた。
「凶器は消えている。そして砂地には特殊な痕跡が残されている。犯人がこの環境を利用したトリックを仕掛けた可能性は高い。」
零は現場写真を示しながら話を続けた。
「特に、昨夜のアミールの証言にあった石材が気になる。その特性が事件に使われたのかもしれない。」
助手の一人が質問する。
「零さん、その石材がどのように使われたのかを突き止めることが重要ですね。」
零は頷き、視線をアミールに向けた。
「アミール、その石材についてもう少し詳しく教えてくれ。」
アミールは一瞬考え込み、慎重に言葉を選んだ。
「その石材は、保管室で他の遺物と一緒に見つかったものですが、表面に独特の模様がありました。リーダーはそれを特別視していました。」
零はアミールの話を聞きながら、遺物リストを手に取った。
「その石材はどこに保管されていた?」
アミールは静かに答えた。
「保管室の最奥の棚です。事件当夜も間違いなくそこにありました。」
午後、零は保管室を再調査するためにアミールと共に向かった。
砂漠の乾燥した空気が保管室内にも入り込み、遺物の保存状態に影響を与えないかが懸念されていた。
零は遺物が置かれていた棚を丹念に調べながら質問を投げかけた。
「アミール、君が管理するこの保管室に、不審な点は他にないのか?」
アミールは少し間を置いて答えた。
「特には…。ただ、リーダーが亡くなった後、鍵の位置が微妙にずれていた気がします。」
零はその言葉に注意を向けた。
「鍵がずれていた?それは誰かが侵入した可能性があるということか?」
アミールは首を振りながら言葉を続けた。
「確証はありません。ただ、自分でも見間違いかもしれないと思って深く考えませんでした。」
零はその説明に静かに頷き、棚の裏側にある微かな傷跡を発見した。
「この傷はなんだ?」
アミールは驚きの表情を浮かべた。
「そんなものがあったなんて気づきませんでした。保管室を確認するときは、特に問題がないように見えました。」
零は棚の傷を指でなぞりながら考え込んだ。
「この傷跡、誰かが何かを持ち出すときに残した可能性がある。」
夜、調査団のテントに戻った零は、一日の調査結果を整理していた。
ハルが念話で話しかけてきた。
「零、アミールって本当に全部話してるのかな。なんか、まだ隠してる気がするよ。」
零は軽く頷きながら資料をめくった。
「確かに、彼の言動には一貫性があるが、それが逆に怪しい。すべて計算された行動のようにも見える。」
ハルは少し考え込みながら続けた。
「でも、アミールがもし犯人じゃなかったら、誰がやったのかな?」
零は静かに答えた。
「まだ全てを断定するには早い。ただ、保管室の状況と砂地の痕跡が示すもの、それを突き止めれば真実に近づける。」
スフィンクスの影が夜空に沈む中、零は次なる一手を考えていた。
事件の核心へと向かう道筋が少しずつ見えてきていた。