冷たき霊廟の呪縛者
【シグレ】 正式名称 ハルカンドラ社傘下 グレイグインダストリー製自動式散弾銃シグレ。 最大装弾数十二発の本銃は未知の惑星での原住民を効果的に制圧する為のガードメカの副武装として搭載されていた物の一つであり 魔法と呼ばれる技術を持った者をアウトレンジから無力化する為に開発された。 今ではこの星の原住民の為に扱われている。
【カラサワ】 正式名称 オールマインダー社製実弾系追従支援兵器カラサワ。 この星で目下に活動していたと考察されている肉体を持たぬ者が製造したと考えられる兵器であり、使用者に追従して射撃支援を行う事を目的とする。 不思議な事にその他の発掘品との互換性が確認されている。
《3…2…1。 メインシステムより作戦開始時刻をお知らせします》
《ミッション説明を再生します。 サルヴァ王国領の迷宮商業都市【リッチランド】に侵攻する呪縛者の殲滅です》
《既に冒険者や辺境伯の兵隊による防衛部隊が展開されていますが戦況は芳しくありません……敵目標は魔物を統率し、冷気を操ることから冷たき霊廟と呼称されている呪縛者の殲滅が主目標になります》
《この作戦は貴方の力を初めてこの星で示せるまたとない機会です。 また、僚機は我等の代表コンフェ=ドール=ベルカ様の駆るドラジェが出動します。 ………代表をどうか宜しくお願いします》
《メインシステム戦闘モード起動します》
◇◆◇◆
謁見から数日の間に怒涛の様に物事が動いて目眩がする程に気疲れしてしまいそうになってしまいそうになる。
謁見が終わった途端にコンフェが乗り込んだドラジェに先導され、コンフェや部下達が働く職場を案内された。
大理石を隅々に使われた異質過ぎる程に大きな商業用の建物、職人達の工房等が付近に建ち並ぶ他に従業員の宿舎が沢山の活気の中に存在していて思わず昔の地球の世界遺産を幻視する程に素晴らしかったな、そして何より人々の顔には汚染された大気に顰めっ面をしている奴がいないのが良い。
・・・私がコンフェと一緒に歩く姿を見て腰を抜かしたり錬金術師に転職したのか? と、聞こえる範囲で話すのは辞めてほしい……金属の身体にはガラスのハートが詰まっているんだぞ。
そんな弱音を心の中で吐いているとより一層に豪華な建物の執務室に案内された。
高そうな革製品や家具に思わず吐息が漏れそうになる。
「コンフェ此処は一体…?」
「此処がにゃーの仕事場だったんだニャ」
「全部が高級そうな感じだなぁ…」
触り心地や木の手触りの感触から分かる職人達のこだわりを感じるな……此奴相当な凝り性だな。
「当然ニャ! 使用する木材の年齢から場所までに拘ったオーダーメイドニャだからね」
やっぱりなぁ……村では下着でさえ家のそこら中に脱ぎ散らかしていたからそう言うのに無頓着そうだったのに。
「それでなぜ私を此処に? 部隊の創設で忙しくなるだろうに」
「うにゃ〜その為に最後の挨拶に来たんだけど……にゃ、そろそろ来そうにゃ」
そうコンフェが言い終わると執務室のドアの向こう側でにわかに騒がしくなり勢い良くドアが開けられる。
「社長!!? コンフェドール社長!? や、辞めるとはどう言う事なんですかッッッ!!」
「そうですよ! 一から順に説明してくださいッッ?
後、国王様から通告された軍隊の所有許可とはどうゆう事か説明して下さいッッ!!」
勢い良くコンフェに詰め寄ったのはメガネを掛けた神経質そうな人間の男性と秘書の様な女性が疲労と怒りの入り混じった表情で詰め寄られている……一体私は何を見せられているのだろうか。
「お、落ち着くニャ二人とmo」
「「落ち着けるわけないでしょうがァァァ!!」」
しばらく続きそうだな……。
◆◇◆◇
元副社長と秘書のコンフェへの説教タイムが終わったので内容を要約すると無断で里帰りするんじゃない、置き手紙だけで社長を辞めるんじゃない、どれだけ関係者並びに取引相手への説明にどれだけ苦労させられたと思っているんだ。
前々から兵器や機材の開発や発掘兵器の解析復元、人材の確保等を着々と計画が進行していたから良いが関係者各位に相談せずに急に国王様から許可を得るんじゃないと言う内容である。
う〜ん……此れは怒られてもしょうがないぞこれ、たん瘤がまるでピサの斜塔みたいに積み重なっているのは致し方ないだろう。
まあ、何だかんだ辞めることを辞めさせない辺り彼らは分かっていたんだろうなぁ……本当に優しい人達である。
説教が終わった後に私はコンフェと元副社長と元コンフェの秘書だった人達と共に地下施設に連れられていた。
活気に満ちていた地上の店舗の数々とは違う活気に満ちていて、コンフェと同じ種族の獣人から普通の人間や耳の長い長命種の森人や背の低く金属の見聞きが得意な鉱人等が作業服で忙しなく働いている様だ。
「凄いな……まるで私の故郷みたいな光景だ」
「にゃははは! 驚いたかニャ、此処がにゃー達が苦心して完成させた対深淵部隊支援本部【バロー・ヴァンガード】ニャ!!」
「凄くて当然です、この私【スネイル=マーシェル】もこの計画に参入していたのですから」
「ロンドール全盛期の地下施設跡地を流用したので二十年と少しの期間で建設出来ましたので破格の短さです」
コンフェの隣に立つ元副社長が自慢げに眼鏡をいじりながら嬉しそうに話す、秘書の女性も表情には出さないが誇らしげである。
「なるほどなぁ……然しこんなにも大規模な地下施設、許可を取る前から準備していたのか? 軍事行動が主な機能を持つ施設なんて国王様が知ったら反逆罪で皆お縄になるんじゃないか?」
そう私が言うと数秒の沈黙の後に3人が同時に口を開く。
「「「ば、バレてなきゃ問題無いッッ!」」」
大丈夫かコイツら・・・。
◇◆◇◆
あれから数分後。
「従業員各位、そして部署代表の方々が集まりましたね……」
御立ち台に上がったスネイルが広場に集まった安全帽を被った従業員達を見下ろしてから御立ち台の隣に立つ私達を一瞥してから従業員達に目線を戻す。
「耳の良い方はもう知っていると思いますが我々【緑花複合商業社】は国王様直々に軍事的行動の許可を頂きました。 これにより我々の悲願である忌々しい呪いと遺物の殲滅への足掛かりが出来ました。 これから一段と忙しくなるでしょう……各員は統率を欠かぬように」
スネイルがそう告げると俄に従業員達から歓声にも似た声が上がる。
その様な声に耳を澄ませて深く息を吐き、目を少し閉じた後に声を遮るように本題を話し始めた。
「各員静まりなさい……。 これより更に重要な事を貴方達に話さなければなりません………我等が社長コンフェ=ドール=ベルカ様は本日を持って緑花複合商業社の経営者としての債務から退く事になりました 」
それを聞いた広場の従業員全員の戸惑いの声が爆発したかのように広場を埋め尽くしてしまう。
鬼才で若い上に将来はさらに有望な人が辞めるとなったらこの様な反応は当然であり必然である。
そんな状況にも関わらず当の本人はどこ吹く風と言った佇まいであるが大丈夫なのだろうか、なんて考えていると元副社長のスネイルと入れ替わる形でコンフェは御立ち台に立ち、動揺隠せぬ従業員達に語り掛け始める。
「諸君……私は3歳の時に両親をデーモンと呪縛者によって喪った……墓には亡骸は無く今も何処かで生者の魂を求め彷徨っているだろう。 此処にいる皆が奴らによって大切な人達を喪った者が大半だろう………だが! その心の傷を舐め合う暇など無い!! 今も何処かで奴等は呪いを蔓延させている。 ………然し! 私達は国王から許しを得た、よって今此処に対深淵部隊の設立を宣言する!!!」
再び一瞬の静寂から爆発するかの声が広場を埋め尽くし、誰もが瞳に燃えるような闘志を宿している。
「予め編成していた諜報部隊や斥候部隊に発掘品の技術解析部隊等、補給部隊に配属された者はこれから地獄の様な戦いの運命が押し寄せるだろう! だが! 未来の子供達の笑顔の為に各自奮闘せよ!!」
その演説に思わず私自身も引き込まれた、それ程に言葉には力が宿っていた。 これがカリスマ…或いは物語の支配者と呼ぶべきか。
魂を揺らされた従業員達は一斉に駆け出すように持ち場に戻りだす。
「お疲れ様でしたコンフェ社長……いや、コンフェドール代表」
仕事の顔から普段の顔に戻ったコンフェにそう言いながらいつの間にか冷えた飲み物を差し出すスネイル現社長と黙って団扇で扇ぐ秘書の姿があった。
「うにゃ〜やっぱり何度もやっても演説は緊張するにゃねぇ……」
「良くもまぁ吃らずに喋りきれるなコンフェ、私なら絶対に噛み噛みになる自信があるぞ」
「こればっかりは経験の数が物を言うからにゃ……後は音の反響する場所で発声練習とかすると良いニャね」
なるほど……経験者が言うと説得力抜群だ、場数が違うんだなぁ、私は色んな戦場を渡り歩いたが兵器なので戦術等の情報共有は全てシステムを介したネットワークで行っていたので無駄口を叩く機会さえ無かったのもあるが、何より戦争自体が急に始まったのでコンフェの様な惹き込まれる演説を聞いたことが無かったのもあるがな。
「コンフェドール様、そろそろお連れになっているゴーレム擬きについてご説明して頂きたいのですが……」
「そう言えば未だ説明してもらってませんね、コンフェドール代表? ちゃんと説明して頂きますよ」
最初の様に再びコンフェに詰め寄る新社長コンビに思わず詰め寄られる原因の私も顔が苦笑いの表情に引き攣ってしまう、まぁ顔なんてあって無い様な物だけど。
「ちゃんと説明するんにゃから恐い顔しないで欲しいニャ……何から説明するかにゃ・・・ニャーが少し前に帰郷している間に青い彗星が宇宙から降ってきたのは知ってるかニャ?」
「貴女の置き手紙にあっちこっち奔走していたので空なんか見ているような暇は無かったのでどうだったか……【アナトリア】、貴女は何か知っていますか?」
眼鏡を外し、眉間を揉みながら話を振られた秘書が手帳をパラパラと捲りながら目を細める。
「確か……、非番の職員が食堂で彗星についての話題で盛り上がっていましたね。 昼間なのにあんなにハッキリと彗星が見えたのは吉兆か不吉な未来の暗示のどちらかなのではないのかと」
「成る程……代表、話の続きを」
「その彗星が降って来た時間帯に村から少し離れた砦跡で発掘調査してたんニャけど、森に彗星が落ちたもんだから見に行こうと作業を中断しようとしたら防衛兵器の人工竜機兵が目覚めて襲われたんだにゃ」
「ちょっと待って下さい……はぁぁぁぁ。 本当に! 貴女は何故そんなに問題を起こすんです!?」
「にゃーが悪いわけじゃにゃいのだけど……まあ良いにゃ、話を戻すと人工竜機兵に襲われていた所を助けてくれたのが彗星としてこの星に降り立ったヘラルドなんだニャ。 いや〜凄かったにゃ、巨体から繰り出される斧槍を弾き飛ばして発掘兵器みたいな物で風穴を開ける動作に一切の無駄の無い戦いぶりには惚れ惚れしたにゃね」
「情報量が多いですが成り行きは理解しました。 ……ですが何故一緒に行動しているのですかね?」
「そりゃあ趣味の研究の助手兼死神部隊の隊員として雇ったからニャ」
それを聞いた直後二人共に思考がフリーズしたパソコンみたいな表情になり、深い深い溜息を吐き出した。
「はぁぁぁあ!!……どんな脅威を秘めているか分からないゴーレム擬きを雇った!? 本当に貴女と言う人は! ……いや、もう良いです其れは貴女の選択なのですから。 でも本当に、はぁぁぁぁ……」
「んにゃ〜そんなにカッカしないで欲しいニャね、コレは鋼鉄の糸で結ばれた運命にゃ」
コンフェはそう言いながら私の脚部を指でなぞり、己が搭乗するドラジェを見やる。
そんなコンフェをスネイルとアナトリアは何処か憂いを含んだ眼で見つめた後に私の方に振り返る。
「あ、あぁ~その何だ……私の名はヘラルド=ルフ=ガトウ異星から本当は隠居を為にやってきた退役軍人だ…これから宜しく頼む」
「改めて名乗らせて頂きます。 私の名は緑花複合商業社 社長スネイル=マーシェル……まぁその何ですがね、えぇ…代表をよろしくお願いします。 ですが我々は貴方に未だ気を許した訳では無いので其の所はご理解頂きたい」
スネイルとアナトリアの鋭く張り詰めた目線に知らん振りをしながら握手を交わす。 勿論怪我させぬように注意をはらいながら。
「それなりの働きは保証する」
「このスネイル、コンフェドール様のご期待に添えるように異星の余所者である貴方を全力で支援して上げますので精々失望させないでくださいよ」
「私、アナトリアはスネイル社長の秘書兼死神部隊のオペレーターとして貴方に命令を出しますので統率を欠く行為は出来るだけ控えて下さいね」
こうして私は死神部隊の隊員として従軍する事になった。
この選択肢が良いか悪いかはきっとこの青い空と澄んだ風が教えてくれるだろう。
◆◇◆◇
《あ、あ〜聞こえていますかヘラルド?》
私のシステムを介した無線からアナトリアの声が響く。
「音量と音圧共に安定して稼働している大丈夫だ」
《其れは良かったわ…折角発掘して汗水流して復元して貰った代物だもの》
どうやら無線機材等も地中に埋まっているようだな、どうなってんだこの星は? いったい昔の時代にどんな事が……
《ヘラルド? 聞こえているなら魔導圧縮式射出台のレールB-2へ向かいなさい、コンフェドール様が隣で待機しているから馬鹿でも場所が分かるはずよ》
「済まないな、ヘラルド射出台B−2に向かい待機する」
おっといけない考え事をしていて聞きそびれる所だった。
私は急ぎ足で嫌でも見える空母のカタパルトの様な巨大設備に向かう。
ドワーフと呼ばれる者達やエルフに人間と獣人達がおっかなビックリしながら手に持つ携行灯で先導してくれる、私はソレに従いながら射出台に歩みを進める。
そうすると真横から見ていた配管や配線だらけの真横の景色から真正面に移り変わり全貌が見えてくる。 スキャンに映らぬ魔力の煙が立ち昇る四つのレーンの一つに待機するコンフェの姿もあった。
「あ! やっと来たにゃねヘラルド。 一分1秒を争うんだから急ぐニャ!」
「すまんコンフェ! 発掘兵装の選択やこの設備に圧倒されていて呆然としていたんだ」
言い訳がましいが本当に此処は凄まじいのである。 此処に来て数日間見学していたが銃弾の製造や発掘兵器の修復復元技術力は明らかに今のこの星の文明力では不可能な筈なのに渋い顔をしながらも従業員達は働き、発掘した機械類を使いこなす様を見て驚かない方が異常なのだ。
そして私を悩ませたのは発掘して復元した武装の多さである、パルス系兵装や実弾系兵装にエネルギー・プラズマ系兵装がほぼ完璧な状態であるのだからな。
その御蔭で出撃前だと言うのに装備するもので悩んでいた所存である。
「オペレーターアナトリアへ、待機位置に現着…指示を待つ」
《了解。 射出台の調整中だからそのまま待機状態を維持してください》
「ラジャー、……そう言えばコンフェはどんな兵装にしたんだ?」
「にゃにゃッ知りたいかニャ?」
「あぁ…知りたいな、戦場での動きをある程度知りたいからな」
人型兵器にとって僚機の戦闘スタイルはとても重要である。 近距離戦スタイル同士ならともかく近距離スタイルと遠距離スタイルだとお互いの射線を塞いでしまう可能性が有るので戦闘スタイルを把握は重要である。
「そうゆう事情で聞いたんにゃね…先ず主武装はエネルギーの揺らぎを敵にぶつけるパルスライフル【マグノリア】に副武装に人工竜機兵から分捕った斧槍を人型兵器にも扱いやすい様に改造した近距離武器。 肩の武装には左肩にシールドに右肩には六連装プラズマミサイルを積んだ中近距離戦スタイルだニャ!」
さ、流石だなコンフェ……戦い方に容赦無いし奇しくも私の強襲機としての戦い方に酷似しているな。
・・・後は懸念するとするならば火器の扱い方だが……。
「火器の扱い方はある程度把握しているかコンフェ?」
「そりゃあ勿論しているニャよ、安全装置の解除を仕方からや反動の逃がし方まで。 シールドやミサイル等の扱いまでバッチリニャ!」
「そうか…それなら安心して背中を預けられるよ」
一体どこまで異なる文明の理解が出来ているんだ? 確か発掘兵器の解析を行う所があると話していたな……機会があれば顔を出して見るかな…。
「そう言えばヘラルドはどんな武装にアセンブリしたんだにゃ?」
ドラジェから回線を介してコンフェが問いかけてくる。
「ん? 私の武装は主武装には愛銃の3000年式インフォーサー自動光線銃にコンフェ達が発掘した自動式散弾銃【シグレ】、左肩にはレーザーダガーのマデューラを右肩には発掘兵器の追従型の実弾オービット【カラサワ】を装備した近距離戦寄りの中距離戦スタイルだな。 ……だからコンフェとは戦い方が少し似ているかもしれんな」
私はそう答えながら左手に握るシグレのチューブマガジンから散弾銃の薬莢を一つ抜き取り照明にかざしながらコンフェに答える。
「にゃるほどねぇ……あ、そうそう戦いが嫌なら何時でも下りて構わにゃいからね。 ヘラルドはこの星の住人では無いから義理もないし強制しないよ」
「戦いを下りても良いだと? 面白い冗談だなコンフェ。 お前と出会ったあの日から私はこの星で生きる者となったんだ…そんな星の危機なら喜んで血濡れた腕が鳴ると言うものだ」
「そっか……そうゆう事なら反対はしないニャ」
こんなにも美しい世界を今更見捨てられる筈が無い、人が生き生きとしている世界で兵器として老若男女問わず殺戮した事への贖罪として生きるのも悪く無いからな。
なんて考えていると黄色い光を撒き散らしながら警告灯が光り近くの従業員達が蜘蛛の子を散らす様に退避していく、そして足元が振動と共に上昇しながら緩やかに回転し始める。
《出撃準備完了。 射出台の魔導圧力システムオールグリーン》
そんな声と一緒に足元が固定されて私の無線にコンフェに緊張を飲む息遣いが聞こえる。
「肩の力は抜いたほうが照準が合わせやすいぞコンフェ」
「そ、そうにゃね……いよいよニャーのやりたかった事が出来る反面、やっぱり緊張するにゃ」
「私が傍に付いているから安心してくれ。 穏やかな未来の為に高く飛ぼうじゃないか」
《地上ハッチ開きます》
ハッチが土を落とし薄暗い射出台に光と新鮮な空気が入り込んでくる。 太陽は私の身体とコンフェの機体を照らし、肩に描かれた【星喰らいの鴉の紋章】が陰を払い落とす。
《射出まで残り30秒。 両機、着陸地点への最終出力調整が完了。 ジェネレーター出力を長距離飛行出力へ調整してください》
「了解ニャ。 ドラジェのジェネレーターを長距離出力へ」
ドラジェの冷却装置から青い光が瞬き落ち、ブースターが青い炎を蓄える。
「こちらヘラルド。 ハービンジャーのジェネレーター出力ミリタリーパワーへ……」
《メインシステム起動。 出力調整開始》
身体の中をエネルギーが急速に巡りだして緋色を宿す。 そして射出台のレールから不思議な色の蒸気が空に昇っていく。
《射出まで10…9…8…7…6…5…》
脚を固定する射出装置からレールの先端に向かって電気が迸るの同時にドラジェと私は軽く膝を落とし衝撃に備える。
《4…3…2…1…射出装置起動!》
射出装置が一気に視界が歪む程に押し出し、メインブースターの推力で更に加速していき足が空中に投げ出される。
サルヴァ王国の建物の上を通り過ぎ。 平原や森林地帯があっという間に小さくなって行く。
《作戦領域までの到達推定時間は300秒》
メインシステムから到達時間を報告を余所に銃とオービットの動作と照準システムの互換性の確認を並列処理しながら気になっていた事をオペレーターに問いかける。
「オペレーター私の声が聞こえるか? 聞こえるなら聞きたいことがあるんだが」
《どうしたのですがヘラルド?》
「あぁ…今気づいたのだがオペレーターをするには現場の状況や作戦執行者の姿や状態を随時把握しなければならない訳なんだが。 ……この星では発掘兵器の様な復元出来る異星の技術力を利用しているしお世辞にも私の故郷とは違う文明だがオペレートする手段があるのか?」
私は未だこの星の事を何も知らないので発掘兵器等の発掘品を扱える組織や個人がどれだけ存在するのか、コンフェが見せてくれた科学とは違う技術力である魔法と呼ばれる概念。
まるで無垢な赤子状態であるのだ。 出来る事と言えば高速で飛び回り戦う事だけで趣味で少し料理が出来る程度である。
《私はウェザービューイングと言う魔法が使えますので心配無用よ》
「ウェザー……何だって?」
何かまた知らない魔法がでてきたな…話の流れ的に衛星映像技術的な感じなのだろうか。
《ウェザービューイングよ。 別名【千里視認魔法】 遠くを拡大して見ることの出来る魔術師の遠見の魔法の発展系よ。 この魔法のお陰で常に自らと縁が繋がった者をどんな場所にいても視認出来るの》
す、凄いな魔法と呼ばれる技術は……ソレさえあれば護衛任務が格段に容易になる上に縁の繋がりの基準次第では裏切り者の追跡監視が衛星無しで出来る訳だ。
「魔法とやらは凄いな…熟達した魔術師に敵無しって訳だな」
《そうでもありません。 この魔法が使えるのは私が知る限り片手で数えられる程しか居ませんし、一般な魔法使いの遠見の魔法が150メートルで熟達した者でも350メートル程です》
狙撃手としてはうってつけだなぁ…もしもこの星でも銃器が一般的に存在していたら狙撃手がわんさか出てくるのが容易に想像出来てしまう。
本当に恐ろしい星に来てしまったんだな私は、しかもそんな星の脅威となる深淵の呪いや呪縛者とやらがいる訳で……恐らく油断すれば私とて命が脅かされる。
・・・・気を引き締めなければ。
そんな事を考えていると大森林を抜けた先に大きな円状の防壁に囲まれた城塞都市らしい場所が薄い雲の下から見え始める。
《間もなく作戦領域です。 両機降下を開始して下さい》
「了解。 ドラジェ作戦領域へ降下開始するニャ」
オペレーターの指示を受けコンフェは緊張を振り払うように冷静な口調で指示道理の行動を始める。
「ハービンジャー降下開始する。」
私もコンフェに続き、薄い雲を抜けて地上に向かう。
ブリーフィングでは迷宮商業都市リッチランドへの呪縛者の侵攻を阻止し、ターゲットである呪縛者の殲滅だったか……。
防衛部隊が既に展開して居る様で城塞都市からあまり離れていない平原から少し離れた場所にある森までにあちらこちらから立ち昇る黒煙や聞こえる人々の剣戟や魔法と思わしき色彩の砲撃が上空から伺える。
そんな人々と相対するのは獣を醜悪にしたような生き物や人型に近い異形の生き物に身体が腐敗しているかの様な奴まで…、恐らくあれらが魔物と呼ばれる奴なのだろう。
そんな奴らが集団で森から都市に向かっている様子は南米の紛争地帯でのゲリラのさながらである。
《両機作戦開始!!》
「凄まじい光景だなコンフェ! レーダーの反応が多すぎて呪縛者がどれか分からん!」
「取り敢えず地上に降下して殲滅していけば森の方からあっちからお出まししてくるはずニャッ!!」
順調に私達は降下していきプラズマミサイルのロックオン距離に入る。
《メインシステム戦闘モード起動》
「行くぞコンフェ!」
「ドラジェの性能を全力で見せてやるにゃぁ!」
降下速度に加えてメインブースターの推力で加速しながらドラジェの肩のミサイルポッドから紫色の閃光を纏ったプラズマミサイルが地上で跋扈する魔物に着弾していく。
突然の空からの攻撃に魔物達は悲鳴を上げること無く高密度のプラズマによって灰燼となっている中に私達は強引に土煙を巻き上げながら着地し。マグノリアとエンフォーサーを構える。
「邪魔な取り巻きは殲滅ニャ!」
「ああっ! 了解した。」
コンフェがマグノリアのパルスエネルギーをプラズマミサイルの威力範囲から逃れた魔物達に照射する。
パルスエネルギーを当てられた魔物は次々と電子レンジに入れられた卵の様に内側から臓物を爆発四散させて死んでいく、そんな光景を観ながら私もエンフォーサーで魔物を穴だらけにして行く。
着地した時の土煙で見えなかったが少し遠い場所で人間達が戦っていたようで魔物を薙ぎ倒しているハービンジャーとドラジェが新たな脅威なのかと槍や剣、魔法の杖らしき物を此方に向けようとする者やそれを宥める者、混乱している者などで混沌としているのを余所に私とコンフェは淡々と集団で押し寄せる魔物を屠りつつ人間の様子を垣間見る。
《エンフォーサーの発熱限界を確認。 クールダウンに移行します》
「コンフェ! どうやら生身の人間達は私達が敵か味方か決めかねているみたいだぞ」
「うにゃぁッ! 敵が多すぎるニャ! こんにゃ形をしている以上仕方無いにゃ敵か味方か勝手に判断させといて良いニャ!!」
豚っ鼻の魔物を逆関節の足で蹴り潰しながら魔物の多さに冷や汗をかいているような声色で私の質問に答えるコンフェと共に持ち替えたシグレの散弾で蜥蜴を巨大化させて醜悪にした様な魔物の脳漿を次々と吹き飛ばす。
こんな状態では彼等を案じる暇など無い。 コンフェの言う通り彼等に判断させるしか無いなぁ…、ちょっと敵が鬱陶しいな【カラサワ】起動。
カラサワにエネルギー回路を開くと下に向けていた銃口を上げ、私から付かず離れ無い位置を飛び回りながら周りの魔物達に実弾の雨を浴びせ始める。
凄い便利だなコレ…現役時代にも欲しかったな…今更だがな。 カラサワには人工竜機兵と同じハルカンドラの刻印が刻まれているな・・・遥か昔にこの星と交流があったハルカンドラ……一体どんな会社だったのだろうか。
そう戦闘の最中に考えを巡らせているとオペレーターから新たな情報が届く。
《コンフェ様! ヘラルド! 呪縛者の反応を検知しました!! 森の方角からです!!!》
aaa…遂にお出ましか! 呪縛者…一体どんな強者なのだろうか、戦いは良い私にはそれが必要だ。
ソレに彼女がヘラルドに相応しい生き物かを選別出来るしね・・・。
《人格分裂反応を検知。 抑制信号強度再修正》
「行くぞコンフェ! 呪縛者は殲滅するべきなのだろう?(貴女には選別の余地があるわ…私が見極めてやるわ)」
「ヘラルド? ニャンか声が重なって聞こえるにゃ」
「唯の持病だから気にすんな!」
またか……まぁ対処のしようが無いが戦闘には支障は無いから大丈夫だと思うが。
「コンフェ! プラズマミサイルで魔物を牽制してそのまま森の中まで進むぞ!!」
「にゃにゃッ! 了解ニャ」
ドラジェのプラズマミサイルで魔物の包囲網に穴が空いた隙にブースター推力を上げ、高速で進軍を始める。
時折高速で進む私達を恐れずに立ち塞がる魔物を轢き潰しながら大木が多く生える森まで急速に接近していくと魔物の数が少なくなり始めたが代わりに急激な気温の低下と共に霜の降りた人らしき亡骸が増え始める。
《気温の低下を確認。 現在の体感温度マイナス3度を記録》
「かなり寒いな…何なんだこの温度の下がり方は…。 これが呪縛者とやらの影響なのか?」
「恐らくにゃ。 今までの呪縛者との戦闘記録に天候や自然に影響を及ぼす個体がいたニャ」
ブースターから青い炎を放射しながらコンフェがそう答える。
天候や自然さえも操れるのかよ…やはりこの星は地球とは違うんだな、汎ゆる可能性を考慮しなければ私が殺られてしまうな。
「雪だ…雪が降ってきたぞ」
「うぅ…少し寒いにゃね。 ドラジェに保温装置を載せて正解だったニャ」
過ぎ去る無数の星の様に打ち付ける雪が身体を冷やすのを感じながら木々の間を通り過ぎて行く度に人の亡骸が増えてくる。
・・・レーダーには反応は無いが恐らく敵は目前だと私の感覚がそう告げている気がするのをひしひしと感じずにはいられなかった。
すると突然雪で悪い視界の先に光が見えた瞬間、火器管制レーダーの劈く警告音に反応して反射的にスラスターで回避する。
「来るぞコンフェ!」
「うニャぁッぁッ!!」
視界の先から放たれた光は前方に生えていた大木の地面ごと吹き飛ばしていく。
《エンフォーサーの冷却完了》
ドラジェのプラズマミサイルが雪で悪くなった視界を紫色の光で照らしながら呪縛者と思わしき者に向かって着弾してその姿をプラズマが露わにする。
視界が悪く見えづらかったが私とコンフェは確かにその姿を視認する事が出来た。
二振りの大剣を握り巨大な体格に鎧を纏い、巨大でいて黒いヘドロの様な怪物を背負う石塊の巨人を…。
「何だアイツは!?」
「古竜と戦っていたと言われる巨人の戦士が本当に存在するニャンて…こ、こんなパターン初めてニャ!!」
私が姿を見た瞬間に最高出力のエンフォーサーの引き金を引きニードラーブラスター弾とドラジェのマグノリアのパルスエネルギーを放つと巨人は恐ろしい程の反射神経を見せて二振りの大剣で防いでしまう。
連射しているので防ぎ切れず身体のアチラコチラに当たって白銀の様な鎧が拉げるが巨人は鈍いのか意に介さぬ程と判断しているか。
「効いているのか分からんなぁ!」
「パルスエネルギーもプラズマミサイルも効果がイマイチにゃのか分からんにゃ?」
私達が一方的にどちらかが狙い撃ちされないように撹乱しながらも動揺を隠せずにいると突然巨人の大剣が光を纏う。
「何かヤバいっッ! シールドを展開しろコンフェ!!」
「くゥッッッ!」
ドラジェの青いシールドが展開した瞬間に巨人が素早く光を纏う大剣を振り被ると纏っていた光が飛ぶ斬撃になって木々と地面を吹き飛ばしながら凍らせながら私とドラジェに直撃する。
《シールド許容負荷残量65%》
「ヘラルド大丈夫かニャ!?」
シールドで上手く防いだコンフェが逆関節の跳躍力で巨人を翻弄しながらマグノリアを撃ちながら焦りを滲ませながら心配してくる。
「コッチは大丈夫だ。 そんな事よりも巨人の弱点を見つけなけばジリ貧だぞ!」
「損にゃの百も承知してる! ……弱点…背中のヘドロ状の呪いに賭けるしかにゃい!」
確かに巨人はやたらと背中を見せずに正面を向いて戦おうとしている……賭けるしか無いか!!
「コンフェ! 俺が正面から相手取るから任せるぞぉッ!」
「合点承知の助にゃぁっ」
《過剰出力排出弁全閉鎖。 制御棒全開放します》
身体の出力を限界まで底上げし、シールドで全てを限界まで斬撃を受け止めてエンフォーサーをシグレに持ち替えて散弾をマガジンが空になるまで奴の関節部に撃ち込み、コンフェが回り込める様に動きを止める為に撃ち尽くしながら肉薄する。
そして奴が超接近した私に向かって両手の大剣の連撃を放つ、それと同時にマデューラに持ち替えて全力で往なす。
《機体ダメージ深刻。 シールド許容負荷残量10%》
往なす事の出来なかった攻撃が生まれる度に装甲とシールドが抉られていく。
流石に死が頭を過った時だった。
「これでくたばれにゃぁァァァァァァ!!!!」
改造した斧槍を大きく振り被りながら冷却装置が融解しかける程に出力を上げたドラジェが地面を蹴り上げながら巨人の背中に肉薄する。
そして奴が見せたがらなかった背中のヘドロ状の呪いに青白い刃が叩き付けられる。
「■■■■□■□□□□!!」
巨人が聞き取れない声で叫び大剣による連撃が止まり蹌踉めいた隙を私達は逃さなかった。
「「これで決着だァァァァァァァァァッッ!!」」
私のマデューラが巨人の岩の様な首を刎ね飛ばし、ドラジェの斧槍が呪いごと背中から胸を貫いた。
首と呪いを喪った巨人は痙攣しながら灰になって二振りの大剣だけを残しこの世から消え失せた。
《コンフェ様! ヘラルド! 今、回収部隊がそちらに向かいます。 そのまま安静にしていて下さいっっ!!》
「な、何とかなったなコンフェ………(悔しいけど貴女は確かに彼の隣に立つ素養があったのね……)」
「にゃ、し……死ぬかと思ったニャ」
無常に突き刺さった大剣に先程まで重たく広がっていた雪曇が晴れ、後光が静かに私達の勝利を祝っていた。
然し私達の闘いは始まったばかりだった。
ヘラルドもコンフェにも選別の素養が確かに証明されたのだ。
【マグノリア】ハルカンドラ社製マグノリアパルスライフル。 連射性と威力のバランスが良いパルスライフルの一つ パルスエネルギーの揺らぎを相手にぶつけて内側から破壊する本銃は無数の呪縛者に抗う為に使用されたとされる兵器であり、生物でも無機物相手でも高い性能を発揮する。
【六連装プラズマミサイル】 ハルカンドラ社傘下のスカイリムズ社製のエネルギー系ミサイルであり 搭載した機体からのエネルギー供給によって自動的にミサイルが充填され、ロックオンした目標並びに周囲に高密度のプラズマエネルギー爆発を着弾時に発生させる。
【外部装着式シールド発生器】 ハルカンドラ社製の外部装着式のエネルギーシールド。 大型の防衛兵器の補助具として開発され、前方に展開されるシールドであり当然前方以外での防御効果は無い。
上手く正面で攻撃を受け止める事が出来るのなら高い防御効果を発揮するだろう。