2 容疑者の影
朝陽が砂漠を照らし始め、スフィンクスの影が徐々に短くなる中、調査団のテントには緊張が漂っていた。
リーダーの突然の死により、調査団の面々は動揺を隠せなかった。
零は冷静に周囲を見渡しながら、現場に残された痕跡を再確認していた。
「凶器がない。砂漠のどこにも埋められていないのか?」
零は助手たちに指示を出し、現場を隅々まで調査させていた。
助手の一人が声を上げた。
「零さん、金属探知機とレーダースキャンで砂地を調べましたが、凶器のようなものは見つかりませんでした!」
零はその報告を聞き、思案に沈んだ。
「どこにもない…。凶器そのものが特殊な性質を持っている可能性が高い。」
調査団のリーダー格だった人物が撲殺されたことで、団員たちの間に疑念が渦巻いていた。
特に疑われているのは、事件当夜にリーダーと口論をしていた若手考古学者ミケルだった。
「確かにリーダーと口論しました。でも、殺すなんてあり得ません!」
ミケルは苛立ちを隠せない様子で声を荒げた。
零はミケルの話を聞きながら、その様子を冷静に観察していた。
「君が犯人かどうかはまだわからない。ただ、事件当夜、保管室に近づいたという証言がある。」
その言葉にミケルは動揺し、口ごもった。
「…近くを通っただけです。本当にそれだけなんです。」
その時、アミールが現場にやってきた。
彼は調査団の他の助手たちに指示を出しながら、砂地を調べていた。
「零さん、保管室の鍵に異常はありませんでしたが、昨夜の夜中に何か気配を感じました。」
アミールは低い声でそう語った。
零はその言葉に目を細め、尋ねた。
「気配?それは誰かが保管室に侵入しようとしたということか?」
アミールは慎重に言葉を選びながら答えた。
「いえ…確証はありません。ただ、砂漠の静けさに紛れて、妙な音が聞こえたような気がして。」
零はその言葉に頷き、続けて質問した。
「その音がどの方向から聞こえたのか、覚えているか?」
アミールは少し考え込みながら答えた。
「保管室の背後、スフィンクスの影のあたりだったと思います。」
零はその言葉を聞き、思案に沈んだ。
アミールの証言は一見、些細な情報のように思えたが、どこか引っかかるものがあった。
その日の午後、零は現場を再調査しながら、アミールと共に遺物の保管状況を確認していた。
アミールは細かく記録を整理しながら、冷静に状況を報告していたが、零はその動きの中に微かな焦りを感じ取った。
「アミール、保管室の鍵は君しか管理していないのか?」
零が問いかけると、アミールは少し驚いた表情を浮かべた。
「はい、私が全ての管理を任されています。他の人間が触れることはありません。」
零はその言葉を聞きながら静かに頷いた。
「そうか。引き続き、保管状況を確認しておいてくれ。」
夜、砂漠の星空の下で、零はテントに戻り、一人考えを巡らせていた。
「アミールの言葉には違和感がある。彼が何を隠しているのか…。その答えが、この事件の鍵になるかもしれない。」
スフィンクスが静かに見守る中、零の推理は次の段階へと進みつつあった。