尋問記録+短話
完成された物は新しく産まれる物の障壁となり得る
呪縛者との戦いから早数十時間、地上から聞こえる戦勝の熱狂が薄暗く照らされるとある地下室を時折揺らしていた。
「ベルカ様…兵器への神経接続の負荷が残る身体で余り動かれるのは……」
未だ意識が目覚めぬヘラルドの前に佇む獣人の女性、そしてそのお側で平伏する黒い法衣に身を包む嗄れた声を震わせる男達が身を案じて恐る恐る進言する。
「にゃーの事は心配無用。 ソレよりも偵察部隊や他の部隊の稼働状況に問題は無いニャ?」
「ハッ……他部隊並びに支援部隊の稼働は依然良好で御座います。 多国への情報操作、否定的な王族や貴族の始末は順調です」
「それなら安心にゃ…皆御苦労。 もう持ち場に戻ってくれ」
「ははッ! 何か有りましたらいつでもお呼び下さい。 その為の【クロユリ】なのですから」
そう告げて男達は転移魔法で地下室から姿を消した。
人型兵器の操作には例え頑強な肉体を持っていたとしても多大な負荷が掛かり、例え1時間だけの稼働だとしても莫大な体力消費を強いられる。 こんな消費が身体に負担が掛からない訳無いのだ。
その証拠に女性の身体は猫の様な体毛が生えているのにも関わらず目視からでも分かるほどに肋が浮き、夥しい数の古傷から血が滲んでいた。
然し当の本人の意識は共に戦った戦士に注がれていて見つめる瞳には熱が孕んでいる。
「ヘラルド……お疲れさまにゃ。 でもこれからにゃ…戦いはまだ始まったばかりニャ」
「・・・でも今そこに居るのはヘラルドでは無いニャよね? 出てくるにゃ」
そう彼女が問いかけると、眠りから目覚めぬヘラルドから荒っぽい女性の人の声が響く。
「あぁ?気付いていたのかよ子猫ちゃん」
「バレバレだったニャ。
ヘラルドとの会話の際にずっと気になっていたニャ……ヘラルドは二重人格だったんにゃね」
薄暗い地下室をヘラルドの赤いカメラセンサーの光がコンフェの瞳を細めさせる。
「残ぁ〜念。 正解は多重人格でした…アタシはアイツの副人格と言う立ち位置なんだわ」
「つまり他の人格も存在しているニャね」
「その通りだよ。 アタシ含めて他の人格もヘラルドと一緒に戦うアンタを観ていたってわけ」
「うにゃ、ヘラルドは精神疾患患者だったんにゃか……もしかして私はヘラルドに無理強いしていたの?」
コンフェの尻尾が落ち込む様に力無く床に付くのを見てヘラルドだった人格が顎があったであろう部位に手を据えながら様子を見ていた。
「あ〜その点は心配すんな、ヘラルドの奴は確かに生命の削りをたのしんでいたから。 ・・・ただ人格が際限なく増えたのは肉体を兵器に変えられてからの出来事だし」
「そ、そうなのかにゃ? でも……何でなのかにゃ」
当然の疑問である。 ヘラルド自身は普段不器用だが子供達にせがまれて食べ物を作り与える様な性格を見せているので凄惨な想いを滲ませている事が無いのだから想像がつかないのだ。
「話すと長くなるけど聞きたいか?」
「教えて欲しいかコンフェちゃん? 他人の過去……ましてや異星人の重荷を背負う事になるとしてもか?」
「それでも、ヘラルドの事知りたいにゃ」
「全くアイツは何処に行っても人垂らしだな…。 じゃあ教えてやるよアイツの過去をな。 先ずアイツの名前はヘラルドでは無くハービンジャーつう名前なんだよ」
「それはコードネームでは無いのかにゃ。 名乗る時は何時もヘラルド呼びだったのに」
「確かにな、だけど其れは人間だった頃の名前だったんだわ…兵器としての呼び名ハービンジャーが正しいんだ」
「つまり人間では無いかのような言い草だにゃ」
「そうだ。 今のハービンジャーは唯、機械にヘラルドと言う人格を複製しただけさ……人としての人生は軍人として死んでいる」
「そう…だったんにゃね・・・でも多重人格な理由は?」
「まあ最後まで聞けって……、兵器つうのはな大量量産出来て初めて兵器って呼ばれるんだよ。 バックアップ含めてな。 兵器にされたのはヘラルドだけじゃないってことさ」
不意に地下室に響く服ズレの音と息遣いが大きくなる。
「ヘラルド以外にも兵器として生き続いていた人達がいたって事なのにゃね……」
「そうゆう事だ。 プロジェクト名は【ファンタズマ・レゴリス】戦死した軍人達の記憶を人型兵器ハービンジャーに統合して死してなお戦わせるクソッタレな計画だよ」
「ニャーの星もチラホラヤバい輩は居るけどそっちの星は悪魔みたいな奴しかいないのにゃ!?」
倫理観や善性を殴り捨てたかのような所業にコンフェは痛む身体を気にしない程に驚いていた。
「あぁ、全く持ってその通りだよ糞が。 でも戦争が終結してから計画に賛同した政治家や企業共はハービンジャーの報復テロで惑星ごと地獄送りになってくれたけど……アイツだけ残して皆死んじまった。 ・・・そのせいでヘラルドはアップロードされた他の人格の全てを限界まで詰め込む羽目になっちまった」
「そりゃぁ何らかの問題が発生するのは無理もないニャ。 でも何でこの星に来たんにゃろ?」
「ヘラルドの人格剥離の症状はその後の切っ掛けが決定打になったんだ」
「其れは…一体……」
ヘラルドの身体が小刻みに震え冷却装置から怒りの吐露が漏れ出す。
「あのクソッタレ人類共はぁ!! 臭いものに蓋をする様にヘラルドを地球から追い出したんだ!!!! ぜってぇに許さねぇ! アイツが……アイツが何したって言うんだよッッ!! 臆病なアイツを戦場に追い立てたクセにぃッッッッ! 」
「だから興奮したり急激なストレスが掛かった時に会話にズレた二重の声が発生したんにゃね」
「はぁ・・・・以上がアイツの身の上話さ、お前はアイツを雇ったからにはヘラルドの症状に付き合ってやらにゃぁならん訳だ。 それを聞いてもなお側にいるのか?」
それを聞き、暗い筈の地下室に空の星星の様に光る猫目に忙しなく動く尻尾が埃を舞いさせる。
「魔法で結んだ誓約は絶対ニャ。 ……ソレに! 一目惚れした男を手放す程馬鹿な餓鬼じゃ無いニャ!!」
「・・・く、クハハハハハハァッッ!! コンフェやっぱりアタシの勘通りだ。 悔しいけどアタシよりもヘラルドの側居るのが適任だ! アイツの事任せたよ! あの寝坊助もうすぐ起きるからさぁ……本当にマジで頼んだよ。 アイツの事裏切ったら殺すからな」
「ニャーに任せるにゃ!」
「アイツの名前はロベリア・サリバンだから覚えときなコンフェちゃん……じゃあ頼んだよアイツの事…を」
そう言いながらサリバンと言う女性はカメラセンサーの赤い光と共に消えていった。
「さぁ! にゃーが出来る全力を見せてやるにゃ!!」
頬を叩いて痛む身体を奮い立たせて工具を持ち地下室を出ていく、そこには未来を暗示するかのように血の道筋ができていた。
二人の行く末に幸あれ。
◆◇◆◇
あり得るかも知れない未来。
荒野に降り立つドラジェの元にとある機体が急接近する。
《ヘラルド、調子はどうだい?》
「問題無い」
《発掘された人型兵器のデータを統合し、作り上げたオペレーション。 無数の戦場を渡り歩いたアンタとアタシの頭脳》
《そして、この機体。 これが負けるとは思えないけどね》
「ロベリア、お前が欲するのは果て無き戦いの世界……そして破滅」
「その意味では、私の思惑は一致している」
「一大勢力によって作られる秩序など私の生きる世界では無い」
《ソレを破壊する為に残った人間性を再び捨てると言う訳?》
「戦いの中でしか私の存在する場は無い。 好きに生き理不尽に死ぬ」
「それが私だ、肉体の有無では無い」
「戦いは良い、私にはそれが必要なんだ」
そうしてドラジェとハービンジャーの最後の戦いが始まった・・・・。
◇◆◇◆
発掘品の検品編。
「コレは爆撃機の照準器」
「コレは遊星ギアボックス」
「コレは……フワフワのテディベア」
「コレは非常食用のカロリーバー」
「コレは……何だ? う〜む、恐らく…多分家庭用自動掃除機」
「コレは人体強化神経インプラント。 ここは夜の都市じゃない」
「コレはМの文字入り帽子だ。 モザイクを頼む」
「コレはクリスタルだ。 ・・・興味ないね」
「コレは星付きの魔法の杖。 早く湖に返してこい」
「コレは赤い龍の鱗だ。 ・・・一狩り行かないぞ私は」
「コレは捻れた大剣だ。 暗い魂に祝福あれ」
「コレは機雷だな……、ん? 機雷!? み、みんな退避ィィッッ!!!!」
◆◇◆◇
戦ってない夜を知らない奴ら。
「戦っているだけで退場」
「ソレをそっかそっかて言って」
「戦いにゃついて討論」
「何が戦いって思うニャ」
「生意気そうにライフル撃ち尽くし」
「戦いも良いな良いなって思う」
「ドットサイト越しの感情操縦席に詰め込んにゃ」
「戦ってない夜を知らない」
「戦ってない夜が気に入らなニャイ」
「戦ってない夜を知らない」
「戦ってない夜を気に入らないよ」
「気に入らない夜なんてにゃーは知らない」
「戦ってない夜が夜なんてとってもとっても退屈だ」
◆◇◆◇
とある町中で。
「凄いなコンフェ。 商店街が活気で満ち溢れているぞ」
「当然ニャ。 ここら一帯の店は全部緑花複合商業社の支援を受けているにゃから」
「なるほどなぁ……あ、コンフェあの店は何だ?」
「アレは娼婦と色々する店にゃね」
「凄いな……あ! 見ろコンフェ、あのネェちゃんお前より胸がDEKA」
「死にたいのかにゃッッ???」
「ヒィィィ!! ズビまぜんでしだ! 二度と言いませんん゙!!」
「分かれば良いニャ。」
【錬金釜】 錬金術師や調薬師が扱う魔法薬やポーションを作る為の釜。 無垢なる魔法の火でのみ熱される錬金釜は人の時代と共にあり 叡智である。
【無垢なる火】 錬金術師や調薬師が最初に学ぶ魔法 決して燃え移らず優しく暖かい魔法の火。 古い時代に亡者の騎士は優しいこの火によって正気を保ち続けていたと言う。
【導きの要石】 冒険者ギルドマスター「ソラール」の無き友であるアッシュが託した 赤い鉱物が張り付く宙に浮き続ける不思議な要石 常にダンジョンの下層への道を指し示す。 導きとは道に残る足跡であり悲しみを背負う苦難の道でもある だからこそ人は歩み続けるのだろう